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百八十八話 同盟を結びました!

 ランスビーの大群が襲来してから二日が経った。

 その間、恐れていた新たな襲撃はない。


 とはいえ、いつまたやってくるかは分からない。


 俺たちは新たな対策として、シェオール周辺の見回りの範囲を広げるというバリスの案を採用した。


 ただ、従来の帆船では心もとないので、魔動鎧が空中から見張ることになった。


 その際、マッパがワイバーン型の魔動鎧を作ってくれると提案してくれた。ワイバーンたちが乗るのに適した形で、空中を高速で移動できるようだ。


 これで、敵の襲来をいち早く察知できる。こちらの襲撃までの準備の時間も長くなるわけだ。


 俺は今、ワイバーンの魔動鎧が訓練のため、シェオールの上空を飛行するのを眺めていた。


 ワイバーンの魔導鎧は一瞬で水平線のほうへと消えてたと思うと、またすぐにシェオールへと戻ってきた。


「おお! 普通の魔動鎧より、圧倒的に速く飛べるな」

 

 隣で空を見上げていたリエナが頷く。


「アシュトンさんたちの鎧も相当速かったですが、それ以上ですね」

「ああ。まあ、アシュトンたちはコボルトだから、地上のほうが速く動けるんだろう。しかし壮観だな」


 巨大な鉄の翼の物体が、十体も編隊を成しているのだ。

 大陸の人間が見たらさぞ驚くことだろう。


 俺やシェオールの住民は、もうこういった未知の物に慣れてしまった感じはあるが……それでも魔物の子を中心に、皆空を見て目を輝かせている。


 左隣に立つアリッサも唖然としていた。


「こんなものをぽんぽんと作ってしまうとは……」

「俺も驚きだよ……まあ、あのマッパの力によるところが大きいかな。ところで、アランシアのほうは?」

「ありがたいことに、食糧はだいぶ安定してきている。冷凍の魚だけで、二日分の備蓄がある」

「そうか。魚はこれからも供給できるようにするよ。魔動鎧は?」

「鎧は昨日、十体の組み立てが終わったところだ。守り人たちに魔法を使える者を選抜してもらって、訓練も始めている。皆、鎧に乗っているせいか、魔法の威力も増大しているようだ。かくいう私も、あれに乗って練習させてもらっている」

「そうか。ひとまずは安心だな。あとは、襲撃のほうは?」

「今はまだ……だが、今までのペースからして、もう来てもおかしくない」

「そのときは、俺たちも味方する。安心してくれ」


 俺の言葉にリエナも頷く。


「大丈夫です。魔動鎧もありますし、今度も撃退できますよ」

「ありがとう……ヒール殿、リエナ殿。アランシアを代表して、シェオールの全ての人々に感謝申し上げる」


 アリッサは深く頭を下げた。


「どういたしまして。そういえば、帰りにあれを渡すはずだったんだが」」

「あれ、ですね……あっ、来ました!」


 リエナは空のある一点を指さして言った。


 そこにはヒースとガルダ、その後方に仲間となったランスビーが数体、こちらに向かって飛んできていた。

 彼らは皆、壺のようなものを抱えており、俺たちの近くで綺麗に並べる。


 壺の中身は二種類だ。蜜が入っているものと、世界樹の茶葉がはいっているもの。


 俺は壺の蓋を開けてアリッサに言う。


「前、蜂蜜入りの紅茶を美味しそうに飲んでいただろ? ランスビーも増えたから、蜜を作ってもらっていたんだ」

「魚ばかりで甘いものがなかったですからね。少しずつになりますが、皆さんでどうか召し上がってください」


 リエナが言うと、ヒースもガルダもアリッサにどうぞと上機嫌に壺を指す。自慢の出来なのだろう。


 アリッサはそれを見るとしばらく黙り込んでしまう。やがて、意を決したような顔で言う。


「ヒール殿たちと過ごして、この島に来て、あなたたちのことがよく分かった気がする。あなたたちは……」


 見返りを求めてはいない、と言いたいのだろう。


 俺たちが提供するものが、代価のキノコとは釣り合わないと思っているはずだ。


 確かに、ただキノコを手に入れるためだけなら、過剰に過ぎるかもしれない。


 俺は正直に答えることにした。


「そうだな……多分アリッサの思っている通りだ。俺たちももともと苦しい思いをしていたから、困っている相手を見捨てられないというか」

「自然と、助けたいと思ってしまうのですよね」


 リエナの言葉に俺はうんと頷く。


「アリッサも、そんな気持ちで安全な聖域を出たんだろ? つまり、俺たちも同じなんだ」

「ヒール殿……ふふ、そうだな。会った時から、どこか親しみを感じていた。必死に急いでやってきて、全力で助けてくれるあなたたちを、ただの交易目的の者たちとはとても思えなかった」

「頭より体が動くというか……まあ、似た者同士だったんだろう」


 俺の言葉に、アリッサは違いないと笑った。


「でも、俺たちも協力することで見返りは得られるはずなんだ。それについて……少し理解が追い付かないかもしれないが、俺の話を聞いてくれるか?」


 俺は予言のことをアリッサに告げた。そしてアランシアを侵すあの黒い雨と触手は、それの予兆なのではないかと。


 アリッサは難しい顔をして腕を組む。


「あの、蜂の大群を蝕んでいた黒い触手と、それから発せられた瘴気……あれもその予兆なのだとしたら」

「ああ。アランシアだけでなく、他の場所も同じような目に遭っているのかもしれない……というのが、俺の推測だ」

「その可能性は、高いだろうな。我らへの国の襲来の規模も大きいし、シェオールにもあの蜂の大群だ。他の国や大陸にあれが襲来していたとしたら」


 アリッサは俺の言葉を信じてくれたようだ。


 予言がどうこうなんて、普通は信じてくれない。まだ被害のない他の国の指導者が聞いても、鼻で笑われてしまうはずだ。


 だが、滅亡寸前だったアリッサたちだ。あのような襲撃を前にして、同じような目に遭っているのが自分たちだけとは言い切れないと考えたのだろう。


「だからこそ、各地であの黒い触手に対抗する必要があるんだ。情報を共有したり、資源や技術を援助し合って……アリッサとアランシアの人々にも、その輪に加わってほしい。シェオールに何かあったときや、他に困っている国があったら助けになってほしいんだ」


 一方的な援助というわけではない。

 シェオールはアランシアを助けるが、逆にシェオールに危機が迫ったらアランシアの人々に助けてもらうというわけだ。


 アリッサは迷わず、首を縦に振った。


「当然だ。微力だが、必ず助ける」

「いいのか? 皆に相談せず」

「誰も断るわけがない。我らにはあなたたちに、多大な恩があるからな。難しい言葉でいえば軍事同盟だろう? シェオールだけでなく他の国もそこに加わるなら、我らも心強い。よろしくお願いする」

「ありがとう、アリッサ。こちらこそよろしく頼む」


 俺たちは互いに握手を交わした。


 同じ敵を相手にした初めての同盟相手だ。シェオールにとってもアランシアにとっても、恩恵のある同盟になるだろう。


 だがその時、目の前にハイネスが瞬間移動してくる。


 持ち前の俊脚に転移石を組み合わせ、高速移動してきたようだ。


 ハイネスは跪くと、落ち着いた様子でこう告げた。


「ヒールの旦那。それと、アリッサの姉さん。アランシアに襲撃だ」

「もう来たか……アリッサ、行こう」

「ああ! あの魔動鎧で私も戦う!」


 俺たちはアランシアへと急ぐのだった。

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