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百八十七話 寄せ付けることにしました!

「大将、遠くまで見てきたが、特に異常はなかった!」


 シェオールの埠頭地区で魔動鎧を降りると、エレヴァンの声が響いた。


 エレヴァンは俺たちの隣に魔動鎧を停めたらしい。操縦室から降りて、俺たちのもとに向かってきている。

 

 スーツが筋骨隆々のその体をさらに強調しており、フーレはなんだか見てられないのか目を背けていた。


 ランスビーの大群を倒した後、俺たちはしばらくシェオール周辺の海上を偵察していた。


 その結果、特に異変なし。

 ランスビーのほとんどは、ヘルエクスプロージョンによって跡形もなく燃やされてしまったらしい。

 今もワイバーンの飛行隊が警戒しているが、特に何も報告はない。


 俺は近くまで走ってきたエレヴァンに頷く。


「ああ。俺も、シェオールから見て水平線までは見てきたし、しばらくは大丈夫だろう。それでも、警戒を続けておくことに越したことはない」

「そうしやしょう。魔動鎧もできたことだ。これからは、交代でシェオール周辺の空を見張らせます。船よりも早く異変を察知できるはずだ」

「そうしてくれるとありがたい。もっとも、さっきの魔力の濃さなら、俺やらリエナ、バリスがすぐ気が付けると思うが」


 それだけ、先程のランスビーたちの魔力は強い反応だった。


「でも、そんなやつらを一発でやっちまうんですから、やっぱ大将の魔法はすげえ」


 俺は首を横に振ってエレヴァンに答える。


「俺の魔法というよりは、魔動鎧のおかげだよ。とはいえ、やっぱりこの魔動鎧で色々魔法を試しておかないと……自分たちで島を破壊しないように」


 あまり乗り気じゃなかったが、しばらくは魔動鎧に慣れる時間も必要そうだ。


 そんな中、バリスとタコの魔物──軍師のアリエスが俺たちのもとに駆け付ける。


「ヒール殿! 姫たちもお怪我などはないようですな」

「ああ、問題ない。ところで、さっきの大群だが」

「ワシもすぐにピンときました。そして、地下に保管してあった触手を見にいったところ」


 バリスは瓶を腰に提げていた瓶を俺に見せる。

 中には、以前、ガルダに巣くっていた黒い触手が暴れまわっていた。


 フーレがそれを見て、ぞっとした顔で言う。


「いつ見てもなんか嫌な感じ……というか、滅茶苦茶暴れてない?」


 その声を聞いて、アリエスは俺に元気よく報告する。


「陛下、僕が毎日、こいつを地下都市の研究室で観察してました! 一昨日ぐらいから急に暴れ出したんですが、徐々に動きが激しくなっておりまして!」


 アリエスには、バリスの相談役として地下都市の整備を任せていた。

 最近は地下都市を見にいってないが、色々と開発も進んでいるのだろう。


 しかしそんなアリエスに、フーレが鋭い指摘を送る。


「なんで、異常を伝えないのさ」

「そ、それは……別に触手がくねくねするのって、普通……じゃん?」

「いや、そりゃあんたはタコだからそう思うかもしれないけど……」


 そんな中、リエナは触手を見て呟く。


「もしかして……仲間を呼んでいたのでしょうか?」

「そ、その可能性は捨てきれないと思います! もちろん、今までもこのシェオールには色々な大群の襲来があったわけですし、関係ない可能性もありますが!」


 アリエスの言葉に、エレヴァンがすぐ答える。


「ともかく、危険なやつならさっさとやっちまおう! これ以上、島に危険な奴らを呼び込まねえように!」


 エレヴァンの言うことはもっともだ。

 もしこの触手が、仲間──あんな奴らを大量に呼び込んでいるのなら、危険極まりない。


 回復魔法に弱いし、エルトの教えてくれたような強力な魔法には弱いことは分かっている。これ以上、研究して分かることも少なそうだが……


「──でも、裏を返せばこいつがいるから、この島にあの黒い触手が集まってくるかもしれないってことだよな」


 俺の言葉に、リエナとバリスははっとした顔をするが、エレヴァンは首を傾げた。


「? ええ。なんで、やっぱりこいつは生かしておくわけには」

 

 フーレが首を振って言う。


「そうじゃなくて、お父さん。あんなのが、別の場所に行ったらどうなると思う?」

「そりゃあ、お前……うちにはヒールの大将や魔動鎧があるからいいが、なかったらあのアランシアみたいに、なっちまうだろうな──そうか」


 エレヴァンも俺の言わんとしていることに気づいたようだ。


「ああ。あのランスビーの大群を撃退できる国は、恐らく大陸のどこにもないだろう。ヘルエクスプロージョンを教えくれたエルトだってきっと苦戦するはずだ」


 大量のドラゴンがいるエルト大陸でも、あの数の、しかも触手によって魔力を増しているランスビーを撃退するのは難しいはずだ。


「別に外のやつらがどうなったって、構いやしない……いや、俺たちの嫌な奴らだけが死ぬわけじゃない」


 エレヴァンの言葉にリエナが頷く。


「また同じような襲来があったら、私たちしか倒せないでしょうしね」

「ああ、エルトたちドラゴンやアモリスの商人ベルファルトみたいに、交流のある他の大陸のやつらにも危害が及ぶかもしれない。だから、この触手は生かしておこう」


 つまるところは、シェオールに危険な敵を引き寄せ、それを倒していこうというわけだ。


 予言の世界が終わるという言葉が本当だとしたら、少しでもそれを遅らせることができるかもしれない。他の国や大陸が、あのアランシアのようにならなくて済むかもしれないのだ。

 それができるのだから、見て見ぬふりはできない。


 皆も俺の案に、首を縦に振ってくれた。

 だが、エレヴァンとバリスは少し不安そうであった。


 だがその時、シェオール沿岸の海中から、それなりに強力な魔力の反応を感じ取る。


 それはすぐに海を出て、シェオールの埠頭へと飛び出してきた。海中には、まだ触手に蝕まれたランスビーの生き残りがいたようだ。


「蜂だ! やれ!!」


 すでに埠頭には警備の兵がいたので、皆クロスボウや弓を射かけようとする。


「待て! あれは魔法でないと倒しにくい!」


 そう言って俺はすぐに魔法を撃とうとした。


 だがどこからともなく現れた小さな白い鳥が、ランスビーに向かい、まばゆい光を放った。


「あれは……メル!」


 俺はすぐに駆けつけるが、すでにランスビーはぐったりと地上に横たわっていた。

 代わりに、小さな鳥──メルが長い銀髪の女の子になって現れる。


「ごめんなさい、お父さん! 地下都市で遊んでたら、遅くなっちゃった!」


 バリスが隣に来て言う。


「黒い空と聞いてから、きっと黒い触手のことかと思いましたので、メルを呼んでおいたのです」


 メルは以前、光を発してガルダの触手を取り払ってくれた。恐らく、回復魔法と同じ効果がある光を発することができるのだ。


 事実、倒れたランスビーからも触手がすっかり消えている。


 フーレはメルの後ろに立つと、その頭を撫でながら立つ。


「この通り、メルもいるし大丈夫でしょ! あとは私たちが回復魔法をどうにかして学べば、あんなのが何体来たって撃退できるって! 魔動鎧もあるし、お父さんもいるし。ね?」


 その言葉に、不安そうな顔をしていたエレヴァンは首を振る。


「……ああ! 何が来たって、俺たちが撃退してやる。今までもずっとこうしてきたんだ」

「ええ。我らには、そのための力がある」


 バリスもそう言って頷いてくれた。


 俺はメルに向かって言う。


「メル、これからリルや皆と遊んでいるときに呼ぶかもしれないが……」

「大丈夫! 私たちも皆のためになりたいし! それにリルちゃんも協力してくれるから! ほら!」


 白い子犬──リルが飛び出してきたと思うと、咥えていた縄で倒れたランスビーをぐるぐる巻きにした。


「リルちゃん! お手柄!」

「メルもすごい! ちょっとずるいけど……!」


 リルも短い銀髪の少女に姿を変えると、少し不満そうに答えた。


 魔法の使い手だった母親ノイアのことを考えると、リルも相当な魔法の使い手になるはずなんだがな。


「二人とも。お父さんとお母さんからの大事なお願い、しっかり聞くんだよ?」


 フーレはニヤニヤとそんなことを言った。

 俺とリエナが顔を真っ赤にする中、リルとメルは「はーい!」と元気よく返す。


 そんな中、エレヴァンはランスビーを見て言う。


「しかし、こいつはどうしやす? たしか、危険なやつですぜ。森で結構な数の仲間が殺されてますんで」

「ゴブリンたちも襲われていたか。こいつはランスビーという魔物でな。人間も相当、手を焼いていた」

「なら、やっちまいましょう。とても、食える場所はなさそうですが」


 そんな中、また別の種の蜂の魔物であるヒースとガルダがやってくる。


「ヒース。やっぱり、お前たちとは違うみたいだな」


 俺の言葉に、ヒースは首を縦に振る。

 しかし、まるで自分たちに任せてくれないかと、前脚をランスビーに向けた。


「仲間にできるのか?」


 ヒースとガルダはこくりと頷いた。


「そういうことなら、二人に一任するよ。ただ、落ち着いたらテイムさせてくれ……あっ」


 俺は、埠頭にまた触手に蝕まれたランスビーの生き残りが現れたことに気が付く。


 しかし、すかさずメルが光を発して地上へ落とす。そこを、リルが捕縛してくれた。


 任せておいてと手を振る二人。まだ生き残りが来るだろうが、ランスビーの残党はあの二人に任せるとしよう。


 その後もランスビーが三十体ほど現れた。

 彼らはメルによって触手を取り払われた後、しばらく地下牢に入れられたが、ヒースたちが時間をかけて説得してくれたので島の仲間となってくれるのだった。

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