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百八十五話 デジャブでした!?

「い、いったい、何が」


 アリッサは何が起きたか分からない様子だった。

 平和にしか見えないシェオールが急に騒がしくなったのだから、驚くのも無理はない。


 だが、俺には北から波のように迫る魔力が、はっきりと見える。


 先ほどまで赤面していたリエナも、同じく魔力が見えたのか真面目な顔を俺に向ける。


「ヒール様、この感じは」

「ああ。また、だ」


 絶海にぽつりと浮かぶシェオールだが、不思議なことに今まで幾度となく、多数の生物の群れがやってきてる。カニの魔物シザークラブ、バッタの魔物デビルホッパーなど、海や空を覆うような数だった。


 その時と同じ規模の何かが今、北から迫っているのだ。


 ただし、魔力の強さは今までで一番だ。相当遠くにいるはずなのに、ひしひしと魔力が伝わってくる。


 もちろん今回やってくる相手が敵対的とは限らない。平和的で話せる相手ならいいのだが。


「ともかく、島の皆を避難させよう。俺は……鎧で様子を見てくる」


 俺は目の前に立つ魔動鎧を見て、そう呟いた。


 もともと理由を付けて乗らないつもりだったが、偵察に行かないわけにもいかない。魔動鎧は空を飛べるのだから、こういう時こそ役に立つ。


 フーレが声を上げた。


「よし! じゃあ、私と姫も乗せて!」

「仕方がない……アリッサ。君はとりあえず地下へ。何が起きてるかは、また後に説明する」

「わ、分かった。だが、くれぐれも気を付けてくれよ」


 俺はアリッサの声に頷き、目の前の魔動鎧へ乗り込むことにした。


 俺が魔力を送ると、魔動鎧は膝をつき手を地面に差し出す。その手は俺とリエナ、フーレを乗せ、そのまま胸部の操縦室へと上げていった。


 操縦室に乗り込む俺たち。

 中は球形の空間で何があるわけでもない。


「そうか。最初のと違って、椅子も装置もないんだよな」


 この空間で自分が動くことで、魔導鎧もその動きを再現してくれる──とマッパは俺に伝えた。つまりは、本当に鎧のようなもの。


 胸部が閉まると、早速操縦室の球形の壁に外の景色が映る。


「よし。このまま空を飛ぶぞ。二人とも、揺れるかもしれないから気を付けてくれ」

「はい!」

「了解! 出発!」


 リエナとフーレは俺の両隣でそう言った。


 それから俺は、風魔法を地面に放ち空中へ飛ぶ。


 外ではおおと声を上げるアリッサの姿が見えた。彼女とシェオールがだいぶ小さく見えるぐらいまで上昇したので、そのまま北へと進んでいく。


「おお! 高い! 面白そうだね!」


 フーレとリエナは興味深そうに周囲を眺める。


 一方の俺はまっすぐ前を見ている。下を見れば、恐怖でバランスを崩す恐れがある……まあ、さすがに慣れたけど。


 それに頑丈なヒヒイロカネが使われているということが、俺を安心させているのかもしれない。


「しかしまあ……こんな巨大な鉄の塊が空を飛ぶなんてな」

「本当にマッパさんの技術にはいつも驚かされますね」


 リエナの言う通り、マッパの作るものは信じられないものばかりだ。


「頑丈だし、本当にもう怖い物なしだね!」


 フーレの声に、俺は「ああ」と返す。


 魔動鎧のあるなし関係なく、もとからシェオールの防備は完ぺきと思っていた。


 だが何度も北から迫る魔力に、俺は不安を覚えている。


 予言の危機が迫っているのかもしれない──


 そんなことを考えていると、早速前方に黒い空が見えた。

 鎧の中からも伝わってくるが、幾千もの羽音が響いているようだ。


 そして何より……とても暑苦しい。思わず周囲に氷魔法を発生させるぐらい、操縦室の中が暑くなっていた。


「この暑さ……一体、何者なんだ──あれは!?」


 目の前の光景に思わず声を上げてしまった。

 見覚えがあるから尚更、驚いた。

 アランシアに迫っていたアンデッドが纏っていた黒い瘴気と同じものが、シェオールに迫っていたのだ。


「あれは……蜂!? もしかして、ヒースさんやガルダさんの」


 リエナが言うように、瘴気の中には巨大な蜂のような生き物がいた。


 この島にやってきたヒースとガルダも蜂の魔物だった。

 しかし、目の前の者たちはヒースたちと形が違って見える。ヒースたちがミツバチのような姿をしているなら、彼らはもっと細身のスズメバチのようだった。


 あれは見覚えがある。ランスビーという蜂の魔物。

 サンファレス王国とその周辺国でもよく知られた魔物で、普段は高地に住まい、狩りの際に人里に降りてくる。農産物と家畜はもちろん、人間をも根こそぎ食べてしまう獰猛な雑食の魔物だ。


 尻についた騎士のランスのような針からは、頑丈で鋭いだけでなく強力な麻痺毒も出てくる。


 また、集団で集まり翅を動かすことで、周囲に高熱を発することもできた。この暑さは、あの翅のせいだろう。毒の効かない相手にはあの熱で弱らせるのだ。


 数体で連携して狩りに来るので、王国軍の守備隊も苦戦していた。


 そんなただでさえ恐ろしいランスビーが、少なくとも千体以上……更に悪いことに、彼らの体の至る所が黒い触手に蝕まれていた。


 フーレが思い出したように言う。


「あの黒いの……ガルダに付いてたやつと一緒じゃない?」

「ああ。腹に蠢いていた触手だろう」


 ガルダはこの島に来た時、彼ら同様黒い触手に蝕まれていたのだ。

 彼らの触手からは、ガルダの時と同様、すごい魔力を感じる。


「ガルダさんはここに来る前、黒い空の中で気を失ったと私たちに伝えてました。もしや」


 リエナの言葉に俺は頷く。


「ああ。ガルダは彼らの中に取り込まれていたのかもしれないな……ともかく、この状況はまずい」


 もともとランスビーは話が通じる相手ではない。

 ここは戦うしかないだろう。


「二人とも、一度攻撃してみる。揺れるかもしれないから気を付けてくれ」

「私たちもヒール様に魔力を供給いたします」


 リエナの声に俺は頷き、両手をランスビーの大軍に向ける。

 

 あの大軍の前に油断はできない。ここは、エルトに教えてもらった強力な魔法で先制攻撃だ。


「──ヘル、エクスプロージョン」


 俺が唱えると、魔動鎧の両手から赤い光が放たれるのだった。

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