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百八十四話 配備しました!

 シェオールとアランシアの交流が始まってから三日が経った。


 その間、シェオールではキノコ栽培場の拡大と魔動鎧の製造が進められていた。アランシアへ供給する魚も十分に獲れ、輸送も順調だ。


 今はシェオールに来たアリッサと今後のことについて話しているところだ。


 宮殿前広場に立つ魔動鎧を見上げながら、俺はアリッサに言う。


「アランシアへの魔動鎧だが、今、シェオールで製造した部品を運ばせている。組み立てはあっちで行うみたいだ。マッパが言うには、シェオールの設備じゃないと生産が難しいらしくてな……」

「十分ありがたい。それに我が国の民を弟子入りさせてくれるとは」


 アリッサの言う通り、アランシアの民衆十数名がマッパの工房に弟子入りしている。


 皆、マッパの風貌から厳しく指導されると恐れていたようだが、マッパは決して声を上げたりしない。


 身振り手振りで上手くアランシアの人々に鍛冶の技術を教えているようだ。


「彼らが技術を習得してくれれば、向こうでも魔動鎧を作りやすくなるな……心配なのは材料か」


 魔動鎧の製造には魔吸晶が不可欠。装甲は鉄でも構わないが、やはり強度を考えるとヒヒイロカネ──は贅沢だとしても、オリハルコンやミスリルが好ましい。


 それらの素材は今まですべて人工物を崩すことで手に入れてきた。

 つまり知る限りで天然の鉱床はない。


 蓄えはそれなりにあるが鉱床探しも進めるべきかもしれない。


 シェオールからエルト大陸の途中で鉱床が見つかる可能性もあるが、シエルに聞いてシェオール周辺で見つけるのもいいし、アランシアの周辺を探してもいい。

 アランシアはドワーフが近くに都市を築くぐらいだし、何かしら希少な金属の鉱床があるはずだ。


 アリッサが俺に言う。


「我らも材料を確保できるなら、恩返しをさせてくれ」

「ありがとう。状況が落ち着いたら、周辺を探索させてくれると助かる。それと、これは少し先の話になりそうだが……アランシアの自然を取り戻せるかもしれない」

「し、自然を? ははは、ヒール殿。さすがにあなた方でも」


 アリッサは一度笑ったが、すぐに額から汗を流して訊ねてくる。


「……そんなことができるので?」

「ああ。エルト大陸という大陸があって、そこに常緑石という石が山ほど埋まっているみたいなんだ。それがあれば、緑を蘇らせられるはず……まあまずはエルト大陸自体の緑化が先だろうけど、なんとか少しだけでも分けてもらえないか頼んでみるよ」

「か、感謝する。もちろん、代価は用意するつもりだ」


 俺がアリッサに頷くと、海から帰ってきた魔動鎧が続々と広場に着地した。

 全部で十体ほど。そのうちの一体から降りてきたのは守り人のヴァネッサだった。


「殿下。来られていたのですね」

「あ、ああ。しかし、だいぶ変わった服を着てるな」


 アリッサはヴァネッサの格好を見て、少し困惑するような顔をする。


 無理もない。全身タイツに近い格好なのだから。ただ最初のものより、局部や関節部などに簡単な装甲が付けられており、そこまで卑猥には思えない。


 この服は動きやすい服ということで、俺はサンファレス王国の農民が着るような服、スーツと名付けることにした。


 しかしヴァネッサは恥じらうことなく答えた。


「このスーツ、とても着心地がいいんです! むしろ普段着でもいいぐらいに!」


 タランたちケイブスパイダーの糸を使っているだけあって、着心地もなかなかいいようだ。


 まあ俺は着ないけどね……


 だが、島の魔物たちはもともとあまり服装を気にしないことあって、あのスーツを着て恥じらう様子は見えない。

 ハイネスやエレヴァンはもちろん、他の魔物たちも競うように魔動鎧に乗り込んでいる。


 単純に格好いいというだけではなく、あの鎧を着ることで魔法を使えるようになるのが面白いのだろう。


 糸を提供するタランも、すでに自分のスーツだけは作っている。さすがのマッパでも蜘蛛型の鎧は時間が掛かると言ったようだが。逆にスライム型の製造は三十分もかかってない。


 ヴァネッサは頬を染めるアリッサに言う。


「最初は恥ずかしかったですが、だんだん慣れるものですよ。殿下もお召しになってはいかがですか?」

「わ、私は遠慮しとくよ。鎧は興味あるが……さすがに」


 体のラインが強調されるわけで、抵抗感はあるよな……俺もだ。


 不安がるアリッサに俺は伝える。


「まあ服は少しぐらい改造できるんじゃないかな。鎧自体も厳密に搭乗者と同じ形をしてるわけじゃないし、ある程度自由がきくはずだ」


 ゴブリンでも人間用の魔動鎧を動かせているし、人型なら人型は動かせるようだ。


 そんな中、突如後ろから高い声が響く。


「ふーん。その割にはヒール様、なかなか魔動鎧乗らないし、スーツも着ようとしないよね」


 振り返ると、そこにはフーレ──スーツを着たフーレがいた。


「やっ! 最初はどうかと思ったけど、私も乗りたくなっちゃってさ」

「そ、そうだったか。ああいう巨大なものを動かすのは楽しいぞ」


 俺は目を逸らしながら答えた。


 いつものように元気なフーレ……だが、いつもの作業服やふわっとしたエプロンドレスとは違い、体に密着したスーツを着ている。


 ヴァネッサと違い見慣れているフーレだからこそ、何だか恥ずかしい。


 そんな俺を茶化すように、フーレが俺の顔をニヤニヤと覗き込んでくる。


「あれれ? ヒール様、どうして顔真っ赤なの?」

「べ、別に……ちょっと、周囲が暑いなって」


 俺がそんなことを言うと、アリッサは真面目な顔で呟く。


「そう言われてみれば、なんだか暑くなってきたような」

「アリッサさん、ヒール様に合わせなくてもいいのに優しいね……ま、顔が赤いのはヒール様だけじゃないんだけど」


 フーレが振り向いた先には、スーツを着た長い黒髪の美女──リエナがいた。


 リエナは顔を真っ赤にして俺を見ていた。


「リエナまで?」

「私が誘ったんだよ。だって、この島で魔法がすごいのって、ヒール様の次は姫でしょ?」

「そ、それはそうだけど……というか、俺やリエナは別にスーツがなくても」

「余裕ってこと? でもスーツを着たほうが、鎧は上手く動かせるんだよ?」


 着ないと戦力が落ちるとフーレは言いたいようだ。

 それに関しては何も言い返せない……スーツがなくても余裕とは言えない。


「……俺も作ってもらっておくよ」

「ま、それはマッパに頼むとして、ヒール様も一緒に乗って! 私たち操作方法教えてもらいたいんだよね」

「教えるほど複雑じゃないと思うし、それにエレヴァンに教えてもらえば……」

「あんな狭い場所でお父さんと一緒なんてやだ! 絶対に暑苦しいって! そもそもお父さんの鎧は」


 フーレが目を向ける先には、そこには照り輝く筋肉のような胸板を持つ鎧があった。重厚な兜と鎧を被ったエレヴァンのような姿をしている。あれがエレヴァンの魔動鎧で間違いない。


「うへえ……見るだけで暑苦しくなってきた」


 フーレは額から流れる汗を拭った。


 エレヴァンの魔導鎧の隣には、アシュトン・ハイネス兄弟のものであろうコボルト型もあった。こちらは形が直線的で格好良く見える。モデルの二人同様、素早そうな見た目だ。


「兄弟たちに頼んだら?」

「二人は今、アランシアなんだよ。向こうで兵士の訓練をしているみたい。だからヒール様、いいでしょ?」


 フーレは俺の腕に手を伸ばして、ねだるように言った。


「わ、わかったよ……だけど、今日は日を改めないか? なんというか、相当暑くなって……うん?」


 俺は異常な熱気だけでなく、北から迫る魔力の波に気が付く。


「これは──まずいっ! 何かがやってくる! 鐘を鳴らせ!」


 俺の声に、近くの鐘楼で立っていた見張りのゴブリンが鐘を鳴らす。それからすぐ街中の鐘が鳴り響くのだった。

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