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十八話 すっごい道具ができちゃいました!

「あいつ……何やってるんだ?」


 マッパは、ゴーレムの持っていた銀色の剣を両手で掲げて喜ぶ。

 やがては剣に頬を摺り寄せたり、口づけし始めた。

 鎧の方にも興味があるみたいで、ぺろりと舐めたり、ごんごんと叩いて音を聞いている。


 フーレがそれを引き気味で見ていると、マッパは銀の剣を持ってこの石室から出ていくのであった。


 フーレは一言呟く。


「……というかあの人、なんでまだ上着着ないの。人間って、皆ああなの?」

「いや、少数派だよ……まあ、あの方が楽なんだろ。しかし、どうしてあんなにはしゃいでたんだ?」


 マッパが洞窟をうろつくのは、別に初めてではない。

 鉱物を勝手に持ち去るのも、よく目にする。


 だが、あれだけはしゃぐのは初めて見た。


 そうさせるだけの何かが、この剣や鎧に在るのかもしれないが……


 俺はまだ残っている白銀の剣の柄を掴み、持ち上げようとする。

 しかし、


「な、なんだこれ……全然持ち上がらない!」


 ううっと力を込め、両手で持ち上げようとするもびくともしない。


 フーレも「自分も!」と手伝ってくれるが、微動だにしなかった。


 剣の長さは、確かに3mと長い。

 しかし、長さの割には剣身は薄く細く、少しぐらいは動かせると思ったのだが……


「とにかく回収してみるよ」


 だが、


≪現在の【洞窟王】のランクでは、鉱物以外の物、または採掘で得られた物以外は回収できません≫


 助言者がそう解説してくれた。

 そうか、これは鉱物じゃないし、採掘で手に入った物じゃない。


 だが、裏を返せば採掘で手に入れればいいのだ。


 俺は剣と鎧をそれぞれピッケルで叩いた。

 すると、剣と鎧は砕け、インベントリに自動回収される。


 壊すのは惜しかったが、まだ剣も鎧も五セットほどある。

 何でできてるか確認するぐらいいいだろ。


 すると、剣も鎧も同じ素材でできていることが分かった。


 ……ミスリル? 名前だけなら聞いたことがあるぞ……

 確か、神話上にでてくるドワーフや、今もどこかの大陸にいるとされるエルフが好んで使う鉱石だ。


 うん? ドワーフ?

 そういえばドワーフって、小柄で髭もじゃって話だよな……


 もしや、マッパは人間ではなく、ドワーフか?


 いやでも、俺の知ってるドワーフは高潔で頑強で……

 人間の何倍もの腕力と未知の技術を持っている、なんだかとてもすごい種族だ。


 あれ……前者はともかく、腕力と技術の特徴は被らないか?


 でも、神話の種族が裸を好む種族とは思えない……いや、思いたくない。


 助言者がミスリルについて解説してくれる。


≪ミスリル……鋼より軽く、丈夫。魔法効果をエンチャントできる≫


 鋼より硬くて軽い、魔法の効果もつけられるか……

 魔導石も大概だが、とんでもない素材だな……


 今までミスリルは、この洞窟では採れなかった。

 とすると、どこか遠くで掘られたり、造られたものなのだろうか。


 だがそんなことよりも、どうして鋼より軽いのに持ち上がらない?


 俺は回収したミスリルの数を確認する。


 ミスリルインゴット×900……つまり、剣と鎧一式だけで×900のミスリルインゴットが使われていたってことか。


 インベントリのインゴット1個は、1㎏。

 それが900個だから、900㎏……

 剣が何㎏かは分からないが、100㎏以上あるのは確定だろう。


 しかし、とてもじゃないがそれだけのインゴットが、使われているようには見えない。

 古代の技術とやらで、圧縮されてるとでも言うのだろうか?


 というより、そんなものを軽々持ち上げていたマッパ、何者…… 

 

「とりあえず、マッパの様子を見に行ってみるか。皆の採掘も中断させちゃったし」

「うん!」


 俺はフーレと共に、ゴーレムの残骸から偽心石と魔導石を入手する。

 鎧と剣は、ひとまず置いとくとしよう。

 そうして俺たちは、洞窟の外まで向かうのであった。


 洞窟の外に出ると、なんだか皆集まって騒がしかった。


 それを心配そうに見つめる黒髪の美女リエナに、俺は事情を尋ねる。


「何か有ったのか?」

「あ、ヒール様! それがマッパさんが持ってきた剣で、皆騒いでて……」

「なるほど……皆、剣を持ちあげようとしてるのか」

「はい。とても重いようなのですが、皆マッパさんが持ち上げられるのが悔しいようで……なんだか危ない気がします」

「そうだな。でも、持ち上げられるとは到底思えないけど……」


 俺は近寄り、魔物が集まる中央を見る。

 すると、ケイブスパイダーのタランが四本の腕で、マッパが持ってきたミスリルの剣を持ちあげようとしていた。


 マッパはというと、鼻歌交じりに炉の火加減を調整している。


 踏ん張るタランだが、やはりびくともしない。

 剣を放した途端、その巨体がすっ転んでしまう。 


 周りのゴブリンやケイブスパイダーがへとへとに倒れているのを見るに、やはり誰もあの剣を持ちあげられなかったようだ。


 ゴブリンはともかく、タランなら持ち上げられると思ったんだが……


 それを見ていた大柄なゴブリンのエレヴァンが、右腕を鳴らすように回す。


「へ、どいつもこいつも情けない! あのマッパができたんだ、見てろ! こんな剣、俺でも扱える!!」


 エレヴァンはそう言って、ミスリルの剣に手を掛ける。

 

「うおおおおお!! ……って、おかしいな……うおおおおおお!!」


 しかし、その蛮声もむなしく、剣は全く持ち上がらない。


「はあ、はあっ……ちくしょお、あんなマッパに持ち上げられて、この俺が持てないだと……?」

「将軍、もうおやめください! 持ち上げられたとしても、ずっとは持てません。危険です!」

 

 老齢のゴブリンであるバリスが、息を切らすエレヴァンを諫める。


 だが、エレヴァンの目は何かを見つけたようだ。

 どうやら、俺の隣にいるフーレに気が付いたらしい。


 子供の前で情けない姿は見せたくないのだろう……エレヴァンは今一度顔を真っ赤にして、剣を握る。


「うおおおおおおっおおおおお!!!」


 掛け声とともに、エレヴァンは剣を一気に天高く掲げた。


「おお!!」


 俺も周りの者たちも、歓声を上げる。

 まさか、あの剣を一人で持ち上げるとは……


「さすが、将軍!! 【大戦士】の紋章を持つだけあるぜ!!」


 ゴブリンの一体がそんなことを言った。


 エレヴァンはどうやら紋章を持っていたらしい。

 というか、魔物も紋章を持てるんだな……

 とすると、リエナやバリスも何かしらの紋章を持っているのかもしれない。


 【大戦士】……サンファレス王国の王族や貴族にもこれを持つ者はいた。

 確か、腕力を大幅に上昇させる紋章。

 また一時的にだが、凄まじい腕力を得ることができた。


 エレヴァンは誇るように叫ぶ。


「しゃああああっ! どうだ?! ……あっ!」


 エレヴァンは勢い余って、手から剣を滑り落としてしまう。

 

「まずい! ……ウィンド!!」


 俺は剣の落下が遅くなるように、風魔法を放った。


 しかし、剣の柄はエレヴァンの頭に、ゆっくりだが当たってしまった。

 剣身は当たらずに、地面に落ちていったが。


「将軍!!」


 バリスを始めとするゴブリンたちは、エレヴァンに近寄る。

 そして誰よりも早く、フーレが駆け寄った。


「お父さんっ! お父さんっ!!」


 フーレが涙声でエレヴァンを揺さぶるも、返事はない。


 ウィンドで勢いは殺したとはいえ、あの重さだ。

 頭の骨にひびが入っていてもおかしくない。 

 俺はエレヴァンの近くに行き、すぐに回復魔法を掛けた。


 必要なら亀石も……

 

 だが、その心配はなかった。

 軽傷だったようで、エレヴァンはうっと息を吹き返す。


「あ……大将。もしかして俺、また助けてもらっちゃいましたか? ……申し訳ございやせん」

「いや、俺も止めなかったのが悪かったよ。だが、今度から危ない真似は……」 


 俺は言葉の途中で、フーレがエレヴァンに抱き着いて泣いているのに気が付く。


「……馬鹿……お父さんの馬鹿! なんでいつも無茶しちゃうの?! お父さんがいなくなったら、私もう……」

「わ、悪い、フーレ……悪かったよ……だから、そんな泣かないでくれ……」


 エレヴァンは困った顔で、フーレを力強く抱き寄せる。


 なんとなく、フーレが強くなりたい理由が分かった気がした。

 あまり詮索はしたくないが、エレヴァンの妻がここにいないことも考えると、家族はこの二人だけなのだろう。


 フーレはそんなたった一人の家族を、自分の手で守れるようになりたいのかもしれない。


 エレヴァンはフーレの言葉に、もう十分反省してるはずだ。

 俺はこれ以上、何も言わなかった。


 というか、問題はこんな剣を軽々と持ってきたあの男に……


 俺はマッパの方を見た。

 すると、マッパはもうミスリルの剣を炉に入れていたのだ。


 どうやら、あの剣を溶かすらしく、金槌で叩いていく。

 そして見る見るうちに、剣は一つの塊になって……

 その一部を、更なる何かへと金槌で形を整えていく。


 マッパはその何かができたのか、会心の出来だと言わんばかりに口づけした。

 そしてそれを、俺に差し出す。


「これは……ピッケルか?」


 頭も柄も銀色に輝いたピッケル。

 恐らくはミスリルだけで作られたピッケルなのだろう。


 だが、俺に持てるだろうか?


 俺は恐る恐る、マッパからミスリルのピッケルを受け取った。


「なんだこれは……」


 ……軽い。

 いや、軽いなんてものじゃない。木の枝でも持っているような感覚だ。


 あまりマッパの隣にあるミスリルの塊が減っていないのを見ると、ほんの少しだけしかミスリルを使ってないのかもしれないが……


 マッパは俺に、どや顔を見せつける。


 悔しいが、こいつは本物だ……

 人間離れした腕力と、技術力。

 神話上の種族ドワーフの特徴そのものだ。


 裸が好きという記述はなかったような気がするけども……


 その後も、マッパは悠々とピッケルや斧、ナイフとミスリル製の道具を作っていくのであった。

 おかげで作業効率はさらに上がり、皆の疲労も軽減される。

 

 そして今まで甘く見られていたマッパは、なんだかよく分からないし関わりたくないけど、とりあえずはすごい人と認めてもらえるようになるのであった。

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