百七十八話 乗り込みました!?
「な、なんだこの巨大な像は!?」
オーガスたちアランシアの守り人は唖然とした口をして、突如立ち上がったドワーフの像を見上げた。
大きい……確かに大きいが、俺たちシェオール勢からするとそこまでの驚きもない。
巨大なだけなら、リヴァイアサンやジャイアントオクトパスなど、規格外の大きさの生き物を今までもこの目にしてきたからだ。
そして振り返ると、そこにはへへんと自慢気な顔のマッパが。
しかし俺たちの反応が薄いのを見て、あれと首を傾げる。
「これを見せたかったのか? マッパ……俺たちを見くびりすぎやしないか?」
フーレもうんうんと頷く。
「もったいぶった割には全然すごくないからね。そもそも格好良くないし」
マッパはそれならと、装置を再び弄りだす。
すると、鎧ががちゃがちゃと外れ、ドワーフ型ゴーレムの金色の肌が露になる。毛の一本まで精巧に再現されていた。
守り人のヴァネッサとカルラは顔を抑えるので、シエルが何かを察したのかすぐさま装置を弄りなおす。
間一髪。ドワーフのパンツにあたる部分を残して、鎧が剥がれるのは止まった。
「むしろ格好悪くなったんだけど……というか、こんな機能いる?」
呆れた顔のフーレに、マッパはがくんと肩を落とした。
「無駄なところがすごいっていうか……というかこれ、芸術品ってやつか?」
腕を組んで言うハイネスの隣で、アシュトンが呟く。
「王族ならさもありなん。堅くて優れているとしても、でかい必要も人型である必要もないだろうからな」
冷静な指摘に、マッパは立つ瀬がないようだった。
俺はそんなマッパをフォローするように言う。
「ま、まあまあ。きっとこれもあのヒヒイロカネが使われているんだろう。それなら、アランシア防衛の戦力としては心強いはずだ」
でかさは正義、とまでは言わないが、これほどの巨大な物体が味方してくれるとなれば、アランシアの人々も心強いだろう。実際に頑丈なのは疑いないし。
マッパはそう話す俺に、ありがとうと言わんばかりに頭をこくこくと下げた。
しかしそんな中、次第にがしゃんがしゃんという音が近づいてくるのに気が付く。
「この音……あいつらに気づかれたんじゃ」
フーレの言う通り気づかれたのだろう。
これだけ大きな物体が現れたのだから無理もない。都市中からこの巨大ゴーレムを見ることができるはずだ。
「おい、マッパ。ここまでもったいぶったんだから、こいつは戦えるんだよな?」
ハイネスの声に、マッパは任せとけと胸を張った。
再び装置を弄り、巨大ゴーレムに膝をつかせる。
巨大ゴーレムは俺たちに手を差し出した。
俺たちを肩なり手に乗せてくれるのかと思った。
しかし、突如ゴーレムの胸の部分が開いた。
「と、扉が? 中に外の装置と同じようなものが見えるぞ」
オーガスの言う通り、胸の中には椅子が二つと取っ手や突起のついた装置が見えた。
「まさか、これに乗って戦うの!?」
フーレの言葉に、マッパは正解と言わんばかりに親指を突き上げる。
マッパはゴーレムの手を介して中の椅子に座ると、俺に手招きした。
「まさか……俺に乗れと? お、俺じゃなくても、誰か乗りたいやつがいれば」
「マッパのおっさんの中だと思うと、なんかなー」
フーレは微妙そうな顔で言った。
早くしろとマッパは手を早く振る。
ここにゴーレムが迫っている以上、迷ってはいられないか。
俺はなんとなく高い場所に行くんだろうなという不安を覚えつつ、マッパの後ろの椅子に座った。
「わ、分かった。皆、行ってくるよ」
俺はマッパの後ろの椅子に座る。
目の前で開いていた引き戸式の扉がガシャンと閉まると、金色の壁に外の光景が映し出された。
「こ、これは!? 外の景色を映しているのか?」
マッパはうんと頷くと、取っ手をがちゃがちゃと弄る。
するとゴーレムが立ったのか、フーレたちがいる場所がどんどんと下に見えるようになった。
「すごい景色だ……まさか、自分がゴーレムの中に乗るなんてな」
視界が急に開け、都市が一望できるようになる。結構な高さだ。でも、これぐらいならまだ世界樹とかで慣れているから大丈夫だ。
だがそんな時、都市中から無数の飛行物体が迫ってくる。
あれは先ほど俺も倒した飛行型のゴーレムだ。
また街路には赤い光を灯したゴーレムたちもこちらに向かってきていた。
「マッパ、そういえばこいつに武器はあるのか?」
マッパは俺に手を前に出すように促す。
俺は言われるがまま手を出した。
何をするっていうんだ?
そんなことを思っていると、何となくマッパのやろうとしていることがつかめてきた。
「まさか……魔法が撃てるのか?」
俺の言葉にマッパうんうんと頷く。
言われてみると、この巨大ゴーレムの全身には結構な魔力が纏わりついていることに気が付く。
俺に集まってくる魔力を、このゴーレムが吸収している……それになんだか。
体が人型だからだろうか、まるで自分の体がそのまま大きくなったかのような錯覚を覚えた。
このゴーレムに宿る魔力を俺が操れば……
だがヒヒイロカネの装甲を持つ彼らに魔法はあまり有効ではない。
しかしこの巨体の集める魔力があれば、無力化はできるだろう。
俺はゴーレムの体に集まる魔力を使い、風魔法を前方に思いっきり放つよう念じてみた。
その瞬間、前方から迫ってきたゴーレムがまるで塵のように、はるか遠くへと吹き飛ばされていった。
「な、なんて威力だ!」
自分が使うよりも間違いなく強力な風魔法だった。
「まさか、人型である意味って」
マッパはうんうんと頷く。
「より、多くの魔力を集められるってことか……よし、これなら」
俺はさらに多くの魔力を使って、ゴーレムの周囲に風魔法を起こしてみる。
それはやがて竜巻のような渦を巻きながら、周囲のゴーレムとアンデッドを巻き込んでいった。
「ただのウインドだぞ!?」
俺は自分の放った魔法が低位魔法であることを確認する。
目の前では、まるで高位の風属性の魔法で生み出せるような竜巻が起きているのだ。
足元のフーレたちが大丈夫か確認すると、皆感嘆するようにこのゴーレムを見上げている。
「皆は大丈夫だな……よし!」
俺は風で巻き上げたゴーレムたちを都市の外へと吹き飛ばしていく。周辺にこちらへ向かってくるゴーレムやアンデッドは見えない。
これで壊れるようなゴーレムではないだろうが、しばらくは時間が稼げるだろう。それに飛行型はともかく、人型はあの崖と壁を上がれないはずだ。
しかし、ゴーレムにこんな使い方があったなんて。
まさか自分が乗り込んで戦うとは。
自分でも知らない内に、俺はよく分からない興奮を覚えていた。
「マッパ……」
マッパが俺の声に振り向く。
「これ、格好いいな!」
マッパはそうだろと言わんばかりに頷くと、俺と拳を突き合わせた。
謎のテンションのまま、気が付けば俺はこのゴーレムで様々な魔法を試しているのだった。