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百七十七話 王族でした!?

「よく掘れるね、これ!」


 ヒヒイロカネのピッケルでどんどん壁を掘っていくフーレ。


「ああ、このヒヒイロカネも悪くないな」


 持った感じはミスリルよりも重く感じる。

 闇属性の魔法に強いらしくもしかしたらミスリルよりも頑丈かもしれない。


 だが、採掘のしやすさに関しては軽いミスリルに軍配が上がるかな。


 とはいえ【洞窟王】の能力のおかげでそこまで差は感じないが。


 タランやアシュトン、ハイネスらも手伝ってくれているため、道というよりは休憩室を横に拡張するように広がっている。

 もう少しで、先程の玉座のあった神殿の地下になるだろう。


 一方で俺たちの後ろのオーガスたちは顔を青ざめさせている。


「し、信じられん……」

「魔法は信じられたけどこれはいったい」


 ヴァネッサの問いに俺は答える。


「むしろ、これが俺の本職というか……さっき言った紋章がこれだよ。俺の紋章【洞窟王】は地下空間で力を発揮して、こうして採掘が上手くなる」


 俺の言葉にカルラは震え声で訊ねる。


「ま、魔法じゃないんですか?」

「そうだ。魔力は少しも使っていない」

「そ、そうなんですね。掘るって言うので、一日とかもっとかけて掘るんだと思ってましたけど……」


 カルラの声にヴァネッサが頷く。


「まるでモグラの魔物が土を掘るようね……紋章。すごい力だわ」

「もしかしたら、ヴァネッサさんたちやアランシアの人たちにもあるかもしれない。バリスなら皆の紋章も鑑定できるだろうし、鑑定の仕方も教えてくれるはずだ」

「そしたら、私たちにも何か隠された力があるかもしれないわけね」

「そういうことだな」


 ヴァネッサたちはなんだか嬉しそうな顔をする。

 そんなものがあるならもっと早く知りたかったのだろう。


 だが俺としては少し複雑な思いだ。

 紋章は人を豊かにするのは間違いないが、人の価値を決めてしまう。

 紋章で人が区別されてしまうのだ──俺の故郷王国のように。


 そうならないようアランシアの人々に伝える必要があるだろう。

 とりわけアランシアの王女アリッサには警告しておきたいところだ。


 しばらくして俺はピッケルを振るう手を止めた。


「……距離的にそろそろあの神殿の奥の地下まで来たと思う」


 俺が言うとアシュトンが頷く。


「歩幅と歩数からしても間違いなく、あの神殿の奥かと」

「え? そんなの計ってたの?」


 フーレの声にハイネスが言う。


「兄貴はそういうとこやけに細かいんだ。方角とかもちゃんと記憶しているし、迷ったことないんだぜ」


 ふふんとアシュトンは少し誇らしそうだ。


「ってことは、この上で間違いなさそうだな。それじゃあ皆、ここからは俺だけが上に向かって掘る。フーレは俺の前方にシールドを、他の皆も警戒しておいてくれ。またあのゴーレムがいないとも限らないからな」


 皆が頷くのを見て、俺は早速階段状に上へと掘ることにした。


 ただ、上のほうに魔力の反応は特にない。

 ゴーレムに襲われる心配はなさそうだ。


 一方で神殿の外のほうは相変わらず大小の人型の魔力が徘徊しているようだった。

 スケルトンとゴーレムたちだろう。


 だが、やけに動きが速いような……

 それに遠くのほうで魔力がぐるぐると動いているのが分かる。


 もしかしてまた何か装置が動いているのかも?


 俺は後ろのマッパに振り返る。

 しかしマッパはずっと眠ったまま立っている。


 なーんか怪しいんだよな……

 いびきも大げさというか不自然だし、さすがのマッパでも本当に寝ていたら鍛冶はできないだろうし。


 まあマッパは俺たちを害するようなことは決してしない。

 今は気になっている神殿の奥を調べるとしよう。


 そんなことを考えながら、俺が掘った先に光が漏れだす。


「ま、眩しい……」


 俺は目を細めながら、人が通れるように出口を掘る。

 そこから金ぴかの床に上がると、ようやく目が慣れて内部の様子が見えてきた。


「こ、これは……」


 天井も壁も金色なのはこの都市ならどこでも同じ。

 だがおかしな点が一つ。

 奥側のガラスの壁の向こうに、巨大な人の頭を模した金ぴかの像が見えた。

 その周囲には、台の上に見慣れない金属板やガラス板、取っ手などがある。

 

 周囲のはおそらく装置だろう。シェオールの地下でも似たようなものが見えた。

 何かを起動したりする装置だ。


 だがあの奥のあれはなんだ……いや、あれは?

 

「なんかあの顔……ちょっとマッパのおっさんに似てない!?」


 フーレの言う通り、頭の像はマッパの顔に似ていた。

 縮れた長い髪、もじゃもじゃのひげ。

 まあ、ドワーフは皆、そんな風貌だけど……


 でも今目を閉じているマッパの目元とこの像の目元はほぼ同じ。

 少し違うのは、像のほうは老人のような皺がいくらか見えることだろうか。


 察するにこの像は……


 アシュトンが推理するように言う。


「これほどの神殿の奥にある像……恐らくはこの都市の王やそれに準ずる者を模ったのだろうな」

「ってことは、マッパはこの国の王ってことか!?」


 ハイネスは驚くような声を上げ、マッパに振り返った。


 しかしマッパは目を開けることなく、顔を装置のほうに向けている。

 詮索せず、装置を弄れってことかな。


 俺はハイネスに顔を向けると、首を横に振る。


「ゴーレムが言うにはマッパはこの都市から追放されたわけで、王が追放されたとは考えにくい。子供だから統治者たる資格なしと政変が起きた可能性もあるけど」

「まあ確かに統治者が全裸だったら色々問題起きそうだよね……」


 フーレは微妙そうな顔で言った。


 アシュトンは頷く。


「政変の可能性は少ないでしょうな。それよりもあの像の皺を見るに、像のモデルとなった者がマッパ殿の親類であると考える方が自然でしょう。そして……マッパ殿は追放されてしまった」

 

 先ほどゴーレムはマッパを見て追放者と言っていた。

 

 この像のモデルの人物に、マッパは追放されたのかな?

 もしかしたらマッパの父親だったりして……

 そう考えるとなんだか俺と被って複雑だ。


 でもマッパほどの男が何故追放されたのだろう。

 マッパはとても有能だったはずだ。


 そもそもこの都市にいたドワーフたちはどこに?

 ドワーフ自体はかつてシェオールの地下にも種族として存在していた。

 この都市から出で世界に散らばったのかもしれないが、この都市の頑丈さを見るに放棄する理由が見つからない。


 マッパは何か知っている可能性がありそうだが……


 ともかく俺は装置のほうに向かった。


 目前で見ると、像は思いのほか精巧だった。

 神聖さを感じる……というよりは不気味なほど肌の質感なり産毛なりが再現されている。


「しかし、この装置も複雑だな……どこを押せばいいのか。シエル、分かるか?」


 俺の声にスライムのシエルが装置に飛び乗る。


 シエルは少し悩んだ挙句、ある四角い突起を押してみた。


 すると突如赤い光が点灯し、警報がけたたましく鳴り響く。


 言葉は分からないが、それが危険を警告しているのだと分かる音だった。


 神殿の天井は開かれ空が見えるようになると、像が徐々に上がっていき、やがて胴体と手足を露にする。


「こ、これは!?」


 現れたのはシェオールのマッパゴーレムよりも高い、巨大なドワーフの像だった……ちゃんと鎧を着た。

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