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百七十二話 故郷でした!?

「おい、マッパの兄貴、どこに行く!!」


 ハイネスは走りながらそう叫んだ。狼の遠吠えのような、よく通る声で。


 だが、はるか先を金属製の馬で駆けるマッパは脇目も振らず進んでいく。

 それを追うアンデッドは次第に引き離されていくので、それ自体は良いことなのだが。


「ああ、速い! というか、私もあれ欲しい! 待ってよ、マッパのおっさん!」


 フーレはそんなことを叫ぶ。


「疲れ知らずの馬か……確かに興味はあるが」


 アシュトンは少し悔しそうにマッパの乗り物を見て言った。まさか自分の足で追いつけないとはと悔やんでいるのだろう。


 マッパならあの金属製の馬を作れてもおかしくはない。

 狭いシェオールには単に不要と思っただけか、あるいは材料がなくて作れなかったのか。

 そもそも、マッパがどこかから拾っただけの可能性もあるが。


「あっても島じゃ走らせる場所がねえよ。それにしてもなんて速さだ……さすがの俺も」


 そう答えたハイネスは珍しく汗を流していた。

 他のケイブスパイダーたちも同様に少し疲れた様子だ。


「皆、無理はするな。少なくとも、アンデッドはもう追いつけないだろう」


 俺はそう答えたが、マッパの向かう先に何の危険があるかもわからない。

 ハイネスたちは少しも速度を落とさず走った。


 皆、マッパが心配なのだ。

 マッパの島での働きどうこうではなく、例えマッパ以外でも皆は必死になっただろう。


 しかしこちらがいくら追っても追いつかない。

 そんなとき、マッパが向かう先に視界の端から端に広がる長大な崖が見えた。


 守り人のオーガスがその城壁のような崖を指さす。


「あちらが、古代の神殿のある谷、ゼンランバラです! 中央の神殿への最短ルートを知っています! あちらへ!」


 オーガスの指示す方向に、ケイブスパイダーたちは向かっていく。


 進んでいくと、そこには細い峡谷が。

 ここが古代神殿のある谷の入り口のようだ。


 俺は皆にシールドを展開しつつ、慎重に進んでいく。

 特に魔力の反応もなく、敵や罠の類はなさそうだ。

 俺たちが進む先には見慣れたマッパの魔力の形があるので、マッパも同じ場所に向かっているのは間違いない。


「ここ、なんだか……」


 フーレは峡谷の壁を見て、感嘆の声を漏らす。


 最初この峡谷に入った際は、普通の峡谷だった。岩でできており、落石が砕けたのか石が散乱していた。

 しかし奥に入っていくと、金属板で覆われた壁と床に気が付く。壁には扉のようなものも見えた。


 守り人のヴァネッサが言う。


「私たちが知る限りでは、ここは神殿に奉仕する者たちの家があったようです。ですが、その彼らが来る前から、ここは……」


 つまりは神殿同様、はるか昔に作られたということだろう。


 壁に掘られた紋様は俺の故国サンファレスでも全く知られていない様式だ。

 角ばった線が多いと思えば、写実的な花の絵があったりと、豊かな芸術手法に俺たちは目を奪われそうになる。


 だが同時に、俺はある男の顔が頭によぎった。


「マッパ……あいつも」


 マッパもやたら芸術のセンスに溢れていた。

 彫像や工芸品だけでなく、剣の柄やピッケルの形にもそれは見て取れた。


 そんなとき、フーレが呟く。


「ねえ、あれ……」


 フーレが見ていたのは、壁に掘られた像だ。

 その像は四肢が短い、ずんぐりとした体形の男を模っていた。

 しかも髪と髭が長く、もじゃもじゃだ。


「マッパのおっさんに似てない?」


 フーレの言う通りだった。


 次第にもっと多くの像が見えてくる。

 壁だけではなく、道の途中に立つ立体的な銅像まで、例外なくどれもマッパのような体型をしていた。


 ただ、マッパと違うのは皆、鎧や服を身にまとっている。裸の像は一つもない。


 しかしそれはマッパが特殊なだけだろう。うん、やっぱりマッパが変わっているだけなんだ。


 それでも、裸であることを除けばマッパは立派なドワーフに違いない。


「ああ。ドワーフの像ばかりだ……うん?」


 しばらくすると、開けた場所が見えてきた。


「ここは!」


 思わず声を上げてしまった。


 峡谷を抜けた先には、広大な盆地が広がっていたのだ。

 盆地と、その外壁である壁部分には、金色に輝く家が密集していた。

 そしてその中央には同じく金色の塔。その上に拳を上げて立つ、マッパのような男の像が見えた。


「ここは……間違いない、ここはドワーフの住処だ」


 ドワーフ、という生き物をサンファレスの人間は知っていた。

 モノ作りに長け、人間を超越する文明を築いていたと知られている。

 彼らは、恐らくオリハルコンのような金色の金属を好み、家もそれで作られていたとか。

 もちろん、ドワーフは神話の中の存在とされていて、その遺産を見つけた者はいなかったが。


 でも、マッパやシェオールの地下にスライムとして生き残ったドワーフを見た俺は、それがもはや神話の出来事ではなかったと断言できる。


 この都市は、間違いなくドワーフのものだ。


 驚くように都市を眺めていたアシュトンが呟く。


「もしかすると……ここはマッパ殿の故郷なのでは」

「可能性はあるな。とにかく、マッパの兄貴を追おう!」


 ハイネスの声に俺は頷く。


「ここにはアンデッドと思しき魔力の反応が無数にある」


 マッパは気にせず街を疾走しているようだが。

 守り人が言うのはここはもともと魔物が住んでいたということだし、他の魔力の反応はそれか、アンデッドだろう。

 いずれにせよ、歓迎されないはずだ。


 とすると、ここがもしマッパの故郷だったとして仲間のドワーフたちはすでに……


 なおさらマッパが心配だ。すぐに迎えに行かないと。


「皆、慎重に行くぞ」


 アシュトンたちは俺の声に頷き、声を返した。

 

「おう!」


 俺たちはマッパを追い、都市の中央へ向かうのだった。

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