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十七話 襲われました!!

「えい!!!」


 洞窟の中で、小さなゴブリンの声が木霊した。

 

 必死にピッケルを振るうこのゴブリンはフーレと言って、エレヴァンの子だ。

  

 フーレが欲しいのは、魔物を進化させる昇魔石。

 魔法を使えるような種族に進化したいというのだ。


 だが、この前手に入れた昇魔石は、ただ採掘して手に入ったわけじゃない。

 掘りあてたある場所……小さな神殿のような石室に安置されていたものだ。


 よく考えると、あの石室だけがぽつんと残っていたのは、少し違和感がある。

 もしかしたらこの地下には古代の遺跡が埋まっていて、あの石室はその一部だったりして……


 そんなことを思って、再びあの石室に他に何かないか調べた。

 しかし、遺物はおろか文字すら見当たらない。

 

 まあ何か書かれていたところで、古代の文字なんて読めないんだけど……


 俺にできるのは、こうしてピッケルを振り続けることだけ。


 そして俺は、ピッケルを振る度にフーレの視線を感じた。


 フーレは一度採掘を中断し、汗を拭う。


「……どうして、そんなに掘れるの? ヒール様って人間だよね?」

「ああ人間だよ。それも平凡……というよりはポンコツな人間かな」

「ふーん。でも、魔法もそうだけど、とても人間だとは思えないなあ」

「うん、冷静に考えれば俺もそう思うけどね……」


 俺の一振りで、3㎥の岩が一気に崩れるのだ。

 普通に考えれば、人間のなせる業じゃない。


 単調な採掘が退屈なのだろう、フーレは俺への質問を続ける。


「……ヒール様って、お父さんとかいないの?」

「俺? ああ、いたよ」

「……さぞかし、すごい人なんだろうね」

「確かにすごかったよ。父の持つ【覇王】の紋章は、自分の体術も魔法も、周りの味方の力さえも底上げできるから、戦争で負けたことはなかった」


 父だけじゃない。

 兄弟も皆、何かしら人をあっと言わせる紋章を持っていた。

 その中で、なんだかよく分からない【洞窟王】を持つ俺は、負い目を感じたものだ。


「へえ……なんだか、やばそう」


 フーレは渋い顔をする。

 恐らく、俺よりも俺の父が強いと認識しているのだろう。

 だが、魔法だけ見れば、今の俺は父を凌駕しているはずだ。

 

 そもそも、子より親が強いものだと思うのは、フーレの父エレヴァンの存在か。


 エレヴァンはこういってはなんだが、結構強かった。

 多分、俺が剣で戦えば、余裕で負ける。

 というか十人で掛かっても勝てないだろう。


「フーレはさ、お父さんよりも強くなりたいの?」

「え? 別に……」


 フーレは急に黙り込み、ピッケルの振りを速くする。 


 分かりやすい奴だな……


 だが、ただ父を超えたいがために、そんなに強くなりたいと願うものかな?

 俺の場合は、いかに父や兄弟が優れていても、それを打ち負かそうなんて考えもしなかった。


 ただ人並みになって、笑われないようにしようと思うだけで。


 今戻れば、俺は人並みどころか化け物のように思わるかもしれないが……

 むしろそれで済めばいいが、危険人物としてどこかに幽閉されかねない。


 まあ、俺はもうこの島で骨を埋めるつもりだから、べつに良いけど。


 そんなこんなで採掘を続けていると、後ろで岩が崩れる音が遠く響くのを感じた。


 振り返ると、フーレが驚いた顔をしている。

 どうやら、どこかしら広い空間を掘り当てたようだ。


「やった! 何かありそう!」


 フーレは輝石の松明を手に、その空間へ進む。

 俺もそれを追って中に入った。


 中は前見た石室の十倍は有ろう広さだった。

 そして巨大な人型がずらりと。

 

 この時点で俺は嫌な気がしたが、更に人型から魔力が動くのを感じた。


 魔力探知……膨大な魔力を持つ者が、自動的に覚えるスキル。

 それが反応したのだ。


「待て、フーレ!」

「え?」


 俺はすぐさま自分とフーレの周りに、無属性魔法であるシールドを展開する。


 このシールドは、あらゆる魔法や攻撃から身を守れる。

 だが、必ず防げるわけでも、ずっと防げるわけでもない。

 その防げる程度は、術者の魔力次第なのだ。


 シールドが展開するのと同時に、巨大な人型は火を噴射した。


 フーレは思わず、その威容に腰を抜かす。


 しかし、炎を打ち付けられるシールドが破れることはない。

 俺の魔力では頑丈に出来過ぎて、びくともしないようだ。


「大丈夫か、フーレ?!」

「だ、大丈夫……これぐらい別に!」


 強がるようにフーレは答える。

 だが、その足はがたがたと震えていた。


 怖いのは俺も一緒だ。

 魔力が増えて強さを増したとはいえ、周囲を巨大な人型に囲まれているのだ。

 

 この巨大な人型は……ゴーレムか。


 人型の正体はどうやらゴーレムのようだった。

 しかし、俺がドールとして作ったゴーレムは魔法が使えなかったはず……

 

 しかも、何体かは鎧のようなものを身に纏っていた。

 彼ら鎧のゴーレムは、俺たちに剣を振りかざして向かってくる。


 剣も防げるとは思うが……このままでは袋叩きだ。


 俺は周囲へ、風属性の魔法ストームを放つ。

 すると、ゴーレムたちは一瞬で大理石の壁に打ち付けられ、粉砕された。


「あ、あいつらなんなの?」

「多分、ゴーレムだな。立てるか?」


 腰が抜けたフーレに手を貸して、立つのを助ける。


「あ、ありがとう、ヒール様……」


 そう頭を下げるフーレは、どこか悔しそうであった。

 自分が何もできなかったと、唇を噛みしめる。


「あと、ごめんなさい。勝手に進んじゃって」

「いや、俺も不用心だったよ……」


 本当にフーレは悪くない。

 誰がこんな危険なゴーレムが地中にいると予想しようか?

 俺の注意不足でもある。


 これはちょっと、皆に自由に掘らせるのは危なそうだ。

 また、ここみたいな場所があったら、危険極まりない。

 俺は後ろにいたシエルに、採掘中止を皆に知らせるよう命じた。

  

 いくらかシエルに信号を覚えさせたのだが、スライムがバツ印を体で表した時は採掘中止の合図としてある。


 シエルはすぐさま移動した。

 とにかく、ここを調べてみるとしよう。


 俺はあたりを見渡す。

 どうやら、この石室は広い割にゴーレムの残骸以外、何もなかった。

 前の石室は祭壇のようなものがあったのに……


 仕方ないので、俺はゴーレムの残骸を調べることにした。

 全部で十数体はいたようだ。


 そしてどれももれなく、偽心石ハートストーンを持っており……


「ヒール様! この金色の石って、昇魔石?」


 フーレがあるゴーレムの残骸から、金色に光る石を持ってきた。


 以前祭壇にあった金色の石は、昇魔石だった。

 フーレにもそれを伝えていたのだが、確かに似ている。

 

「おお、どれどれ」


 俺はフーレが持つ石を助言者に説明させる。


≪魔導石……魔法を宿らせることができる。人形ドール作成にも使用可能≫


 とすると、あの魔法を使うゴーレムはこの魔導石が埋め込まれていたということか。

 それも誰かの手によって……


「うーん。これは違うみたいだな……」

「なーんだ……」


 肩を落とすフーレ。

 だが次の瞬間、その顔は青ざめる。


「う、うわああああああ!!!」


 突如悲鳴を上げるフーレの視線の先に、俺は振り向く。


「ど、どうした? ……うわあああ!! ……ってマッパか」


 そこには……腰巻だけのおっさんマッパがいた。


 だが、これは珍しくも何もない。

 マッパは光源も持たずよく洞窟をうろつくので、それを発見したゴブリンやケイブスパイダーの悲鳴が絶えなかった。


 ……いつの間に入ってきたんだ?


 マッパは、3mはあろうゴーレムの銀色の剣を軽々と持ち上げて喜ぶのであった。

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