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百六十七話 追っ払いました!

「アリッサ殿下と、他は人質として数名捕えよ! あとは殺して構わん!」


 隊長らしき男の声に、聖域の兵たちは武器を構え襲い掛かってきた。


「しゃらくせえ! 俺が全部相手してやる! うぉおりゃあっ!」


 エレヴァンは両手の斧で、兵たちを次々と薙ぎ払っていった。


 ゴーレムは兵たちを弄ぶかのようにつかみ上げたり、ゴブリンとコボルト、オークは連携して兵たちを気絶させていく。


 俺はそんなエレヴァンやシェオールの警備隊にシールドを展開した。


 彼らの今の実力を見たいのもあった。


 そんな中、アリッサは兵たちにやめろと叫ぶ。

 守り人たちも一緒に。

 当然、その声に従う兵は誰もいない。徹底抗戦の構えだ。


 しかし、エレヴァンらシェオールの警備隊は全く苦戦していない。

 他方、聖域の兵たちはどんどんと倒れていく。


 兵の隊長らしき男は、その光景に後ずさりした。


「くっ!? こいつら、なかなかやるぞ!?」

「へっ! まず、武器がちげえ! 大将が掘って、マッパの野郎が鍛えた武器だ! それにお前らの弱っちい腕じゃ、俺たちの子供ですら倒せねえぞ!」


 そう言ってエレヴァンは、一気の数名の兵を斧で吹き飛ばした。


「ひっ、ひぃっ! ぞ、増援を呼べ! この数ではとても勝てん!」


 隊長の声に、伝令らしき軽装の者が駆けていく。


 このままではまた兵士がやってくる。埒が明かない。


 あまり見せたくなかったが……


 俺は片手を天に向けた。


 エルトに教わった火の魔法ヘルエクスプロージョン……は強力すぎるので、普通にファイアーを放った。


 俺の上空に巨大な火柱が上がり、周囲に熱風を吹かせる。


「うわぁっ!? 火がっ!?」


 聖域の兵たちは狼狽える。


 すると、エレヴァンがこう叫んだ。


「おら! 死にたくなかったら、気絶した奴おぶってさっさと帰れ!」

「ひ、退けっ! とてもではないが勝てない!」


 隊長の声に、兵たちはたまらず門の付近から逃げていった。気絶した兵を運んで、塔の階段を急ぎ駆け下りていく。


 去っていく兵たちをしり目に、俺はエレヴァンに声をかけた。


「エレヴァン、怪我はないか?」

「この通りピンピンしてやす。他のやつらも無傷でさあ。まあ、あんなやつらに負けるやわな奴はシェオールにはいやせん」

「装備は良いが、実戦慣れはしていなかったようだな」


 まあ、単純にエレヴァンらシェオールの警備隊が強いからだと思うが。


 オリハルコンやミスリルの武具と、聖域の兵の鉄装備では差がありすぎる。

 それに俺たちは今までリヴァイアサンなど数々の魔物の襲来を戦い抜いてきた。実戦経験も豊富だ。


 そんな俺たちをアリッサと守り人たちは……遠くから恐る恐る俺を見ていた。


「あ、アリッサ?」

「ヒ、ヒール殿。城壁に見せたあの魔法といい……あなたはやはり人間では」

「君たちのいう人間と同じかは分からないが、少なくとも俺はただの人間だ。それよりも」


 俺が言うと、守り人のオーガスが頭を下げる。


「申し訳ない……王への報告に向かったのだが」

「ビリーヌ大公が出てきたってところか。状況はつかめた。俺たちの実力を知れば、次はもっと多くの兵を送ってくるかもしれないな」


 アリッサが俺に頷く。


「門の向こうの物資をいち早く調べ、自分たちのものにしたいのかもしれん……彼は強欲な男だ」

「だが、俺たちもいつまでも戦うわけにはいかない……アリッサ、そこで相談なんだが」

「相談?」

「彼が壁を築くなら、こちらも……聖域との間に壁を築きたい。高い壁を」

「そ、それは……」


 つまりは聖域側と外側で完全に袂を分かつということ。


 聞いていたオーガスがアリッサの前で跪いた。


「殿下。我らは殿下に従います。国民も皆、殿下に従うでしょう」


 同じく守り人のヴァネッサも頷く。


「すでに王家への人心は離れております。我らの指導者は、もはやあなたしかいません」

「二人とも……」


 アリッサは街のほうへ目を向ける。


 聖域の者たちはもはやこの国の民のことなど眼中にない。

 そんな中、アリッサだけは自ら聖域を出て、民と共に戦う道を選んだ。


 そして確実に言えることは、この国の民にとって聖域は不必要だということ。


 だから俺はアリッサに決断を迫ったのだ。


 決断すれば最後、アリッサはもう聖域には戻れなくなる。


 アリッサはやがて決心したような顔をすると、俺に頭を下げた。


「……ヒール殿。お願いする。聖域とは、縁を切る」

「よく言った、アリッサ」


 守り人たちもまた、アリッサの決断を支持するように頷いた。


「しかし、ヒール殿。石壁を作ると言っても、相当な時間がかかる。聖域の連中はそれを必死に妨害するだろうし、外からのアンデッドを防ぎながらではとても」


 アリッサの声に、エレヴァンはがははと笑う。


「大丈夫だ、姉ちゃん。うちのヒール様なら、一日かからねえ」

「さ、さすがにそれは無理だろう! そんな魔法は聞いたこともない」


 アリッサは馬鹿にされていると感じたのか少し怒ったような顔をするが、エレヴァンは「まあまあ見てろって」と返す。


 エレヴァンは周囲の警備隊に叫ぶ。


「お前らは引き続きここで警備しろ! 俺は大将を護衛する。さ、大将。ぱぱっと済ませちゃいましょう」

「ああ。岩は十分にある。すぐに築くとしよう」


 俺たちは再び聖域を目指すことにした。

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