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百六十四話 見どころのある人でした!

「まことに申し訳ございません! ご不快な思いをさせてしまいました!」


 アランシア王国の王女アリッサは俺たちに深く頭を下げた。


「いや、気にしないでくれ。俺の知る王族や貴族も……あんなのが多い。それより、何となくこの国の状態が分かった」


 俺が言うとリエナが頷く。


「ええ。王候貴族などの一部の人たちが自然や食料を独占してしまっている……」

「武器も城壁の兵士と比べて質がいい。あらゆるものがこの聖域に優先して使われているんだな。聖域での豪勢な生活を維持するために」


 この街の人口は三万人と、アリッサは言った。だがその際、三千人とも口にしようとした。その三千人は聖域の人間の数なのだろう。


 アリッサは俺の言葉に唇をかみしめる。


「お恥ずかしい話だが……仰る通りだ。それが我がアランシア神聖国の現状だ」


 現状を変えようにも、あの防備の前では何人いたって敵わない。

 民衆はこの状態に甘んじるしかないということか。


 先も言ったが、ルラットのような貴族は俺も見てきた。

 しかし国を動かす王がこれでは……


「アリッサの父上は、この状況を知っているのか?」

「老齢故、ここ数年の政務は、先のルラットの父ビリーヌ大公が取り仕切っている。私も父のことは、もう二年以上も見てない」

「では、ビリーヌ大公は?」

「知ってはいる……とはいえこの聖域の中と外は、同じ国であって同じ国ではないのだ。国民は納める税もない。だから聖域の王候貴族たちは、外の者を助ける必要がないと考えているのだ」


 アリッサは聖域を見て続ける。


「この聖域は、古代の遺物。我らアランシア王家の神聖な土地であり、どのような災厄に襲われようと、絶対に安全な場所とされている。今のまま人口を増やさなければ、永遠に生活が維持できるのだ」


 事実、柵には魔力の反応が見える。柵の中にも何かしらの防衛装置があるのかもしれない。


 俺はアリッサに訊ねる。


「つまり、外の街と城壁は飾りだと?」

「そういうことだ」

「なるほど……ルラットの住む世界が違うというのは、言いすぎじゃないってことか」


 だとしても、永遠にあの聖域の中だけで生きていけるのだろうか?


 なんとなくだが、俺は未来のシェオールと被る気がした。

 予言によれば、シェオールは世界の終わりでも難を逃れるとされている。

 

 俺たちはこの予言が本当かもしれないと、”シェオール”の領域を増やそうとしているのだ。エルト大陸とつなげようとか。


 だがこの予言が本当だとして、シェオールの人々まで難を逃れられるかは分からない。

 海に何かしら異常があれば、魚が取れなくなる。空が真っ暗になれば、植物も枯れるだろう。食料が持たなくなるかもしれない。


 来る日のために、もっと対策が必要になるかもしれないな……彼らの知恵にも学べそうだ。


「……しかし、アリッサは何故、そんな場所を抜け出したんだ? あの中にいれば、お前も」


 アリッサは深刻そうな顔で街のほうを見た。


「いても立ってもいられなかったんだ……柵の向こうから聞こえる涙に。私があの柵の中でケーキを口にしているとき、外では皆、味のしないキノコを分け合って食べていたんだ。食料が無理でも、私たちには立派な剣があるのに……」

「……ご立派ですね、アリッサさんは」


 リエナがそう言うと、アリッサは少し恥ずかしそうに首をぶんぶんと振る。


「私など、ずっと甘い環境で育てられてきた役立たずだ。それに……私が聖域から出た時、皆は私を大いに歓迎してくれたが……その皆の期待に、私は全く応えられていない」


 俺はリエナと顔を合わせる。


 聖域の人間にはこれ以上何を期待しても無駄だろう。俺たちが手を貸す必要もないし、貸したくもない。


 だがこのアリッサには協力したくなった。


「……アリッサ。城壁外の者たちは自分たちで、勝手に動けばいい。民衆を守ろうとしない王なんて不要だ。聖域が支援しないというなら、俺たちが手を貸す」


 アリッサは申し訳なさそう顔をする。


「ほ、本当にいいのか? だが、私たちが返せるものは……ここにはキノコしか」

「いいや、俺たちの島にキノコはない。なあ、リエナ?」

「ええ! シェオールには森出身の者も多いですし、キノコ料理を作れれば喜びます」


 リエナも俺の意見に同調してくれた。


「お二人とも……感謝する!」

「とにかく、一度島を見に来てくれ。そこで今後のことを話そうじゃないか」


 俺たちはアリッサと一緒に、一度シェオールに戻ることにした。


 一方、マッパを捜索するフーレと合流するため、タランは門の前で別れることになった。


 その際、アリッサが塔を守る兵士に俺たちの存在を教え、警戒しないよう伝えてくれた。


 だが、アランシアからシェオールへと戻ると、急に悲鳴が上がる。


「う、うわぁああああ!? ……あれ? た、大将たち?」


 そこにはきょとんとした顔のエレヴァンが武装した魔物たちと一緒にいた。コボルトのアシュトンとハイネスも一緒にいる。

 十五号が彼らを呼んでくれたようだ。


「皆、驚かせて悪いな……十五号、お疲れ」

「大将! この馬鹿でけえ門は一体……それに、そこの姉ちゃんは一体」


 視線を向けるエレヴァンに、アリッサは会釈する。


「アリッサと申す。ヒール殿に招かれてやってきた」

「そ、そうかい。ってことは、この向こうに人が住んでるんで?」


 エレヴァンの声に俺は頷く。


「ああ。だけど安心してくれ。彼らは魔物だからと、襲ったりはしない」

「皆さまのことは伝えてある。だから、安心してくれ」


 アリッサの声に、エレヴァンたちは持っている武器を収める。


「了解です。まあ、一応見張りは置かせてもらいやすが」

「ああ、それは頼む。互いに子供が行ったり来たりして迷うと大変だからな。そうだ、子供と言えば……アシュトン、ハイネス。頼みがあるんだが」


 俺の声に二人が躍り出た。


「なんでしょう、ヒール殿?」

「なんか、浮かない顔っすね」


 ハイネスの声に、俺はうんと頷く。


「マッパが見つからないんだ……後から俺たちを追ってきたんだが、城壁で戦っている間にいなくなってな」


 アシュトンが首を傾げた。


「ふむ……その、マッパ殿のことですし、すぐ見つかるのでは?」

「前の地下都市のときもそうでしたが、あいつ神出鬼没じゃないですか。普通にピンピンしてると思いやすぜ」


 ハイネスの言う通り、確かに心配はいらないかもしれないが……


「だが、いつまで経っても現れなかったんだ。マッパはまだ子供だ……あんな髭でもな。しかも見知らぬ土地だ」


 俺が不安を口にすると、アシュトンが深く頷いた。


「分かりました。マッパ殿は我がシェオールの象徴のようなもの、必ずや我らが見つけてきます」

「兄貴、今さらっと変なこと言わなかったか? まあ、俺もこの門の先がどうなっているか、気になるな」


 二人は声を揃えて「行きます」と頷く。


「悪いな、二人とも。今はフーレが探している。タランも探索に加わってくれているはずだ」

「了解しました。まずは、フーレ殿とタラン殿と合流します」

「任せてくだせえ。必ず俺と兄貴で見つけてきますよ!」


 二人はそう言うと、狼のように門へと飛び出ていった。


「よし、それじゃあ、俺たちは上に向かおう。エレヴァン。一応、守り人という門の番人が帰ってくるかもしれない。彼らには、俺がアリッサと共にシェオールに向かったと伝えてくれるか?」

「了解です。俺もちょっとだけ、門の外見てきますんで」


 エレヴァンの言葉に、リエナが念を押すように「くれぐれも頼みましたよ」と言った。


 こうして俺たちは、シェオールの上を目指すのだった。

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