表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/290

百六十二話 戦姫でした!

「何者だ?」


 長い黒髪をポニーテールにした女性は、俺に剣を向けて睨んだ。


「起きて! カルラさーん!」


 フーレが城壁の片隅で守り人のカルラを揺らすが、タランの空中移動で酔ったきり起きない。回復魔法も効いてないようだ。


 困ったな……

 カルラに事情を説明してもらうつもりだったが、この様子じゃしばらく起きない。


 とはいえ女性たちは皆、俺たちを異邦人とは認識しているようだ。


 とりあえず名乗って目的を告げるしかない。


「俺はヒール。シェオールという島の領主だ」


 皆、シェオールと言った瞬間、どよめく。

 知っているわけではなく、「どこだ、そこ?」という声が聞こえた。


 まあ知らなくても無理はない。もともと辺境の地だ。


 そもそも彼らがどこの大陸の人間かも分からないのだ。


 だから、有名なほうも使ってみる。


「それと一応、サンファレス王国出身だ……」


 しかし、皆首を傾げた。


 サンファレスも知らないか。

 シェオールは分からなくても、王国のほうなら名が通っていると思ったが。バーレオン大陸で王国のことを知らない人間はまずいない。


 ともかく、ここは王国のあるバーレオン大陸でないことはほぼ確実と言っていい。


「ここには交易のために来た。今は鉱石しか出せないが、俺の島は魚と茶葉が豊富に取れる」


 俺はインベントリから鉄のインゴッドを出してみた。


 すると、周囲の兵たちはさらにざわつきだす。


「て、鉄がいきなり現れた?」

「さっきの魔法といい、なんなんだ、こいつらは?」


 彼らは皆、信じられないといった顔で鉄と俺たちを見た。


 まずい……変に驚かせてしまったか?


 しかし、隊長と思しき黒髪の女性が口を開く。


「静まれ! 私たちと交易したいだと?」


 もちろんその気はある。

 だが困っているから助けようと思ったのが先だ。オーガスの救援要請に応えたかったのだ。

 

 しかし、それを馬鹿正直に言ってしまえば、却って不審がられるだけ。

 見返りを求めずに助けに来たなんて言えば、胡散臭く思われる。


「あ、ああ。鉄を使った武具もある。それに、この城壁に使うような石材もあるぞ。もちろん、食料だってある」

「食、料……?」


 女性は鋭い視線を俺たちに送った。


「さっき言ったように、まず島では魚がいっぱい獲れる。イワシのような小魚から、マグロみたいな大きい魚……あと、貝もとれる。ちょっと怖い感じのサタン貝とかも」


 俺の声に、女性のほうからじゅるりという音が聞こえた。同様に、兵士たちからも生唾を飲むような音が響く。


 女性は表情を正して続けた。


「ほ、他には……?」

「そ、そうだな。農作物も育ってきているが、すぐに出せるのはブドウぐらいかな。あとは、茶葉」

「ぶ、ブドウ……」


 ごくり、という音が女性から響く。

 口元には涎のようなものが見えた。


「そ、それと……あとはキラーバードの肉だな! あれは美味しい!」

「肉ぅっ!?」


 女性も兵士たちも、間抜けな声を発した。

 その顔は何だか獲物を狙う獣のようで、今にも襲ってきそうだ。


「と、とにかくそういった食材があるんだ! だから貿易について話し合わないか? もちろん、今はそんな状態でなさそうなのも分かっている! そこらへんも協力したい」

「ぜ、ぜひ」


 女性は口から溢れる涎を舌で拭くと、さっきまでのきりっとした顔つきに戻る。

 そして兵たちに任務に戻るよう叫ぶと、俺に頭を下げた。


「失礼をした。私はアランシア神聖国の第一王女アリッサ。どうか、先ほどまでのご無礼、お許しを」

「いや、俺たちもいきなり飛び込んで申し訳なかった」


 女性はアリッサという、この国の王族らしい。

 しかし、王族にしてはあまりに軽装な鎧だ。剣も粗末でそこらの兵士と変わらない。


 この国の状態を見るに、王族も贅沢はできないのだろうか。


 俺はアリッサに、自分たちのこと、門でのことを説明した。


「なるほど。沈黙の神殿に……オーガスが要請に応え、救援に駆けつけてきてくれたと」

「ああ。オーガスさんとヴァネッサさんは、王のもとに俺たちのことを報告すると」

「父上たちに……私も説明に行く。よろしければ、一緒に王宮までお越しいただけないか?」

「もともと、そうするつもりだった。だがマッパが……」


 マッパが消えてしまった。

 いつもは戦いが終わると、ひょっこりと現れるがどこにも見当たらない。城壁から落ちてもいないし……


「今度、腰に鈴でもつけておくかな……しかし困った」


 フーレが言う。


「私が見つけておくから行ってきなよ。このカルラさんも起こさなきゃだし。ヒール様たちを送ったら、タランは戻ってきてくれる?」


 タランはうんうんと体を縦に振る。


 するとリエナも口を開く。


「私も残ります。一人じゃ大変でしょうし……マッパさんを探すのは」

「確かに大変だけど、大丈夫。姫は食料のこととか、島で色々調整しなきゃいけないでしょ?」


 フーレの言う通り、島の食料の備蓄はリエナが把握している。いくら食料を分けられるかは、もうリエナしか分からないのだ。


 リエナは不安そうな顔をしながらも言う。


「そうですが……分かりました。では、アシュトンさんかハイネスさんに応援を頼みます」


 あのコボルトの兄弟なら、マッパもすぐに探り当てるだろう。

 なんならもう、一人で島に帰ってる可能性もある。


「了解。おっさん探しがてら、観光してくるよ。だから、行っといで」

「分かった。それじゃあ、頼んだぞ」


 俺たちはフーレにマッパの捜索を任せ、このアランシア神聖国の宮殿へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術大学をクビになった支援魔術師←こちらの作品もよろしくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ