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十六話 焼肉食べちゃいました!

「マッパあああああっ!!」


 俺が叫ぶ中、ゴブリンの一体が声を上げた。


「キラーバードだ!!」


 今俺たちの頭上を飛ぶ大きな鳥……キラーバードは鳥型の魔物だ。

 黒い翼と毛に鋭い立派なくちばし、そして人の背丈ほどの巨体が特徴の魔物である。

 

 俺も初めて見たが、噂に違わぬ相当な大きさだ。

 こいつらはサンファレス王国でも恐れられていた魔物だったので、存在は知っていた。


 キラーバードはサンファレス王国のあるバーレオン大陸が暖かい種まきの季節になると、南の大陸から海を越えやってくる。


 そして主に大陸沿岸の村から、家畜という家畜を食い尽くしてしまうことで知られていた。

 家畜に留まらず、人間の子供や小さな魔物も彼らの捕食の対象である。


 つまりは、ゴブリンも彼らにとっての食糧……


「皆!! 洞窟に戻れ!!」


 皆が空を見上げる中、俺は叫んだ。

 俺の声を待つまでもなく、ゴブリンの一部は洞窟に向かっていた。


 洞窟は目と鼻の先…… だが、ゴブリンの子供たちは少し遠い。


「お前ら、こっちだ!!」


 エレヴァンは両手に斧を持って、子供たちに向かう。


 だが、キラーバードどもが次々と子供たちに向け、急降下した。


「ファイア!!!」


 俺は炎属性の魔法で、キラーバードどもを焼き払う。

 だが、数体がまだ子供たちに向かった。


 しかし、残りも陸地に近づくなり、斧で切り殺される。

 やったのはエレヴァンだ。

 

 エレヴァンは次々と、キラーバードどもを斧で切り殺していく。

 そして注意を引くように一人、埋立地の中心に走った。


「うおおおおっ!!! お前ら、早く!!」

「将軍、危険です!!」


 リエナがそう言うも、エレヴァンは振り返らない。


 バリスが姫の手を引く。


「姫、将軍は我がベルダン族きっての大戦士! キラーバード程度、敵ではありません! ここは任せて我らは!」


 俺もそれに頷き、リエナに言う。


「エレヴァンは俺がどうにかする! 子供たちを早く洞窟に!」

「は、はい!」


 リエナとバリスは子供たちを洞窟に促す。

 ゴブリンたちは皆、洞窟に戻ることができたようだ。


 だが、このままではキラーバードに洞窟に入り込まれる恐れがある。

 穴を守る何かが必要だ。


 早速、新機能を試してみるか……

 

 俺はインベントリを開き、ドール作成を命ずる。

 たくさんある岩を使うと、ゴーレムというドールが作成できるらしい。


 鉄なども使えるようだが、今はただ盾になればいいだろう。

 それにキラーバードは基本、自分より体の大きな者を襲うことはない。

 いるだけで、文字通りの魔除けになるはずだ。

 

 すぐに俺は、高さ3mほどのゴーレムを作成する。

 光が弾けると、岩の体のゴーレムは俺の隣に現れた。

 

「ゴーレム、洞窟を守れ!」


 俺の命令に、ゴーレムは洞窟の穴を塞ぐように仁王立ちになった。

 

 ちゃんと俺の言葉を認識するようだ。

 これで洞窟は大丈夫だ。

 

 そういえば、マッパはどこに……あ。


 俺は、キラーバードがおええと嘔吐するところを見てしまった。

 その中には、べとべとになったマッパが……


 このままでは埋立地に落ちてしまい危ない。

 だが、スライムのシエルが落下地点に滑り込み、クッションとなってくれた。

 

 よし、大丈夫だな。


「エレヴァン!! 魔法で倒す!! 伏せてくれ!!」

「合点承知!!」


 返り血で真っ赤になったエレヴァンは、飛び込むように伏せた。


 俺はそれを確認して、氷属性の魔法を唱える。

 

「ブリザード!!!!」


 すると、俺の手から氷気が放射状に広がった。

 それはやがて吹雪のようになり、一瞬でキラーバードどもを凍り付かせる。


 かちんかちんとなったキラーバードどもが、次々と落ちてきた。

 俺は自分とエレヴァンを守るため、頭上にウィンドで風を吹かす。

 氷が堅いせいか、落ちてきても砕けることはない。


 わずかに残ったキラーバードはこれを見て、遠くへと逃げていくのであった。


 逃げてくれたか……


 洞窟から、一斉に歓喜の声が上がる。


 エレヴァンも立ち上がり、俺に駆け寄った。

 真っ赤な顔で笑いながら、斧を両手に持って……

 うん。正直、怖い。


「さすが大将! お見事でさあ!!」

「いや、エレヴァン。俺も見直したよ」


 さすがに将軍と言われるだけあって、エレヴァンの戦闘力は高かった。

 あんな小さな斧で、十体以上のキラーバードを倒したのだから。

 

 エレヴァンは「それほどでも」と、恥ずかしそうに俺の前で頭を掻いた。


「ヒール様、将軍、お怪我は?!」


 振り返ると、そこにはリエナが。

 その後をバリスやゴブリンが追う。


「ああ。俺は大丈夫だよ」

「良かった……ヒール様に何かあったら、私……」


 涙ぐむリエナ。 

 え? そんな心配してくれるの?

 素直に嬉しいが、何か恥ずかしい。


 俺は顔をエレヴァンに向ける。


「エレヴァンも……マッパもまあ大丈夫そうだな」


 べとべとになったマッパは、体からキラーバードの唾液を拭おうとしてる。

 どうやら丹念に体を舐め回されていたようだ……

 

 俺は少し吐き気を催すのを感じ、リエナに視線を戻す。


「さて、とんだ邪魔が入ったが……いや、とんだ食糧が手に入ったというべきか…… リエナ、キラーバードは食べられるよな?」

「もちろんです! 翼と足は鶏に似て、腹部は牛に、肩は豚と三獣の美味しいとこどりです!」

「へえ。そんな味なのか!」


 つまり、家畜がまるまる飛んできたということじゃないか!

 思わず、よだれが出そうになる。


「……それじゃあ、今日は焼肉といくか!」


 久々の肉とあってか、ゴブリンたちも「おう!」と一際元気な声を上げた。


 こうしてこの夜、俺たちは久々の肉に舌鼓を打つことになった。


 俺も干し肉はいくらか持ち込んでいたが、量は少なくすぐになくなってしまっていた。

 だから、肉なんてもう食べられないと思っていたが……今は食べきれない量の肉がある。


 倒したキラーバードは約80体。

 羽根をむしり、体を切り分けたが、放っておけば肉は腐る。


 だから、洞窟に一室設け、そこを氷魔法で凍らせて保管庫としてみた。

 肉は凍らせると、腐りが遅くなる。

 そこで冷凍した肉を保管すれば、しばらくは新鮮な肉を食べられるという算段だ。


 リエナたちが肉を焼き終えると、エレヴァンが骨付き肉を片手に言う。


「それじゃあ、我らが大将に感謝して、いただきますだ!!」

「いただきます!!」


 一斉に肉にガブリつくゴブリンたち。

 皆、久々に食べる肉に思わず顔を綻ばせる。


 マッパも、ケイブスパイダーのタランも肉を次々と口に運ぶ。

 どうやら、相当美味しいらしい。

 というより、匂いがもう旨い。


 俺の隣のリエナが言う。


「さあ、ヒール様も是非!」

「おう」


 リエナは不安そうに俺を見守る。

 美味しく焼けたか気になるのだろう。

 だが、匂いも見た目も素晴らしい……これで美味しくないわけがない。


 俺は早速骨付き肉を一口食べてみる。

 口の中で広がる脂と、甘味……


「……美味しい」

「ありがとうございます、ヒール様!」


 きゃっきゃっと喜ぶリエナ。

 だが、俺の方も思わず踊りたくなるぐらいに、気分が高まっている。


 ……やはり肉は旨い。

 キラーバードは長時間飛行することもあって、体に脂肪を多めに蓄えている。

 だからか、甘味もあるのだろう。


 こんなものがしばらく食べられるというのは、なんともありがたい。


 しかし同時に、キラーバードがまた襲いに来る可能性も有る。

 言い換えればいい食料源になるが……


 だが、俺がキラーバード討伐に付きっきりだと、採掘が進まない。


 どの道、ずっと見張っているわけにもいかないし、さっきのドールを案山子のように埋立地を警備させるか。


 キラーバードは、自分より巨体の敵は襲わない。

 いるだけでも、襲わせない効果が見込める。

 改造もできるようだし、一応何かしら飛び道具でもつけておこう。


 それに、バリスが言うには今後は弓を作らせて、昼夜交代の警備隊を組織するらしい。

 外敵はキラーバードだけじゃないかもしれない。

 確かに、警戒は必要だろう。


 俺は肉を食べながら、そんなことを考えていた。


 すると、目の前で俺を見つめる小さなゴブリンがいた。


「えっと……」


 誰かを思い出そうとすると、隣のリエナが教えてくれた。


「エレヴァン将軍の子”フ”……今はフーレです」


 そうだ、フーレ。

 テイムした際、”フ”からフーレに俺が名前を変えた。


「そうか。名前を覚えてないで、すまない。何か用か、フーレ?」

「……ねえ。どうして、そんなにヒール様は強いの? フーレのお父さんより強いなんて」


 俺の魔法を見てそう思ったのだろう。

 もともと、俺は水滴ほどの水しか出せない魔力しかなかった。

 それがこの島で大量のクリスタルを得て、膨大な魔力を使えるようになったのだ。


 今まで王宮で兄弟の魔法を見てきたが、正直言えば、俺はとっくに兄弟たちを凌駕していると思う。


 それも全て……


「そうだな……採掘のおかげかな」

「採掘? 本当にそれで強くなれるの?」

「ああ……いや、ゴブリンが魔法を使うには、まず昇魔石で進化する必要があるな」

「なら、フーレも進化したい! ……いたっ」

 

 フーレは言葉の途中で、エレヴァンに優しく頭を叩かれる。

 

「こおら、フーレ! 大将を困らせるんじゃねえぞ。それに大将と話すときは、敬語だ! 失礼だろ!」


 エレヴァンは俺に頭を下げ、フーレにもお辞儀をさせる。


「すいません、大将。こいつ、やたら強くなりたいなりたいってうるさくて。失礼しやした」

「いや、良いじゃないか。それに父であるお前に憧れてということだろう」


 エレヴァンは少し嬉しそうに「そうなのか?」と訊ねるが、フーレはふいっと顔を逸らす。


「フーレ。昇魔石が欲しいなら、俺も手伝おう。一緒に採掘するんだ。自分で手に入れたら好きにすればいい」

「ほ、本当ですか?」

「ああ」


 フーレはこうしちゃいられないと、俺から振り返る。

 そして満腹のマッパを無理やり起こし、鍛冶場へ連れていく。

 おそらく、ピッケルを作らせるのだろう。


 エレヴァンが焦るように訊ねた。


「い、いいんですかい? 昇魔石は貴重なものですぜ?」

「俺が手に入れたら、使いたいやつ同士でくじ引きをさせるつもりだが、自分で手に入れたらいいだろう」

「……大将は物に対する欲ってのないんですかい? この前も宝石をもってけだとか」


 言われてみれば、確かにこの島に来てから物に執着しなくなったなあ……

 採掘物が欲しいというよりは、採掘自体がしたいのだ。

 

「まあ、フーレが魔法を使えればやれることも増えるだろうし。 ……そうだ、魔法と言えば」


 俺はインベントリから、クリスタル×800を選択する。

 そしてそれを、首を傾げるリエナに使用した。


「ヒール様、何か?」

「いや、今、リエナにクリスタルを使ってみたんだよ。これで魔力が増えたはずだ」


 リエナは顔色を変えて、俺に訊ねる。


「わ、私にそんな貴重な物を?!」

「今言っただろう。魔法を使えるやつが増えれば、俺も助かる。さっきみたいなことが起きた時に俺がいなかったら、リエナが代わりに対処してほしいんだ」

「ヒール様…… 分かりました。より一層、魔法の習得に励み、必ずやヒール様のお役にたちます!」


 リエナは胸に手をやって、力強く答えてくれた。


 そもそもリエナは魔法の習得に熱心だった。

 魔力を増やせば、更に活躍してくれるだろう。


「うんうん、頼んだよ」


 俺一人じゃ、とてもあらゆる問題に対処できない。

 それに何より、俺はやはり採掘がしたいのだ。

 もちろん、こうして美味しい肉を食べたりもしたいが……


 リエナにはこれからも、クリスタルで魔力を増やしてもらう。

 俺ももう十分かと思うが、それでもクリスタルはこれからも使っていくつもりだ。


 埋立地ができて美味しい肉が手に入ったこの日は、次の年からシェオールの豊穣を願う祈年祭が行われるのであった。

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