百五十八話 外に繋がっていました!?
「に、人間!?」
俺は扉からでてきた者たちを見て、声を漏らした。
一方の、武器や杖を持った彼らも驚いた顔で声をあげる。
だが、何と言っているか全くわからない。人間なのは間違いないと思うが……
とにかくこのままでは、争いになってしまう。
彼らは武器を収めようとはせず、杖を持った者が青ざめた顔で他の二人に何かを訴えている。
それを聞いた老齢の男は剣をより強く握ると、俺に向けた。
「待て! 俺たちは争いは……いや、こういう時は」
俺は地下都市に豊富にあった石の一つ、翻訳石を取り出した。
アリエスが俺と会話するときに使っていた、言葉を訳してくれる便利な石だ。
今は地下都市から目覚めた帝国人と、島の者たちの意思疎通で使われている。
「俺はヒールだ! 戦う意思はない」
「な!? 急に我らの言葉を!?」
中央の老齢の男はまたも声を上げた。
剣を握る手はそのままこちらに向けて。
「この石で訳してるんだ。こっちは見ての通り丸腰。まずは剣を収めてくれないか?」
俺が言うと、老齢の男は少し困ったような顔をした。
だが隣の杖を持った女性が声を上げる。
「彼の魔力は膨大……油断はできません」
青髪の女性はまっすぐ俺を見つめて言った。
俺の魔力が分かるってことは魔法使いか。
確かに今の俺の魔力は膨大……警戒されても仕方がない。
そんなときリエナが言う。
「ヒール様……扉の向こうをご覧ください」
「扉の向こう? ……え」
最初は暗くて洞窟が続いているのかと思った。
だが違う。
閃光のようなものが見えた。真っ暗な空に走る稲妻だろう。恐らく外だ。
「こんな場所から……空が?」
俺たちがいる場所は地中。
海底の下のはずだ。
しかし目の前には外の世界が広がっている。
「シエル、これはいったい……なっ」
俺は扉の向こうに現れたドラゴンに気が付く。
黒い瘴気に包まれた黒い竜だ。
オレンが蘇らせたロペス、そしてこの島にやってきた巨大蜂ガルダに取り付いていた黒い触手……あの時感じた禍々しさを思わせる。
とてつもない魔力の竜に、俺はすぐに手をかざした。
俺の動きと視線に気が付いたのか、扉から入ってきた三人も振り返った。
「なっ!? ドラゴン級!?」
青髪の女性が杖を構えたときには遅かった。
竜は扉の向こうからこちらへ、黒い霧を吐き出していた。
「しまった! ……っ!?」
身をかがめた青髪の子と仲間だったが、黒い霧がまるでガラスにぶつかっているように阻まれていることに気が付く。
これは俺、そしてリエナとフーレが展開したシールドだ。
「リエナ、フーレ! シールドは任せた!」
「かしこまりました!」
「了解!」
リエナとフーレは頷くと手を前に向けた。
俺はシールドを解くと、手から極大の炎を発する。
炎獄の魔王エルトから教わったヘルエクスプロージョン……では威力が強過ぎるので、普通のファイアーだ。
俺の炎は竜に当たると、少しも勢いを失うことなくその巨体を空の彼方へと吹き飛ばしていった。
フーレとリエナが声を上げる。
「おお! さっすが、ヒール様! めっちゃ飛んだ!」
「お見事です、ヒール様! 前より炎が飛ぶようになりましたね!」
「エルトに炎の扱いを教わったからかな……えっと」
三人は口をポカンとさせ、扉の向こうの空を見つめているのだった。