百五十七話 開かれました!
「……ここは?」
漏れた言葉が、目の前に広がる金ぴかの空間にこだました。
今までもこういった神殿のような場所は存在した。
リエナが使った昇魔石、ゴーレムの核となる偽心石を手に入れた場所に似ている。
今までと違うのは壁と床、柱がオリハルコンで出来ているということか。
リエナは周囲をあちこち見渡しながら言った。
「なんでしょうか……ワインの貯蔵庫以上に、きらきらしてますね」
「ああ。節制を心がけていたシエルたちが作ったにしては、飾りが豪華だ」
俺たちは恐る恐る、この空間に足を踏み入れた。
壁や柱にはオリハルコンの像が彫られており、宝石が惜しげもなく使用されている。これだけの宝石、大陸ではどれだけの価値になるだろうか。非常に豪華絢爛だ。
まあ、地下に籠りきりだったシエルたちからすれば、宝石にそんな価値はなかったのかもしれない。今の俺たちのように。
「しかも、こんな大きな門……いったい何のために」
リエナの言う通り、最奥の門は非常に大きかった。
両開きの城門のような門。銀色に輝いていることから、ミスリルで出来ているのだろう。
シエルならきっと分かるかもしれない。
でも、今日に限ってシエルは付いてきていない。十五号の姿もなかった。
「地下都市みたいに、大きな空間に繋がっているのかもな……ただ、なんだか様子が変だ」
門の前には、船の錨を繋げるような巨大な鉄鎖が落ちている。巨大な錠前も。
あれで門の取っ手を封印していたのだろうか。
とすると、向こうは牢獄か何か?
開けてみたい……扉の向こうからは、魔力は感じられない。
冒険心をくすぐられるが、何でも安全第一が俺たちのモットーだ。
開けた瞬間、とんでもない奴が入ってくる可能性だってある。
「気になるけど……シエルの話を聞くまでは、そのままにしておこう」
言うと、リエナは「はい」と頷いてくれた。
しかし、俺たちはある異変に気が付く。
後方、神殿の入り口側に存在する魔力の反応に気が付いたのだ。
仲間なら声を掛けてくるはずだろう。それがこちらを窺っているのか全く動かない。
「誰だ!?」
俺は振り返って言った。
すると、聞き慣れた声が響く。
「あーあ……見つかっちゃった」
いたのは先に採掘に向かったはずのフーレとタラン、そしてシエルと十五号がいた。皆、残念そうな顔をしている。
「皆……付いてきていたのか」
「だって、そりゃあ姫が……あ、いや、忍び足の練習だよ」
フーレは視線を逸らして答えた。明らかに何かを誤魔化している。
「別に堂々と付いてくればいいのに……」
「そうですよ。覗き見なんて……全く皆さん趣味が悪い!」
リエナは何故か真っ赤な頬を膨らませている。
何か恥ずかしいのだろうか。
そんなリエナをなだめながら、フーレが言う。
「まあまあ。というより、また突飛な場所に出たね。シエルさんは知っているの? あれ……シエルさん?」
シエルはただ扉に顔を向けて、呆然としていた。
明らかに、焦っているようだ。
「シエル……もしかして、あれは施錠されていたはずのものなのか?」
シエルは体を縦に曲げた。
「その封印が解かれている……誰かが開いた。とにかく、開けちゃまずいんだな?」
俺が問うと、シエルは頷くような仕草を見せた。
「そうか。なら、ちゃんとまた閉めないと……うん?」
突如、門の向こうから何やら声が聞こえた。
獣の鳴き声ではない。
声に高低と喋り方に抑揚があり、言語に間違いない。理解はできないが、複数の者が何やら口論しているようだ。
また、微かにだが、魔力の反応が。
何者かが門の向こうにいるのは確実だ。
「皆、気を付けろ……誰かがやってくる」
俺の声に皆頷き、戦闘態勢に入った。
やがて扉の向こうがシーンとすると、扉が急に開く。
そして飛び込んできたのは、剣を構えた鎧の老齢の男を筆頭とする、三人の人間だった。