百五十四話 捕獲しました!?
巨大蜂の腹に巣くっていた黒い触手は、メルの放った光を浴びて溶けるように消えていく。
俺は触手を祓ったメルに訊ねる。
「め、メル……今のは? 図書館で魔法を覚えたのか?」
「ううん……いつの間にか空が飛べるように、今のもできるようになってたみたい」
「ということは、メルがもともと持っていた力ってことか」
俺はエルトの言葉を思い出す。
メルは魔法の才能にあふれていると言っていた。今も魔力に動きがあったわけで、魔法の可能性は高そうだ。
卵が化石に混じっていて、唯一生きていたことから、ただならぬ種族と考えていたが……
バリスによれば紋章は持っていないとのことだが、何かしら秘められた力を持っているのは確かと言えそうだ。
ヒースは巨大蜂に寄ると、無事か確認するためか、巨大蜂の腹を針でつんつんと突いた。
すると巨大蜂はぴくんと体を震わせ、ヒースに顔を向ける。
ヒースを襲うような気配はない。だが、何が何だか分からないといった様子だ。唯一ヒースのことは分かるようで、ヒースを見ながら頬を染めている。
あの黒い触手のせいで正気を失っていたようだな。
ヒースはそんな巨大蜂の頬を針で叩くと、俺とメルのもとにやってきて頭を下げた。
どうもお礼と謝罪をしたいようだ。
「いや、ヒース。彼が治ってよかったよ。ヒースも怪我はなかったか?」
ヒースはぶんぶんと首を横に振った。
「そうか。あの巨大蜂も反省しているようだし、気にするな」
巨大蜂は魔物に網から出してもらうと、ヒース同様皆に頭を下げていた。
「しっかし、またどうして。ヒースの彼氏か?」
エレヴァンが訊ねると、ヒースは顔を真っ赤にして、また首を大きく横に振った。
「わ、わかりやすいやつだな……しっかし、奇妙な生き物でしたね。禍々しいというか、気持ち悪いというか……うわ、まだ生きてる」
顔をぞっとさせるエレヴァン。
触手の切れ端のようなものが、地面でまだぴくぴくと跳ねていた。
それをマッパは木の枝でつんつんと突いている。
「おいマッパ! 危ねえから、近寄るな!」
マッパはこちらを見て、分かったとでも言うように頷いた。
しかし、触手は突如口のようなものをだし、マッパに襲い掛かる。
「マッパぁあああ!? あ」
マッパは腰蓑の下から目にも止まらない速さでガラス瓶を出すと、その触手を閉じ込めてしまった。
ばんばんとガラスに体当たりし暴れる触手。
しかしリヴァイアサンの鱗でできているようで、瓶には傷一つつかない。
エレヴァンはふうと息を吐く。
「脅かしやがって……」
「しかし、大手柄だ。あの触手の正体が分かるかもしれない」
俺はよくやったとマッパを褒める。
マッパはまるで珍しい虫を自慢する子供のように、周囲の領民たちに触手を見せていた。
実際、子供ではあるのだが……
とにかく危険な生き物なのは確かだ。厳重に管理するとしよう。
「あの触手はしばらく観察するとしよう……あと、巨大蜂に話を聞いてみるか」
俺が言うと、バリスが言う。
「観察はワシとアリエスにお任せください。ヒース殿を通じて、巨大蜂……あのお方の話もまとめておきます」
巨大蜂にあの触手について話を聞けるかもしれない。
あんな魔物は見たこともない……少なくとも、大陸にいる魔物ではなかったはずだ。
「それは助かる。俺は……あの巨大蜂の家を世界樹に造ってくるよ。あの感じだと、一緒に住みたいみたいだからな」
巨大蜂は先ほどからヒースに熱い視線を送っていた。
ヒースはそれから目を離しているが、一緒にいたいのは確かだろう。
テイムして、世界樹の中に家を作ってあげるか。もちろん、ヒースの家からは離して……
俺はこの後巨大蜂をテイムしガルダと名付けると、巣を作ってあげるのだった。