表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/290

百五十三話 隠された力でした?

「あの蜂……様子がおかしいぞ」


 俺は目を凝らして言った。


 黒い瘴気を発する触手が蜂の腹に蠢いている。とても気持ちが悪く、蜂は苦しそうだ。


 蜂はそのせいか、凶悪な表情でこちらを見ていた。


 エレヴァンがすぐに俺に訴える。


「大将! あいつはやばい! 今すぐ攻撃させましょう! ……あっ!? おい、危ないぞ!」


 ヒースは突如、巨大蜂へと向かっていった。


 心配そうな表情を見るに、やはり知り合いだったのだろう。


 だが、あの巨大蜂はどう見ても異常な様子だ。


 ヒースが説得を試みて、どうこうできるとは思えない。

 それだけならまだしも、あのままじゃヒースがやられる。


 俺はシールドをヒースの周囲に展開する。


 しかしやはりというべきか、ヒースは巨大蜂の体に吹き飛ばされてしまった。


 ヒースは埋め立て地に打ち付けられるが、シールドのおかげでなんともない。


「ヒース!」


 何とか身を起こすヒースだが、困惑したように巨大蜂を見る。


 巨大蜂はヒースを吹き飛ばしてから、ぶんぶんとその場で体を振っていた。


「ヒース、やっぱり知り合いか……あいつの様子はおかしいか?」


 ヒースは首を縦に振った。


「大将、どうします!? いつでも、射撃できますぜ!」


 エレヴァンは俺に訊ねる。


 このまま島で暴れられては困るから、迎え入れるわけにもいかない。


 かといって、ヒースの知り合いを攻撃したくもないよな……


 ずっとシールドで防いでいれば、諦めて帰ってくれるだろうか?


 だがあの黒い触手を除けば、正常に戻る可能性もある。


「いったん、俺がやつに回復魔法をかけてみる。状況が好転するかもしれない。警戒は続けてくれ」

「了解でさあ」


 俺は埠頭へと降りると、そこから回復魔法を巨大蜂に向けた。


 巨大蜂の腹に、俺の放った光が到達すると……


「暴れた!?」


 俺は思わず声をあげた。

 良かれと思ってかけた回復魔法に、巨大蜂は苦しそうに暴れだしたのだ。


 猛スピードでぐるぐるとその場を回ると、やがて俺を見つけ迫ってくる。


 シールドで防ぐしかない……


 俺はすぐに、向かってくる巨大蜂の前にシールドを展開する。


 だがその時だった。


 突如、巨大蜂の上空から漁網のようなものが降ってくる。

 巨大蜂はその網にかかり、身動きが取れなくなると、そのまま海へと落下してしまった。


 上空に目をやると、空を飛ぶ者たちが。


「あれは……バリス?」


 彼らだけじゃない。ワイバーンと……それに乗ったケイブスパイダーが二十体ほど見える。タランは巨体ゆえに、二匹のワイバーンに乗せてもらっているようだ。


 彼らはすぐに俺のもとへと降りてきた。

 タランとケイブスパイダーは、蜘蛛糸を手繰り寄せ、巨大蜂を引き上げるようだ。


 バリスは俺のもとにやってくる。胸元には、アリエスも一緒だ。


「バリス、アリエス。あの蜂を捕えてくれたのか」

「ええ。アリエス殿がこうしてはどうかと提案してくださいましてな」

「陛下、勝手な真似をお許しください」


 アリエスは不安そうに言った。


「いや、よくやってくれたよ。シールドで防いでいればそのうち諦めるかなってことしか思いつかなかったし。感謝する」

「め、滅相もございません!」

「ほほほ。だから、言ったでしょう、アリエス殿。ヒール殿は危険なことをする以外、誰かを怒ったりしませんよ」


 バリスの言う通り、危険なこと以外で皆のやることに俺は口を出すつもりはない。


 むしろよく対応してくれたと思う。バリスとアリエスはやはり頭が回る。


「あの者は、ヒース殿の知り合いで?」


 引き上げの様子を心配そうに見つめるヒースを見て、バリスは呟いた。


「ああ、間違いない」

「なるほど。となると、先ほどのあの黒い触手が何か悪さをしているようですな」

「そうなんだ。それにあの触手……バリスも感じたか? あの、魔力を?」

「はい、膨大な魔力を……引き上げた後も油断しないほうがよろしいでしょう」

「そうだな……」


 俺はケイブスパイダーたちにシールドを張り、巨大蜂が引き上げられるのを待った。


 すると、ばしゃばしゃと海面から水しぶきが上がる。


 巨大蜂がばたばたと暴れていたのだ。


 蜂は地面に上がっても、網から逃れようと跳ねていた。

 だが、タランたちの網からはどう頑張っても抜け出せないようだ。


 ケイブスパイダーたちは安堵するような表情を見せた。


 しかしすぐに巨大蜂は、腹の黒い触手を矢のような速さで皆を打ち付けようとした。


 もちろん、俺のシールドを破れない。


 分厚いガラスを叩きつけるような触手の正体を、俺たちは間近で見ることができた。


 まるで実体のないような……霧のような触手たち。

 シールドに触れて、霧散していく触手もあった。


「き、きめえ……」


 エレヴァンは思わず顔をひきつらせた。


「こいつが、この巨大蜂を苦しめている原因かもな……回復魔法をかけて治るだろうか?」


 先ほどのようにまた苦しむ可能性もある。

 治っているのなら多少の痛みは我慢してもらうしかないが、そうじゃないのなら苦しめるだけだ。


「困ったな……うん?」


 俺はいつの間にか、白い小鳥のメルが隣にいることに気が付く。


 メルは人の姿になると、俺に言った。


「お父さん……なんだろう……私、あの蜂さんを治せる気がする」

「何、本当か?」

「うん……ちょっと待ってて」


 メルは目を瞑ると、両手を合わせた。


 同時に周囲の魔力が、メルに集まったと思うそれは光と共に弾けた。


 暖かい光が周りを照らすと、黒い触手は溶けていくように消えていく。

 巨大蜂は苦しむこともなく、次第に大人しくなっていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術大学をクビになった支援魔術師←こちらの作品もよろしくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ