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百五十一話 蜂が踊っていました!

 エルトとロイドンがエルト大陸に向かった翌日、島に事件が起こった。


 島に大量の蜂が突如現れたのだ。


 しかもただの蜂じゃない。大型犬はあろう大きさの蜂だ。


 ただその見た目に反して、蜂たちは大人しかった。島の中を勝手に飛び回っているが、誰かを刺すということはなかった。


 この前島にやってきた巨大蜂のヒースより一回り小さい。

 もしかして、こいつらは……


 リエナが蜂を見て言った。


「ヒースさんの子供かもしれませんね」

「そういえば、世界樹の中に巣を作ったんだよな」


 ヒースはこの島に城壁ができてからやってきた、巨大な蜂だ。


 世界樹の幹は甘いようで、それを求めてやってきたらしい。

 だから、俺たちはその上に巣を作ったのだ。


 あの時、巣には卵が十個ほどあった。

 今見える蜂は二十体ぐらいだが、ヒースの腹は結構大きかったので増えてもおかしくない。


 きっとその卵が孵ったのだろう。


「いきなり現れたから何事だと思ったけど、まあヒースがちゃんと教育してくれてるみたいだな」


 ヒース自身が何か問題を起こすでもなく、世界樹でおとなしくしている。

 子供たちも誰かに危害を加えないよう教わっているのだろう。


「ですね。それになんだか彼らが下りてきたおかげか、島にとっても甘い匂いが……」


 リエナの言う通り、今朝から島中に甘い香りが漂っている。


「ああ。すごくいい匂いだ。でもどうして子供だけ下りてきたんだろう」

「挨拶にやってきたのかもしれませんよ。それにやっぱり下は賑やかですから」

「そうだな……なあ、リエナ。ちょっと考えたんだが」


 俺が言うと、リエナは頷く。


「私も同じことを考えました。この香りで」

「やっぱりか。ヒースたちの蜂蜜……絶対おいしそうだよな」

「はい! 料理はもちろん、お茶にも合いそうですもんね」

「蜜も世界樹から取っているだろうからな……世界樹の葉のお茶と合わないわけがない。ちょっと頼んでみるか」


 とはいえ、商品にするとなると結構な量が必要になるだろう。

 島のお店で出すぐらいがいいかもしれない。


 俺たちは世界樹の頂上へと向かった。


「おお……さらに香りが強いな……」

「はい。ここまでとは……あ、ヒール様。これを」


 リエナは俺にマスクを手渡した。


「そうだった……ありがとう、リエナ」

「いえいえ。また、おかしくなっちゃうと怖いですからね……」


 この世界樹が生えて粉を吸ったとき、俺たちは互いにおかしくなってしまった。突然踊りだしたり、告白したり……


 だがしばらくして、俺たちが慣れたのか、世界樹の粉が変わったからか知らないが、おかしくなることはなくなった。

 でも、この匂いの強さはなんだか危ない気がする。

 用心するに越したことはない。


「巣は、もう少し先だよな……うん? お、おい、ヒース!」


 俺はその場で腰を振りながら踊るヒースに気が付く。

 

 なんだか狂ったような踊り方だ……明らかに様子がおかしい。


 俺とリエナはヒースに回復魔法をかけながら、すぐに駆け寄った。


「ヒース! おい、ヒース! しっかりしろ!」


 俺の言葉に、踊り狂いながら顔を向けるヒース。


 しかし頬の部分が真っ赤で、目も変な方向へと向いている。


「こ、これは……」

「以前のマッパさんと同じ症状ですね」


 リエナの言う通り、世界樹に巻き込まれたマッパと同じようなだらしない顔をしている。


「まさか、世界樹の樹液を飲みすぎたせいで……酔っぱらっているのか?」


 でもそれだけじゃなく、羽を素早く動かし、音楽を奏でているようにも見えた。


「……と、ともかく水だ。ヒース、飲めるか」


 俺はヒースの口に、水魔法で水を飲ませる。


 しばらくすると、ヒースははっと真面目な表情に戻った。


「だ、大丈夫か、ヒース。世界樹をなめるのも、ほどほどにしたほうがいいんじゃないか」


 ヒースは反省したように、こくりと頷いた。


 蜂蜜を頼もうと思ったけど、これはちょっと皆が口にするのは難しいかもな……いや、水で薄めることもできるか。


 リエナが言う。


「それがいいでしょう。東の大陸に行ったカミュさんたちに、花の種子をお願いしてあるんです。それが早く育つようにしますから、そちらの蜜もバランスよく摂ってください」


 面目ないと言わんばかりに、ヒースは頭を下げた。


 だがその時、突然ぶーんという巨大な音が響く。


 ヒースたちの羽の音よりも、断然大きい。空いっぱいに広がるような音だ。


 俺はその音のほうに振り向く。


 水平線の近く……蜂が見える。


 え、目の前にいる? ……いや、違う!


 視界の蜂はものすごい速度でこちらに近づいてきているようで、見る見るうちに大きくなっていく。


 山のような巨大で真っ黒い蜂が、この島に迫るのだった。

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