百五十話 派遣しました!
地下都市で行方不明のスライムを救助した翌日。
俺は商業区にいた。
「さて、望みのものは用意してもらったし、俺は行くとするよ」
アースドラゴンのロイドンは、世界樹の枝や葉が入った巨大なカバンを背負いながら言った。
後ろには他のアースドラゴンもいる。
皆、満足そうな表情をしていた。島で楽しく過ごしてくれたようだ。
俺も、彼らから貴重な意見を聞けた。
世界樹の葉の茶は好評だったということや、商業区にもっと娯楽施設が欲しいという意見だ。
昨日、地下で幻影の魔法を見せてもらったが、ああいうわざわざ怖い体験ができる場所を造るのもいいかもしれない。俺はちょっとごめんだけど……
ロイドンは大声で歌える施設があってもいいのではと、言っていたが……ドラゴンの大声はちょっとどう抑えるか悩むな。
そんな中、赤い竜が慌てた様子でやってくる。エルトだ。
「寝過ごしたのじゃ! すまぬ、ロイドン!」
「嬢ちゃん、本当に行くのか?」
ロイドンの問いかけに、エルトは頷いた。
「島の皆と離れるのは悲しいが、別に一日で戻ってこれるからのう」
「ま、まあ一日なら確かにな……よし。じゃあ、行くとするか」
「うむ! だがその前に、ご主人様たちに挨拶をするのじゃ!」
エルトは俺とリエナの前にやってくると、お辞儀した。
「ご主人様、あの岩窟から余を救い出してくれたこと、感謝する……それに、この島の皆には温かく接してもらった」
「俺たちも魔法や昔のことを教えてもらった。ありがとう、エルト。俺たちも出来る限りの支援をするつもりだ」
俺はエルトに答えると、後方のゴーレムを十体呼んだ。
皆、ミスリルの鎧を身に着けている。エルトの護衛というわけだ。まあ、エルトには必要ないかもしれないが……
「彼らには転移石も持たせている。役立たせてくれ」
「ありがとうなのじゃ、ご主人様。ところでじゃが……」
エルトは、自分に近づくファイアードラゴンのファルに気が付く。
ファルはとても悲しそうな顔をしていた。
自分の見た目に近いエルトと離れるのがつらいのだろう。
俺はそんなファルに声をかける。
「ファル。エルトと一緒に、エルト大陸に行ってみるか?」
すると、エルトが俺に言う。
「ご、ご主人様! しかしファルは、島の警護に必要じゃ……」
「空を飛べる奴はファルだけじゃない。エルトも、この島の仲間がいた方が心強いだろう?」
「それはそうじゃが……」
「それに、ファルがいることでエルト大陸のファイアードラゴンの心象もいくらか変わってくるはずだ。種族間の交流が円滑になるかもしれない。いずれにせよ、ファル次第だが……」
ファルは俺の声に悩むような顔をみせた。
だが少しすると、力強く頷く。
「そうか、行くか」
「ファルよ……ありがとう」
エルトは声を震わせ、ファルに抱き着いた。
ファルはそんなエルトをポンポンと腕で叩く。
……エルトが一人だと寂しいと思ったのかな。ファルの優しさかもしれない。
エルトとファルを見て、リルとメルも涙を流していた。
二人はファルの孵化に立ち会い、ファルの遊び相手だったこともあり、悲しむのも分かる。
リエナが言った。
「エルトさん、ファルちゃんをお願いします……お二人とも、いつでも戻ってきてくださいね」
「うむ、お言葉に甘えるとしよう。一日で戻ってこれるからな、ファルもあまり悲しむでない」
ファルはエルトの言葉に頷くと、涙を拭った。
俺も悲しいが……そういえば、転移石を上手く使えば、もっと簡単に行き来できるんじゃなかろうか。
「エルト。転移石をもっと持って行ってくれ。それで、大陸までの道に等間隔に置いてくれないか?」
「転移石……なるほど! それがあれば、もっと速く移動できるのう!」
「ああ、そういうことだ。数に限りがあるから、なるべく転移できる限界の距離に置いてほしい。部分的になるかもしれないが、短縮できるかもしれない」
「任せるのじゃ。余が一つ一つ置きながら、やってみる」
「そうか。それじゃあ任せるよ」
「うむ、任せておくのじゃ!」
エルトはそう言うと、俺や島の皆に別れを告げ、エルト大陸までの道を進んでいくのだった。