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十五話 埋め立てちゃいました!

10000㎡は、校庭ぐらいの大きさだそうです!

「ヒール様。お水です!」

「ありがとう、リエナ」


 島の入り口で焼リンゴを食べ終えた俺は、リエナから水の入った杯を手渡される。  


 今のリエナは、しっかりとした衣服を着ていた。

 俺の着ている白いシャツと茶色のズボンをモデルに、ケイブスパイダーの糸で編んだものだ。

 

 だから、見ていて恥ずかしいことはなくなったのだが……

 綺麗な顔と、差し出される白い手に、思わず俺はどきっとしてしまう。

 そう。王宮では俺、まったく女性に縁がありませんでしたので……


 俺を見て、にこにこと笑うリエナ。

 料理も上手いし優しいし……

 実際のところ俺は、惚れ……いや、尊敬している。


 俺が首を振って水を飲み干すと、バリスが言った。


「ヒール殿、昨日少し話した計画ですが」

「ああ、島の埋め立てについてだったな?」

「はい。是非とも島の拡張を許可していただきたいのです」

「つまりは……もっと農地を拡張したいってことか」

「はい。太陽石が無限にあれば、今の農地でやりくりできましょう。ですが、太陽石は有限。来年、再来年を見越して、もっと大規模な農園を作らせていただきたいなと思いまして」


 まあ、どうにかなるだろうと俺は後回しにしていたことだ。

 だが、今食べているリンゴは、太陽石が無くなれば食べられなくなる。


 バリスの声に、リエナも続けた。


「もちろん、ヒール様だけの食糧なら、あの小さな農園で十分です。私たちは魚だけでも……」

「いや、それは前も言ったが、皆で分け合いたいんだ。しかし、来年のためか……」


 太陽石もあるし魚も取れるし、どうにかなるだろうと、後回しにはしてた。

 だが、ちょうど種まきの季節をもう少しで迎えるところだ。

 今のうちに、やってしまうべきだろう。


 あと気付いたのは、ゴブリンの子供だ。 

 彼らは時々おいかけっこや球技をしたりして遊んでいるのだが、大人のゴブリンに仕事の邪魔だと怒られている光景を俺はよく目にした。


 今は片隅で、岩を盤に、小石を駒に見立てた盤上遊戯をしている。

 しかし、体を動かす方が好きな者もいるだろう。


 だが、確かに動き回るとすると、島自体が小さいし、洞窟の中も狭い。


 ここはひとつ、子供たちのために広いスペースを作ってやろうじゃないか!


「……よし、やろうか」

「ありがとうございます、ヒール殿! されども、資材さえ頂ければ後は我らで……」

「それじゃ時間が掛かり過ぎる。土木作業は俺に任せといてくれ」


 計画は昨日、バリスが立ててくれた。

 まず岩を埋めて埋立予定地を縁取り、水を抜いて、砂を埋めて……


 だが、ボートが一艘そうしかない今、時間が掛かり過ぎる。

 何より、あまり大きく埋め立てるのは無理だ。


 だが、バリスは俺の手を煩わせたくないのか、顔を曇らせる。


「し、しかし……こういったことは我らが」

「俺はこの島の領主だ。島の問題解決には、真っ先に俺が取り組まないと。迷惑じゃないし、俺も美味しいものが食べたい」


 バリスは少し考えると、頷いてくれた。


「ヒール殿……そうしましたら、かならずやヒール殿を満足させる作物を作りましょうぞ!」

「うん、楽しみにしてるよ。 ……じゃあ、やるか」


 俺はよいしょと、腰を上げる。


 リエナやバリス、スライムのシエルも俺に付いてきた。


 そして岩場にある鍛冶場にいたエレヴァンが俺に気が付く。

 どうやらマッパと共に、斧やピッケルを作っていたようだ。


「大将? 何をされるので?」

「埋め立てだよ。少し波が立つから、沿岸にいるゴブリンたちを下がらせてくれないか」

「へい! お前ら、集合だ!!」


 エレヴァンが海辺のゴブリンを集めると、準備は調った。


 俺は手を海に向けて、インベントリを開く。


 まず埋め立てたい部分を岩を積み上げた山で縁取って、中の水を抜いて……

 そこに砂やケイブスパイダーの〇を流し込む。

 

 先も言ったが、当然俺に埋め立ての知識なんてない。

 これはすべて、バリスの考えによるものだ。

 もちろん、バリスもこういった作業の経験はなく、あくまでも書物で見た話というが。


 本来、この手の作業は、大きな船や起重機、莫大な人員を要するらしい。

  

 まあ、物は試しだ……

 岩はいくらでもあるし。


 補助機能である工房機能を使い、俺は石材と砂を作り出す。

 石材は少し大きめにしてみた。

 そうして、俺はインベントリから岩材を海に落としていく。


 周囲から見れば、右手から岩材がひっきりなしに飛び出しているという、ちょっと間抜けな絵面だ。


 ばしゃんと音を立て、海に落ちる岩材。

 海面から3mほどの高さまで積み上げて、線を引くように埋め立てしたい土地を縁取っていく。


 これだけでも、後ろのゴブリンたちは驚くような声を上げていた。


 いや、改めて考えれば、俺自身もどうしてこんなことができるのか、非常に不思議だけど。

 

 これだけの岩を貯め込むインベントリなんてのも、随分な話だ。

 【洞窟王】……恐るべし。


 そんなことを思っている間に、埋め立て予定地を縁取ることはできた。


 次に俺は水属性の魔法フローで海水を操り、埋め立て予定地から海へ水を吹き飛ばす。

 

 自分でも驚いたのは、これが一瞬で終わったことだ。

 クリスタルで魔力を増やし続けたが、まさかここまでとは……

 助言者が使う単位に直せば、約10000m²の土地から水が空になったことになる。


 今のところは、この中に海の水は漏れてこない。岩がしっかり積みあがっている証拠だろう。

 

 そこに今度は、砂や岩を流し込み……表面はケイブスパイダーの〇を盛ってみる。


 だが、やはりケイブスパイダーの〇が足りない……


 足りなかった部分は、ゴブリンの子供が遊べるよう、石材で広場のようなものを造ってみた。


「よし……これで完成だな」


 俺がふうと汗を拭うと、ゴブリンたちはおおと歓喜した。

 

 ゴブリンの子供たちが早速、この新しい土地で駆けまわる。


「あ、まだ、色々危ないかもしれ……まあ、走るぐらいなら」


 もしかしたら、土砂崩れが起きるかもしれない。

 しばらくは農作業などせずに様子を見た方が良いと思うが……

 ただ走るだけなら、さして心配はいらないだろう。


 ゴブリンの子供たちは少しすると、こんな声を掛けてくれた。


「ヒール様、ありがとう!」

「ああ! どういたしまして」


 俺も手を振ってそれに返した。


 うん。なんだか、図らずも領主っぽくなってきた気がする。

 領民に慕われる領主……なんだか、格好良いじゃないか。


「ヒール様、私からも感謝申し上げます! かならず立派な畑を作ってみせますね」


 リエナの声に振り向き、こう答える。


「ああ、楽しみにしてるよ」


 俺は笑ってそう答えた。その時。


 突如、目にもとまらぬ速さで、マッパが視界から消え去る。

 すぐに俺は、マッパがどこに消えたかを目で追った。


 マッパは上空にいた。

 それも、人よりも大きな鳥に尻を咥えられて。


「マッパっあああああっ!!」


 俺が声を上げた時には、空を大きな黒い鳥が埋め尽くしているのであった。

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