百四十九話 お化け屋敷でした!?
俺たちは地下都市宮殿の廊下を進んでいた。
すると、一歩斜め後ろのハイネスが声を震わせる。
「……ヒールの旦那はよく、こんな場所進めるな?」
「い、いやなんでかな? もともと誰もいない洞窟を掘っていたからかな……でも、そう言われてくると、なんだか俺も怖くなってくるぞ……」
皆があまりにも怖い怖い言うものだから、俺も何だか足取りが重くなってくる。
「ひっ!」
声を上げたのはアシュトンだった。
ハイネスが顔色を変えて訊ねる。
「ど、どうした、兄貴!?」
「い、いや……スライムが通っただけだ」
「あ、兄貴……今ので寿命が三年縮まったぞ」
俺もさすがにびっくりした。
彼らの反応のほうが怖いな……
「ま、全く! 静かに頼む……ぜ!?」
ハイネスは正面に振り返ると、声を上げた。
天井をケイブスパイダーが通ったからだ。
「ふ……ハイネスよ。お主も結局、同じじゃないか」
「う、うるせえ! そんなことより、早く進むぞ!」
ハイネスはそう言って、ずかずかと前へ進んでいった。体を震わせながら。
もちろん、ハイネスの前にはシールドを展開しているので大丈夫だと思うが……うん?
「こ、こいつは!?」
ハイネスは声を上げた。
目の前に黒い靄が現れたのだ。
黒い靄はやがて頭蓋骨のような形となると、こちらに迫ってくる。
「ひいっ! あっ!?」
ハイネスをはじめ誰もが声を上げた。
だが頭蓋骨は、俺のシールドに触れると消えてしまう。
「な、なんだったんだ? さっきのキメラと同じような……」
ハイネスの言う通り、先程の大広間のキメラと似ている。
微弱な魔力が突如現れ、すぐに消えてしまった。
「また消えたか……」
「と、とにかく、ヒールの旦那がいりゃ安心だ! おい、皆、行くぞ!」
ハイネスは叫ぶ。
しかしアシュトンもリルもメルも、皆返事がなかった。
あのタランでさえ、ちょっと怖がっている。
「皆、外で待っててもいいんだぞ? 俺とシエルで見てくるから」
「い、いえ! 進みましょう!」
ハイネスの声で、俺は再び歩きだした。
「なあ、シエル……なんか妙じゃないか?」
俺の声に、シエルは体を縦に振った。
「なんか、遊ばれているような……そんな気がするんだよな」
「そ、それって、どういうことですかい?」
ハイネスの問いに俺は答える。
「何かがこの宮殿で、俺たちを弄んでいるんじゃないかってことだ」
「な、なるほど。でも、一体誰が……」
「さっきの影のせいかもしれないな……ちょっと魔力を追ってみるよ」
こんな魔法を扱えるぐらいだ。
きっとそれなりの魔力を持っている奴なのだろう。
俺は廊下に面する部屋の魔力を、もう一度注意深く追った。
だが、部屋の中にはケイブスパイダーとスライムの形の魔力しか確認できない。
気になるスライムだが、皆そこまで魔力に違いはないようだ。
「これじゃ分からないな……いや、待て。なんか変なのがいるな……」
魔力が一瞬見えたと思ったら、すぐに消える。
かと思えば、また一瞬見えたり。
怪しい。もしかして、魔法で魔力を隠蔽しているのかもしれない。
「怪しいのを見つけた。二つ先の扉の向こうだ」
俺はそう言って、反応のある部屋の前へとやってきた。
なんということもない、木の扉の部屋。
この向こうに、怪しい反応がある。
「ここだ……よし、慎重に開けるぞ」
「お、俺が開けますよ」
ハイネスはそう言って、ドアノブに手を掛けた。
そして開くと……
「うわあああああ!? って、え?」
叫ぶハイネスと皆だったが、部屋の中には毛むくじゃらのおっさんとスライムが一体いた。
「ま、マッパ……なんでこんなところに」
俺が声を掛けると、マッパは見つかっちゃったかと言わんばかりに、恥ずかしそうに頭を掻いた。
隣のスライムとも、なんか仲良さそうに目を合わせている。
シエルはそんなスライムに近づき、身振りで何かを伝える。
しばらくすると、シエルはこちらに振り返り、体で丸を作った。
「もしかして、そのスライムが探してた子か?」
シエルは肯定するように体を揺らした。
「な、なるほど……マッパと結託してたわけか。マッパ、ずいぶんと趣味の悪いものを作ってくれたじゃないか?」
マッパはそれほどでもと、黒い布のようなものを見せた。
どうやら魔導石が使われているようで、魔力を隠蔽できるらしい。
「エルトに教えてもらったのか? ……俺も教わりたいな。でも、あの召喚の魔法は?」
だが、マッパは不思議そうに首を傾げた。
「……え? キメラとか頭蓋骨とか、マッパがやったんじゃないの?」
マッパは違うと首を横に振った。
「じゃあ、さっきのあれって……」
「ひいっ!? ヒールの旦那、目の前に!」
ハイネスが叫ぶと、目の前に黒い靄が再び現れた。
子供のような姿の黒い靄だ。
「うわああああ!」という後ろから悲鳴を上げる者たちと違い、シエルはここにいたスライムをぽんと叩いた。
そして黄色い翻訳石を取り出して、シエルは喋る。
「もう、おやめなさい……ヒール様。この者は魔法に長けていたのですが、何分いたずら好きで有名で……記憶があいまいになり、私たちにいたずらしたのでしょう」
「とすると、この魔法はそのスライムが」
「恐らくは幻影の魔法。昔、この地下都市ではお化け屋敷という人を驚かせる娯楽施設があったのです」
「そ、そんな施設が。それ、娯楽になるのか?」
「少なくとも、好きな者は一定数居ました。この子はそれが好きだったんでしょうね」
「まあ、何が好きかは人それぞれだもんな……」
地下都市が平和になったら、そういった娯楽施設をここにつくるのもいいかもな。
地上は今、子供の遊ぶ場所が少なくなってきているし。
なんだかあれだけ怖がっていたリルとメルも、「楽しかったねえ」と声を掛け合っている。
意外に、悪くないのかも?
だがシエルは、何か少し納得いかない様子で続けた。
「ですが、幻影魔法は子供は教わらないはず。もしかしたら、図書館で学んだのかもしれませんが……とにかく、人間に戻して話を聞いてみます」
「ああ、頼むよ……そうか図書館か」
図書館の下はまだ調べていなかった。
帝国人が目覚めたことだし、そろそろ調べさせてもいいかもしれない。
俺や大陸の人間の知らない魔法を覚えられるかもしれないのだ。
「まあ、ともかくこれで一件落着だな!」
「はい! いやあ、見つかって良かった!」
ハイネスは嬉しそうに言った。
他の皆も、心底安心したような顔をしている。
「よし、戻るぞ!」
「おう! ……うわぁあああ!?」
ハイネスは振り返った瞬間、絶叫した。
扉の向こうに、大きなおっさんの顔が見えたからだ。マンティコアの、コッパだ。迎えに来てくれたのだろう。
しかし、アシュトンはばさりと倒れてしまった。
「あ、兄貴ぃいいいい!」
俺はアシュトンを治療すると、地上へと戻るのだった。
地下都市の有効活用法が見えてきたかもしれません。
次回更新は、11月21日の予定です!
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