百四十五話 力を証明しました!
「ごぉおおおおおおおおおお」
巨大な緑肌のマッパは、口からそんな音を発し続けた。
ロイドン……いや俺も島の皆も、そんなマッパを見上げ、口を唖然とさせる。
「こ、こいつは、やばい……ヒール! こいつが、実は炎獄の魔王なんだろ!?」
「アホ抜かせ! 炎獄の魔王は、この余じゃ! こんな間抜けなやつなわけなかろう!」
エルトはすぐにロイドンに答えた。
「ごぉおおおおおおおお」
というか、マッパのやつ結局喋らないのか……うん?
俺は海の一部がにわかに騒がしいことに気が付く。
すると、そこから巨大なイカが飛び出してきた。
いや巨大なんてものじゃない、世界樹の半分の高さはあろう、イカのようなタコのような生き物だ。
「あれは……ジャイアントオクトパス!?」
俺の口から、そんな言葉が漏れた。
ジャイアントオクトパスとは、クラーケンに次ぐ海における危険な魔物として知られていた。
このジャイアントオクトパスはクラーケンよりは多少体格、力に劣る。
しかし数が多く、王国船の被害はクラーケンによるものより多かった。それに、一体だけだって、海では人間は敵わない。
「あ、あのおっさんが竜化したから現れたのか?」
ロイドンはそう呟くが、偶然だと思う。
今までもシェオールには、多くの魔物や生き物が引き寄せられてきたからだ。
いずれにせよ、ジャイアントオクトパスはこちらへと向かってきている。何とか、上陸を阻止しなければならない。
しかし、マッパドラゴンは「ごおおおお」と音を立てながら、空中へと羽ばたいた。
そしてそのまま、ジャイアントオクトパスに向かって行く。
「マッパ、危険だ!」
俺はすぐにマッパの周囲にシールドを展開した。
いや、自信があって突っ込んだのだろう。今のマッパの魔力は確かに膨大なものだし、その力を試したいのかもしれない。
でも、万が一ということもあるし、海に引き込まれでもしたらどうなるかも分からない。ちゃんと支援しないと。
そんな中、マッパはジャイアントオクトパスに肉薄すると、己の拳を振りかぶり、それを振り下ろした──のだが、すぐにジャイアントオクトパスの触手によって吹き飛ばされてしまった。
そのままマッパは、海面に叩きつけられる。
うむ……やっぱり駄目か。
「え……あんなに自信満々に出て行ったのに、やられるのかよ?」
ロイドンは呆れるような顔で言った。
他のアースドラゴンも今着いたのか、洞窟の入り口で、その様を眺めていた。
皆、ジャイアントオクトパスとマッパのどちらに驚いているのか分からないが、唖然としている。
しかし、リエナが深刻そうな表情で声をあげる。
「ヒール様! このままではマッパさんが!」
ジャイアントオクトパスはマッパに向かって泳いでいた。
あのまま、触手か何かで海に引きずり込むつもりかもしれない。
マッパゴーレムは自分では敵わぬと、遠くから火を吐いてジャイアントオクトパスを攻撃している。
しかし、ジャイアントオクトパスの身体は粘膜で覆われているせいか、全く燃えることがなかった。
空を飛べるバリスは、間が悪いことに今、地下にいる。
ここはファルかヒースに乗って俺が……
そう思った時だった。エルトがすぐに空へと向かう。
「ええい。任せておくのじゃ!」
エルトはそのまま海へ出ると、ジャイアントオクトパスの前に躍り出た。
「海の荒くれ者よ! 余が相手じゃ!」
ジャイアントオクトパスはその声に気が付くと、口から黒い液体を連射する。
同時に、無数の触手でエルトを攻撃した。
俺はすぐにエルトにシールドを展開していく。
しかし、いらぬ心配だった。
次々と繰り出されるジャイアントオクトパスの攻撃を、エルトは軽々と避けていく。
「ヘル……フレイム!」
エルトはそう唱え、手から大きな炎を放った。
以前俺も教えてもらったヘルエクスプロージョンでは、威力が高すぎると思ったのだろう。
黒い炎が、ジャイアントオクトパスを襲った。
すると、ぼんっという音が響き、煙が上がる。
煙が収まると、そこには黒焦げとなったジャイアントオクトパスが海に沈んでいくのだった。
エルトは悠々と帰還する。
「見たか? あれが余の力じゃ。少しは役に立ちそうじゃろ?」
ロイドンはエルトの声に頷く。
「あ、ああ……他のアースドラゴンも、しっかり見てたぜ。あれなら皆、嬢ちゃんの話も聞いてくれるだろ」
「うむ! ジャイアントオクトパスの丸焼きでも食べながら、そうするとするのじゃ!」
この後、マッパゴーレムが運んできたジャイアントオクトパスを、島の皆で食べることにした。
そんな中、マッパドラゴン……元の姿に戻ったマッパは何事もなかったかのように島に戻ると、やられたのが恥ずかしかったのか、鍛冶場にすぐ駆け込むのだった。