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百四十三話 あの商人が帰ってきました!

「ふむ、なかなかいい茶じゃな……」


 世界樹の下、優雅に茶を嗜むのは、魔王エルトだ。


「どうだ? 皆に聞いているんだが、これを島の特産にしようと思って」

「文句なしじゃ! 余が大陸に戻り、再び我が王として君臨した際は、高値で買ってやるとしよう」

「それは、ありがたい」

「しっかし、本当に良い茶じゃな……ぬっ!?」


 愉快そうにしていたエルトだが、突如驚くような顔をした。


「あっちの方向から、余と同じ匂いが迫ってくる……」


 エルトは地面のある方向を指さした。


 俺はその方向の魔力を探ってみる。


「本当だ……遠いが、大きな魔力だ。いや、これは……」


 見覚えのある形……そしてエルトが同じ匂いというのだから。


「ドラゴン……アースドラゴンか」


 俺の声に、エルトはうんと頷く。


「そうじゃな。あの土臭さは、アースドラゴンじゃ。迎えに行くか」

「いや、アースドラゴンは通すように言ってある。前と同じドラゴン、ロイドンなら地上にやってくるだろう」

「そうか。では、ここで魔王らしく迎えてやるとしよう」


 そう言って、エルトは再び椅子に深くかけた。


 それから少しして、洞窟から巨大なドラゴンがでてくる。


 ロイドンだ……俺と目が合うと、彼は大きく手を振った。


 ずしんという重い音を立てながら、ロイドンは俺の前までやってくる。


「よう、ヒール! 元気にしてたか!」

「ああ、ロイドン! お前も元気そうじゃないか!」


 俺はロイドンと手を突き合わせる。


「お言葉に甘えて、今回もいっぱい品物を仕入れてきたぜ! あと、少ししたら俺の仲間がやってくる」

「そうか。実は商業区ってのを作ってな。宿もあるから、後で見て行ってくれ」

「おお、そうか。それじゃあ、今日はここで泊まらせてもらおうかな! ……ところで、さっきからちらちらこっちを見てくる嬢ちゃんは?」


 ロイドンがそう言うなり、エルトは声を荒げた。


「余を嬢ちゃんじゃと! 最近の若いのは、まるで礼儀がなってない! 余はな、かつて炎獄の」

「待て待て、エルト! 俺がロイドンに説明する」


 ロイドンは困惑したような顔だ。

 エルトが事実を直接伝えても、信じてもらえないだろう。


 俺はロイドンに、エルトのことを伝えた。

 もとはエルト大陸の魔王で、勇者に閉じ込められていたことを。


「……ってことなんだ」

「こ、この嬢ちゃんが?」

「嬢ちゃんではない! 見た目も、大人の女性じゃぞ!? それとも、余の魔力の偉大さに気付かぬか?」


 エルトの声に、ロイドンは額から汗を流す。


「いや……あんたの魔力はすげえよ。でも、ヒールがこうだから、仲間がそれでも驚かないっていうか……」


 ロイドンが言うと、エルトは無口になり、肩を落とした。


 魔王としての面目が、ってところか。


 しかし、ロイドンはこう続けた。


「でも、ヒールよ。魔王エルトが勇者との戦いに赴き、封印された話、良く知っていたな」

「このエルトが、そう言っていたからな」


 ロイドンは難しそうな顔で、エルトを見る。


「にわかには信じがたいねえ……」

「余は本当にドラゴンじゃ! ほら!」


 エルトはそう言って、褐色の女性から、ドラゴンの姿になってみせた。


 ロイドンよりも小さなドラゴンに。


 それを見たロイドンは、むしろさらに首を傾げた。

 確かに、魔王らしくない大きさだよな……


 がくんと肩を落とすエルトに、俺は言う。


「ま、まあ数千年も経っていたら、こんなもんだよ」

「むむ……分かっていたが、寂しいのじゃあ」


 エルトは俺の胸の中で、子供のように泣きじゃくった。


 ロイドンは申し訳なさそうな顔で、こう言った。


「な、なんか悪い。ワイバーンの肉をやるから、許してくれ」


 すると、エルトはもっと泣いてしまった。


 ドラゴン同士で争い、その肉を食べ合っているというのは俺が以前話したが……やはり悲しいだろう。


「ろ、ロイドン、こっちこそ急に悪いな。とりあえず、まずは温泉でも入って汗を流してきてくれ。それから食事でもしよう」

「お、おお。そりゃありがたい」


 そう言って、ロイドンは十五号の案内通りに温泉に向かった。


「エルト、柔軟になろう。まずはロイドンから大陸の話を聞いて、なんでもいいから協力できないか聞くんだ。そうしていく内に皆、エルトが魔王だったって認めてくれるはずだ」

「ぐすん……うん……そうするのじゃ」


 エルトはしばらく俺に抱かれながら、泣き続けるのだった。

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