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百三十八話 決着がつきました!

最後のほう(~~~~~で区切られた後)は、少々重いので……オレンのその後が気になる方以外は、読まなくても大丈夫です!

 父と話をしたその日の夜、埠頭には長机と丸椅子が並べられていた。


 机の上には紫色の布が敷かれている。これはケイブスパイダーの糸をサタン貝の貝紫で染めたものでできている。


 卓上には島で獲れた食材が所せましと並べられていた。


 王国人もなじみ深い魚料理の他に、シザークラブやキラーバードを使った食い応えのある料理もある。

 他にも島で獲れた果物がバスケットに山積みされていた。


 席に着いた船員たちは皆、それを見て唖然とする。


「こんな島でここまでの料理が……」

「しかも、この食器。鉄……いや、銀か?」


 この食器はマッパとその弟子たちがつくったものだ。鉄だが、華やかな文様が刻まれ、高級感がある。


 だが、父とバルパスには金の食器が供されていた。これはバリスが王族には失礼ないようにと指示したものだ。


 バルパスは金の食器に目を奪われていた。


「お、俺の顔が見える……これも、あの毛むくじゃらのおっさんが……」


 バルパスは皆の後ろで自慢げに立つマッパを見て、額から汗を流した。


 どうやら皆に配膳が終わったようだ。リエナが皆にいった。


「さあ、皆様。召し上がってください。お口にあえばいいのですが……」

「「いただきます!」」


 リエナが喋り終わる前に、船員たちは食事を始めた。


「うめえ! こんな美味しい料理は初めてだ……」

「シザークラブなんて、滅多に食べられないもんな」


 皆、島の食事を気に入ってくれたらしい。

 小麦などの穀物がないのが不安だったが、いらぬ心配だったようだ。


 俺はふうと息を吐く。

 しかし、リエナはまだ心配そうに父を見ていた。


 俺はそんなリエナに声をかける。


「大丈夫だよ。リエナの料理は世界一美味しいし」

「ひ、ヒール様……あ、ありがとうございます」


 リエナは恥ずかしそうに俺に答えた。


 そんな中、父は金のナイフとフォークを手にし、ゆっくりとキラーバードの肉を切り分ける。

 そして一切れ口に運ぶと、黙り込んでしまう。


 固唾をのんで父を見守るリエナ。


 すると、父はゆっくりと口を開いた。


「……美味だ」


 隣で聞いていたバルパスは驚くような顔をした。


 父はあまり感情を表に出さないだけでなく、己が感じたことを口にすることも少ない。

 その父が率直な感想を述べたことに、バルパスは驚いたのだろう。


 バルパスもすぐにキラーバードの肉に口をつけるが、「たしかに」と納得するように二切れ、三切れと口にするのだった。


「……ふう、よかった」


 ついにリエナは安心するように、ふうと息を吐く。


 次に、皆にワインが振る舞われる。地下の貯蔵庫のものを、皆に少量ずつだが供することにしたのだ。


 シエルによれば、ブドウさえ育てば、またあの貯蔵庫の装置でワインをいつでも生産できる。だから、ここで振る舞っても心配ない。


 皆のグラスにお酒を注ぐのは、島の魔物たち。

 最初は嫌がられるかと思ったが、船員たちは機嫌よくグラスを差し出していた。


 そしてバルパスのグラスには、マッパそっくりのマッチャがワインを注ぐ。


「ま、マッチャじゃないか。悪いな」


 バルパスは少し慌てるような顔でそう答えた。


 ワインがグラスいっぱいに注がれると、バルパスはすぐにそのグラスを手に取ろうとした。

 が、すぐにマッチャがバルパスに抱き着く。


「お、ま、待て! こ、こんな場所じゃちょっと! あとでまた、遊んでやるから」

「ぬ? そなた、また恋人をつくったのか?」


 父はそんなことをバルパスに訊ねた。


「い、いや、こいつは、そんなんじゃ……お、おい」


 バルパスがマッチャに無理矢理に口づけされるのを見て、父は言う。


「ふむ、良い機会だ。そなたもそろそろ身を落ち着かせる必要がある。基本的に子のことに口出しするつもりはないが、そなたは我が後継者だから命じる。彼女と結婚するが良い」

「ば、馬鹿を言うな!! なんで俺がこいつと! というか、さらっと大変なこと言わなかったか!?」

「王国とこの国の関係を深めることにもなろう……いや、そうも簡単にはいかないようじゃな」


 父はある一点に視線を向けた。

 そこには、顔を真っ赤にしたマッパがバルパスを睨んでいたのだ。


「やっぱあんたの恋人か! 安心しろ、俺は別に……うぉ!」


 バルパスは、マッパが取り出した扇を、立ってかわした。


 扇は世界樹の葉を束ねたようなもので、殺傷能力はなさそうだ。


 マッチャは怖がるように、バルパスの後ろに隠れ、引っ付く。


 父が言った。


「彼女と一緒になりたいのなら、戦うしかあるまい。それが王国の男だ」

「待て! 本当に俺は、こんな毛むくじゃら! おおい!」


 こうしてバルパスとマッパの喧嘩が始まった。

 もちろん、双方本気ではない……いや、マッパの怒りは本物かもしれないが。


 船員たちは余興か何かだと思い、「やれ、やれ!」と声を浴びせている。


 一応、二人にシールドを張っておくか……


 まあなんだかんだ、打ち解けているな。

 日常的に海外と行き来することが多い船員相手だから、割と仲良くできているのかもしれないが。


 とにかくよかった……


 父は明日にでも島を発つと言っていた。

 協定も結んだし、これで全てが解決したわけだ。そう、全て……


「ヒール様。何か?」


 リエナは心配そうに俺の顔を見た。


「え? いや別に……」

「もしかして……オレン様のことですか?」


 図星だ。リエナは俺が思っていることを見事に当ててみせた。


「エルトによれば、あの体なら食事は摂らなくても大丈夫とのことだが……」

「ご兄弟ですもんね……様子を見に行ってはいかがでしょうか?」

「ああ、そうするよ」

「では、私もご一緒します」

 

 リエナはそういって、バリスに視線を送った。

 するとバリスはうんと頷く。この場は任せろということだ。

 

 俺たちはこうしてオレンのいる倉庫へと向かった。


 中にはエルトと世話をする魔物たちが。


 エルトの胸には、小さなロペスも抱かれていた。

 ロペスは俺を見るなり、手を振ってくれる。


 しかし一方のオレンは倉庫の隅で丸まっていた。


「オレン……」

「僕を見るな!! 誰も、僕を見るな!! 僕は何もしゃべらないぞ!」


 オレンが何を言おうが、薬で吐かされてしまうだろう。

 バルパスも非道な薬を使うとは思えないが、それでも苦しい思いはするはずだ。

 できれば、そんな思いはさせたくないし、一刻も早く事実が明るみになってほしい。


「オレン……大陸に帰ったら、今までのことを正直に話してくれ」

「……」


 オレンは何も答えない。

 ならば、俺は言いたいことだけ言おう。


「オレン、お前が大陸でどんな罰を受けるか分からないし、その罰を受けたって罪を償えるものでもないと思う。……だけどお前が生涯をかけて罪を償うと誓い、罪を告白し、もし自由になれる日が来たら……」


 そんな日は来ないかもしない。万が一死刑は免れても、一生牢獄の中かもしれないのだから。


 それでも俺は、オレンに言っておきたい──


「俺たちの所に来てもいい。俺たちは、お前を迎え入れるよ」


 仲良くやる気があるのなら、俺は誰でも迎え入れたい。それが過去の敵だったとしても。


 しかしオレンは、俺の言葉を聞くと「ははは」と大声で笑った。


「僕を迎え入れる? お前になんの得があるんだ!?」

「損得の問題じゃない。それがこのシェオールだからだ」

「僕は……お前が理解できないよ。まあ、そもそもそんな日が来ることなんて、有り得ない」

「万が一だって、有り得るかもしれない」

「いいや、絶対にない。もう……放っておいてくれ」


 オレンはそう言って、再び倉庫の隅で丸まってしまった。


「……エルト、引き続き頼むぞ」

「任せてくださいなのじゃ、ご主人様。む?」


 ロペスはエルトの胸を飛び出すと、オレンの元へ飛んでいき、その頭を優しく撫でていた。

 オレンはそれを拒否することなく、体を震わせている。


 ロペスはオレンがいじめていた相手だ。そんな者に優しくされる……オレンは何を思ったのだろうか。


 俺には、これ以上かける言葉はない。後は本人次第だ。


「……行こうか、リエナ」

「はい、ヒール様」


 俺たちは倉庫を後にした。


 俺はリエナに訊ねる。


「俺、間違っていたかな」

「いいえ、ヒール様。誰でも迎え入れたい……それがシェオールです。ヒール様のお気持ちは、オレン様にも伝わっているはずです。きっと改心されると思います」


 リエナの言葉に、俺は頷くのだった。


~~~~~



~~~~~


 ヒールたちが去った後、エルトはオレンに言った。


「優しい兄じゃの……お主も罪を告白すれば、あるいは」

「……いいや、僕は絶対に、二度とこの島には来ないよ」

「ヒールの言う通り、まだ、分からぬではないか」

「違うんだ。ここは……僕が居ていいような場所じゃないんだよ」


 オレンが答える中、ロペスがリンゴを差し出す。

 しかしオレンは首を振ってそれを拒否すると、ロペスに頭を下げた。


「……今まで、君には許されないことをした。君だけじゃない、僕はたくさんの命を殺めてしまった……僕が行く場所は、決まっている。そこで永遠に罪を償おう」


 エルトはそれを聞くと、満足そうに頷いた。


「……それも己の選んだ道じゃろう。余は応援するぞ。知己ちきに会うことがあれば、よろしく伝えておく。死んでも、お主はもう余の眷属じゃからな」

「それはありがたい。できる限り厳しくとも、付け加えてくれ」


 オレンはそれから叫ぶことも、震えることもなくなった。


 後日、オレンは大陸に帰ると全ての罪を告白し、自ら公開裁判と死刑を望んだ。


 裁判の際、遺族や被害者から殴られることもあったという。また、その見た目と罪状から、聴衆に石も投げられたらしい。

 だがオレンはそれから身を隠そうとか、逃げようとすることはなかった。


 その後、王族という身分は伏せられたが、オレンは望み通り死刑となるのだった。

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