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百三十七話 予言でした!?

 バルパスとの協定の話を終えた俺は、埠頭へと向かっていた。


 王国海軍の戦列艦……そこで船を修理する父に会うために。


 しかし俺が到着したとき、すでに戦列艦はすっかり綺麗になっていた。

 船体も帆も、穴は見当たらない。


 島の仲間が協力したとはいえ、よくこんな短時間で直せたな……


 すると、父を監視していたはずのアシュトンが、俺のもとにやってくる。


「ヒール殿……協定のほうは?」

「ああ。今しがた、兄上と調整が終わったところだ。同盟とはいかなかったけど、不戦協定と貿易協定は結べた」

「そうでしたか。いや、それはよかった……」


 アシュトンは心底安心するような顔で、息を吐いた。


「なんかあったのか?」

「あのお父上と争うのは得策でないと思ったもので」


 そう答えると、アシュトンは船の帆柱を指さした。


「あの柱を、お父上はひとりで船に運び、立て直したのですよ……」

「あの柱を、か……」


 折れた帆柱の使えそうな部分だけを切り取り、それを繋ぎ合わせ、新たに一本の柱としたのだろう。

 通常の戦列艦の帆柱よりも、人の背丈ぐらい短くなっている。


 それでも人間が持ち運べる重量ではないはずだ。普通はクレーンなどの機械や、魔法でないと起こせない。


「それに、やっぱり家族同士、仲がいいでしょうからな」

「そこらへんはアシュトンとハイネスを見習いたいな。ところで、父は……あ」


 父の魔力を追うと、そこにはバリスとハイネスの監視付きで、何かを興味深そうに見つめる父がいた。


 その視線の先には、金槌で巨大な金属の塊を整えていくマッパが。隣ではファイアードラゴンのファルが、その塊を熱している。


 何をつくっているんだろうか? 


 柱を補強する鉄環など、必要なものはもう作り終えているようだが。

 あれだけの巨大な塊なら、いかりでもつくっているのかな。


 しかし船体側面には、鎖が海にしっかり落ちていた。碇はもうできているのだろう。


「他に、船のパーツで足りないもの……」


 悩む俺だったが、すぐに疑問は解けた。


「おお! これは……」


 周囲の船員たちは、声を上げた。


 マッパが塊の頭部分の髪をつくり終えたのを見て、皆、顔を明るくしたのだ。


 髪はウェーブのかかった、豊かな長髪……皆、国王を模した像をつくっていると思ったのだろう。


 なるほど、船首像か。


 船首像とは、その名の通り船首につけられた像のこと。

 偉人や神々がモデルになることが多い。


 だから、船員たちはマッパが父の像をつくっていると考えたのだろう。


 いや、あのマッパが他人の像をつくるかな……


 俺が疑うような顔をする一方、期待するように視線を送る船員たち。


 そして俺の予想は当たってしまった。船員たちは、完成した像を見て、首を傾げる。


「……え?」


 マッパはできあがった像の横で、自慢するように立った。


 像は他ならぬマッパ自身の像だったのだ。


 しかも顔は海に立つマッパゴーレムと同じく、白目を剥いただらしない表情をしている。


 皆、「ええ……」と困惑するような顔をする。


 しかしマッパは遠慮なく、父に顔を向け、像を運ぶような仕草を見せた。


「へ、陛下、さすがに……精巧ではありますが、これはありがたく受け取って、王宮の宝物庫にでも。陛下の紋章名を冠した覇王号には、その、あの……」


 父に進言する船長の口調は、どこか歯切れが悪かった。


 船を直してくれたマッパの前で不満をいうわけにもいかないし、全体としては造形が良いのが微妙な反応を生み出しているのだろう。


 また、後ろからハイネスがでてきて、マッパに「すぐ作り直せ!」と怒った。そして父に向かって、なんとかマッパの頭を下げさせようとする。


 しかし父は像を風魔法で冷やすと、それをふんと持ち上げてみせた。


「いや、せっかくだ。船首に飾るとしよう。この島の名所を象ったもの。良き土産となろう」


 お土産感覚かよ……というか名所って、観光じゃあるまいし。

 まあ、この島の建築の中で真っ先に目に入るマッパは、確かに島の名所なのかもしれない。


 うーん……もっといい名所が知られてほしかったなあ。


 船員たちは、海に立つマッパゴーレムを見て、「な、なるほど」と無理やり納得するような表情を見せた。

 彼らは船首像を受け入れた以上に、王が軽々と人と同じぐらいの金属の像を持ち上げたことが、やはり恐ろしいのだろう。


 マッパには船の修理にあたって、鉄や銅など大陸でもありふれた金属しか使わないよう言っておいたので、軽いミスリルやオリハルコンではないのは確かだ。


 船員……というか、バルパスやオレンも父の力は知らないようだったが……なぜ、ここにきて力を明かしたのだろうか。


 俺は、船首に像を飾り終え埠頭に戻ってきた父の前に向かう。


「……父上。質問があるのですが」


 そんな暇はない、と昔のように言われると思った。

 しかし、父は意外なことを口にする。


「聞きたいことは分かっておる。何故、我がここに来たか、ということであろう」

「はい……そして俺の紋章を知っていたとは、本当なのですか?」

「全ては、古の予言の真偽を確かめるだけに過ぎない。そして今のところ、予言は当たってしまっておる」

「……予言?」

「ヒールよ。そなた、この島に来てから、何か異変を感じぬか?」

「そ、そりゃ、驚くことばっかりでしたが……いや、そういえば」


 俺は、この島に大挙してきてやってきた魔物たちのことを思い出す。


 キラーバード、シザークラブ、デビルホッパー、サタン貝……それに加えて、巨大な魚がこの島に集まってきていた。


 俺はそれが、世界樹が関係してるのではと思ったのだ。


 父は俺の心を読んだように、こういった。


「すでに、この島を我が物にしようとやってきた者たちがいるのだろう」

「どうして、分かるのです?」

「このシェオールは世界が終わる中にあっても、安息の地なのだ。故に、誰もが自分は助かろうと、やってくる。古の予言を語り継ぐ者たちもいるのだろう」


 父の言葉だと、シザークラブたちはなんらかの方法で、それを継承してきたということだろうか。世界の終わりが近づくとき、この島を目指せと。


 だが予言で驚くのはこの言葉だけではなかった。

 父は語る。


「そしてその地を統べるのが、【洞窟王】。そなただ」

「俺がこの島の主になるのは決まっていた……それが、予言であると?」

「我が力でそなたを後継に出来なかった以上、予言は本物であることは疑いない。もちろん、そなたとオレン、バルパスの中から、後継を選ぼうと思ったのは事実であるがな」


 とすると、後継者はやはりバルパスになりそうか。


 でも、それに関しては予言というより、あなたの育て方でこういう結果になったんじゃないかとしか……しかし、それよりも。


「待ってください、父上。そもそも、世界が終わるとは?」

「分からぬ。だが、【洞窟王】であるそなたが生まれ、この島に君臨している以上、明日……いや、今何かが起きても、おかしくはない。予言通りであればな」


 父は表情を崩さず、そう答えた。


 世界が終わる……シエルから隕石の話を聞いた今、有り得ないようなことではないと思ってしまう。


 でも、この島は大丈夫ってことだよな。


 いや、それなら別にいいやとなれないのが、俺や島の皆だ。

 

 それに、予言が正しければ、話の通じないシザークラブやデビルホッパーのような魔物が、これからもこの島にやってくることになる。

 他人事とは絶対に言えない。


「父上……もはや魔物がどうこうと、王国内で……いえ、そもそも大陸の中で争っている理由なんてないはずです。皆に協調を呼びかけては?」

「ヒールよ。これは、神官すらも信じぬ、古の予言だ。国民が、魔物が、他の国の君主が、信じると思うか?」

「それは……この島を見れば、少しは信じてくれるかと」


 そこまでいうと、父が少し笑ったような気をした。


「ならば、見せるがいい。お主のやりたいようにやってみせよ。お主は、この国の君主なのだからな」


 父はそういうと、新しい宿泊先の倉庫へと向かうのだった。

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