表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/290

百三十五話 決別しました!!

「ヒール──そなたを、我が王位の唯一絶対の継承者とさだむ」


 父は厳格な顔で、俺にそう告げた。


「俺を……サンファレスの王に?」


 それはとても意外な言葉だった。


 生まれてからずっと、王になれと言われるなど、夢にも見たことはなかった。

 無力さは自覚していたし、ましてや王宮の誰もが俺に期待なんてしてなかったのだから。


 当然、受け入れられる話じゃない。俺にはもう、この島を皆を守るという義務がある。


 だが、聞かずにはいられなかった。


「それは受け入れられない……でも、どうして俺に?」

「理由はただ一つ。そなたが、我が子の中で最も力を有しているからだ」

「力……」


 俺の魔法や、この島の威容を見て、父はそう考えたのだろう。


 すると、エレヴァンが口を挟んだ。


「けっ。こんな場所に追いやっといて、今更おみそれしましたなんて、虫が良すぎるんじゃねえか?」

「我は一度も、ヒールの力を見誤ったことはない。この島を与えたのも、全てはヒールを育てるため」

「育てるね……取ってつけたようなことをいいやがる。ともかく、大将はお前とはいかねえよ」


 エレヴァンは俺と父の間に割って入ると、父を睨んだ。


「そうはいかぬ。ヒールは我が王国を継承するのだ」

「大将はいかねえっていってんだ。分からねえのか?」

「分からぬ。子が親の位を継ぐのは、当然の理。連れて行かせてもらうぞ」

「ふざけんじゃねえ! ……なっ」


 エレヴァンは突如、体を小刻みに震わせた。

 俺がシールドを張っているが、どうも父の目に震えあがってしまったらしい。


 かくいう俺も、一瞬体が止まる。だが目を逸らし、なんとか体の自由を取り戻した。


 しかし、エレヴァンも負けていない。おおと声を上げると、震えを止め、拳を振り上げる。


「てめえなんかに負けるか!!」

「エレヴァン、やめろ!!」


 俺はそう叫び、エレヴァンの体に全魔力でシールドを纏わせた。


 父は少し驚くような顔をして、自らも拳を突き出した。


「ほう。我を前にしても、動けるか……ふんっ!」


 エレヴァンと父の拳がぶつかると、周囲に突風と波動のようなものが広がった。


 すると、父の着ていたローブが吹き飛び、その裸の上半身が露わになる。


 俺も見たことなかったが、父は年に似合わない、筋骨隆々の体をしていた。

 筋肉自慢のエレヴァンにも全く負けてない体だ。


「いい体してんな……あんた、本当に爺か?」

「お主もなかなか骨があるようだな。しかし……」


 父はふんと声を張り上げると、エレヴァンを吹き飛ばしてしまった。


 エレヴァンは転がった先でなんとか受け身を取る。


「なっ!!」

何人なんびとも我が歩みを阻むことはできぬ」


 父が再び睨むと、エレヴァンは動けなくなってしまった。


 それを見た父は、俺のもとに歩み寄ろうとする。

 しかしそんな父に、突如蜘蛛糸が四方八方から絡みつく。


 タランたちケイブスパイダーが父に向かって蜘蛛糸を放ったのだ。


「タラン殿、よくやった!! ハイネス、今だ!」

「おうよ! 御用だ!!」


 アシュトンとハイネスが拘束具を持って、父に飛び掛かる。


 二人は見事な連携で、父の両腕と両足に拘束具を速やかにはめた。


 しかし父はまたもや、一声で蜘蛛糸と拘束具、アシュトンたちを吹き飛ばしてしまった。


 俺といえばなんとか皆にシールドを張るのに精いっぱい。覇気というやつのせいなのか、体が重いのだ。


 父にも、領民を殺そうという意思はないように見える。吹き飛ばすだけで、オレンの両腕を破壊した攻撃は行っていない。


 狙いは俺だけか。いざとなれば転移石で逃げるか……でも、転移石を取るのも難しい。


 そんなときだった。リエナが両手を広げ、父の前に立ちはだかった。


「ヒール様のお父さん……どうか聞いてください。私たちには、ヒール様が必要なのです。どうか、私たちからヒール様を奪わないでください」


 突然のリエナの主張に、父は歩みを止めた。


「ふむ、この島の住民はたしかに、ヒールを慕っておるように思える。だが、ヒールは島から離れるが、そなたたちの統治から外れるわけではないのだ」

「私たちからすれば、お別れすることに変わりません」

「……王国には、ヒールが必要なのだ。そこを退け」

「いいえ、どきません。絶対に」


 リエナは力強く答えた。父が目を向けているが、不思議なことにリエナは震えることも、吹き飛ぶこともなかった。


「ぬ……我が覇気をもってしても、退かせることはできぬか。もしやそなたの紋章は……ふむ、引き際じゃな」

「わ、私になにか?」


 父はリエナを凝視すると、何かに気が付いたのか、横へ顔を向けた。


 そこにはなんだか不満そうな毛むくじゃらのおっさん、マッパがいた。手には父の着ていたローブがある。


 覇気で皆が近付けぬ中、ひとり父のもとにやってきたらしい。


「我も気が付かぬ内に近づいてくるとはな。この島の者たちには、つくづく驚かされる」


 父がマッパに気が付けないのも無理はない。

 俺たちも、突然マッパが現れて何度驚かされたことか。


 父はローブを受け取ると、マッパの態度を不思議に思ったようだ。

 

「これはすまぬ……ところで、何か気を害したかな?」


 マッパは自分の髭や体を指さして何かを説明する。


 俺はそれを見て、こう解説した。


「多分、体と格好が自分と似ている……いや、髭が自分より立派なのが気に入らないんだと思う」


 父の白髭は、マッパのそれよりも長くもじゃもじゃしていた。しかも裸というのに、何か癪に障ったのかもしれない。


「ふむ……それは悪い事をしたな。すまない」

「謝るのか……」


 ローブを再び身に着ける父を見て、俺は呟いた。


 父は身なりを正すと、俺にいった。


「力で従わせられぬ以上、仕方あるまい……他の者を、後継者に定めるとしよう」

「それじゃあ、俺は」

「自分で国を打ち立てたのだろう? これからは我と対等の関係になるのだ」


 俺が王国に属する領主ではなく、別の国の長と認めるような発言だ。


 ただ、対等になるからには当然、王と領主という庇護関係から外れることにもなる。


「……敵にもなるし、味方にもなる、ということか」

「そうだ。だが、同時にそなたは我が王家の分家の始祖でもある。本家と分家、なるべく争いは避けるべきであろう。血統を絶やさためにな」

「……素直に、協力していこうじゃ駄目なのか? 俺たちは親子だろ? なんであんたはいつも、そうなんだ?」


 誰にでも厳しく、決して甘いことは口にしない。そんな父が、俺は昔から嫌いだった。


 父はいう。


「ヒールよ……王とは、常に孤独なものなのだ。そなたが抱えるものを増やせば増やすほど、そなたは孤独を深めるだろう」


 父なりの忠告のつもりだったのだろう。言いたいことは理解できる。


 だがそれは紋章で人を判断する王国の風土にも問題があるはずだ。


 紋章さえ関係なければ、俺たち兄弟だって仲良くやれてたかもしれない。オレンだって、あんな人間に育たなかったはずだ。


 そう言ってやりたかった。しかし、父は俺に背を向ける。


「ここが我の国でないなら、すぐに去らねばなるまい。協力になるかは知らぬが、我が国とお主の国との取り決めは、バルパスと相談して決めよ」


 そういって、父は自ら船を直すと、勝手に戦列艦のもとへ向かった。


 すると、呆然とこちらを見ていたバルパスが俺の名を呼んだ。


「ヒール、同盟を組もう! 俺たちは永遠に味方だ!」


 バルパスは顔を引きつらせながら、即座にそう口にするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術大学をクビになった支援魔術師←こちらの作品もよろしくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ