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百三十一話 禁忌の術でした!?

「……っ!? ウィンド!」


 骨が黒い靄に包まれるや否や、俺の手からはオレンに向かって風の魔法が放たれていた。


 オレンにしろ骨から出た靄にしろ、脅威になるのは間違いない。とっさに攻撃しなければと思ったのだ。


 だが、オレンも無策ではなかったのだろう、どうやらシールドをすぐに展開したようだ。

 周囲のお付きも、オレンに魔力を送る。


 しかし、俺の風によってオレンは倉庫の壁へと勢いよく打ち付けられる。


「痛いなあ……でも、もう遅いよ。そもそも僕を殺したところで、”そいつ”はもう止められない」


 崩れ落ちるオレンだったが、愉快そうな顔で呟いた。


 そいつとは骨が発した黒い靄に他ならない。


 俺はすぐに黒い靄に火を放つが、オレンがいう。


「無駄だって、ヒール。それは死霊と呼ばれる存在で、魔法とかで倒せる相手じゃないんだ」


 黒い靄はすぐに、先程倒した供の男に覆いかぶさる。


 それを見て、オレンはにっこりと笑った。


 男は苦しそうにあえぎながら、かっと開いた目だけをオレンに向ける。


「ひっ、ひいっ! 殿下、これは!?」

「そいつには君の血肉が必要なんだ。よかったね。最後に、望み通り僕の役に立てて」

「そ、そんな! いたい、いだいっ! うっ、ああああああ!」


 男の体を靄が完全に覆うと、うめき声も途絶える。


 オレンが興奮した様子でいった。


「さあ、ヒール……感動の再会だ」


 その瞬間、周囲に黒い靄が爆散した。


 俺はシールドで、周囲の船員たちを守る。


「なんだ!?」

「で、殿下がまた……やばそうだぞ!」


 倉庫の船員たちが慌てふためく中、靄が次第に落ち着く。


 すると、そこにいたのは先ほどの男ではなく、羊のような頭をした巨大な人型の生き物だった。

 体は黒い毛で覆われ、背中からはボロボロの黒い翼を生やしている。


 バリスには悪いが、バリスをもっと何倍も禍々しくしたような生き物だ。


 その巨人は赤い目で周囲を見渡す。


「な、なんだ、こいつ……」


 船員たちは巨人を前にざわつく。


 俺もその見た目に圧倒されそうになったが、尋常でない魔力に俺は気が付く。


 エルト……いやそれ以上の魔力を有しているのだ。


「全員、外に逃げろ!! 早く!」


 俺が叫ぶや否や、船員たちはすぐに外へと走った。


 入れ替わるように、後ろからアシュトンの声が聞こえてきた。


「ヒール殿! そいつは!?」

「アシュトン! すぐに皆を洞窟に避難させろ!」

「し、しかし、我らも!」

「時間がない! 全員、洞窟へ!!」

「は、はっ!」


 アシュトンはすぐによく通る声で、洞窟へ避難しろと叫んだ。それに応えるように、塔からは避難を報せる鐘の音が響く。


 オレンは立ち上がり、にやにやと俺を見る。


「おっ。その様子だと、こいつには敵わないと思ったのかなあ? まあ、特別な魔物みたいだしね」

「オレン……何をした?」

「何って……さっきも死霊って言ったし、察しがつくだろ? 死霊術だよ?」

「死霊術!? それは王国で禁止されているはずじゃ」


 死霊術とは、死体や遺体を用いる術だ。

 例えば、スケルトンなどのアンデッドをつくりだすことができる。


 最初に魔力が必要になることから、魔法の一種とされているが、それ以上に呪文が重要なのだという。


 死体を傷つけることは、人間のほとんどが禁忌だと考えていた。

 故に王国では、研究目的でさえ一切の使用を禁止している術だ。


 だが、オレンはあっけらかんと答える。


「僕が王になったら解禁するんだ。今やったって、別にいいだろ?」

「お前は間違っている……」

「何が間違ってるんだい? いくら戦わせたって兵隊が減らないんだよ? しかも、人間よりも強力だ……”ロペス”、僕が分かるか?」


 オレンの声に、ロぺスと呼ばれた巨人はその赤い目を向けた。


 ロぺスというのは、あの小瓶に入っていた骨……オレンが殺した魔物に俺がつけた名前だ。こいつはそんなことまで知っていたのか。


 オレンは俺の様子を見て、笑いながらロぺスの背中をバンバン叩く。


「ははは! ヒールも嬉しいよね。初めてできた友達だろうし! でも、こいつは今、僕のおもちゃなんだ。おいロぺス、こいつに……ぶふぉっ!?」


 突如、オレンは吹っ飛ばされ、再び壁に打ち付けられる。目では捉えられなかったが、ロペスがオレンの腹に拳を食らわせたようだ。


 オレンは口から血を流しながらロぺスを睨んだ。


「お、お前……!?」


 しかしロぺスは睨み返すように、オレンに目を向ける。


 同時に、ロペスの体から膨大な魔力が膨れ上がるのが分かった。


「ひっ、ひっ……ぼ、僕じゃない! お前を殺したのは、僕じゃない! そこのヒールだ!!」


 オレンはがたがたと肩を震わせ、俺を指さした。


 すると、ロぺスは俺に顔を向けた。


「ロぺス……なのか?」


 俺が知っているロぺスは、犬よりも小さな体をしていた。

 しかし黒い体毛と羊のような頭は、俺の知っているロぺスにそっくりだ。もちろん、こんなに禍々しくはなかったが。


 俺を前に、ロぺスは静かに立っていた。何かを思い出すように、ずっと俺の目を見ている。


 オレンは焦るような顔で叫ぶ。


「ロぺス、覚えているだろう!? お前が死ぬ直前、目の前で手を伸ばしていたのは誰だ!? お前が死ぬとき、最後に見たのは誰だ!?」


 その声に、ロぺスは突如苦しそうに頭を抱え、喘ぎだした。


 彼に言葉が届いているか分からない。

 しかし本当にロぺスが生前の記憶をもっているなら、俺が殺したのではないと分かっているはずだ。


 そう俺が殺したんじゃない。でも、俺は結局ロぺスを──


 オレンは喚くように続けた。


「そいつが立っていただろ!? こいつなんだ! このヒールが、お前を殺したんだ!!」

「違う! ロぺス、俺はお前を」


 俺は言葉に詰まってしまった。


 オレンによって、目の前でロぺスが燃やされた光景が頭によぎったのだ。


 ──俺は結局、ロぺスを守れなかったんだ。


 オレンの声が響く。


「殺せ、そいつを! 殺しつくせ、全てを! 思い出せ、自分が何者であるかを! お前は鏖殺おうさつの魔王なのだから!!」


 ロぺスは大きな咆哮を上げると、翼で風を起こし、倉庫の壁と屋根を吹き飛ばすのだった。

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