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十三話 進化しちゃいました!

「うおおおおお!!」


 俺は、おっさんことマッパのつくるピッケルで、さらに洞窟を掘り進めていた。


 ゴブリンたちやケイブスパイダーたちも、マッパの道具で採掘をする。


 実はこの数日で、更に多くのスライムをテイムした。

 全部で88体。

 なので、採掘物の運搬要員も足りている。


 地上では上陸しやすいように、俺が作った砂や岩で少し埋め立ても始めていた。


 全てが順調……

 のはずだったのだが、俺はインベントリを見てあることに気が付く。


◇インベントリ

 岩×23978

 鉄鉱石×899

 銅鉱石×978

 金鉱石×27

 銀鉱石×88

 石炭×2220

 石灰岩×789

 大理石×1999

 ……

 ルビー×8

 サファイア×6

 クリスタル×1399

 亀石×189

 禊石みそぎいし×3 

 輝石×389


 だいたいが、順調に増えてきている。

 だが、一つ気がかりなことがあった。

 

 というのは、竜球石が一個も取れない……のは、あまり気にしてない。

 そんなものが溢れていたら、むしろ怖い。


 そうではなく、寿命を延ばす亀石の出が悪くなっているのだ。


 すでにリエナは、俺の計算だと10年以上の寿命を亀石で得ている。 

 しかしここに来て、急に採れる亀石が少なくなったのだ。


 出る場所まで戻って採掘したいが、落盤の恐れがあるのか、【洞窟王】はあまりそこで白い光を示してはくれない。


 リエナには、今の状況を正直に打ち明けたが……

 笑って、もう私は十分ですよと答えてくれる。


 だが……その顔があまりにも健気で、俺は心が苦しい。

 なんとかしてやらねば……気づけばそんなことを頭の片隅で考えながら、俺は掘り進めていた。


 ……そんな時だった。


 突如、白い壁の空間にぶち当たる。

 洞窟王によれば、3mの高さで、6㎡の広さだ。

 

 俺はこの石室の中に、恐る恐る奥へ歩みを進める。

 白い大理石の壁と床。

 中央には散乱した岩と、青く光る小さな石が。

 そしてさらに奥には祭壇のようなものがあり、金色の石が置かれていた。


 誰かの墓というには、棺も像も見当たらない。

 何かの神殿か?


 俺はまず中央に落ちている岩を、インベントリに回収していく。

 ほとんどはただの岩……しかし、青い石を回収すると、一つ見慣れない文字が増えた。


「……偽心石ハートストーン?」


≪偽心石……使用することで、造生物の核とすることができる。 ……心石獲得により、【洞窟王】補助機能、人形ドール作成が可能になりました≫


 へ? 人形ドール


≪【洞窟王】では、偽心石で人形を作成できます。インベントリの各物質を組み合わせ、人形を作成、改造できます≫


 とすると、これでまた仲間を増やすこともできると。

 この周りにあった岩を見ると、この部屋には岩の人形がいたのかもしれない。

 だが、何かしらの要因で、壊れてしまった。


 どんな人形が作れるかは分からないがまあ、使い道は後々考えるとしよう。


 俺は更に奥に進み、金の石を回収してみた。

 

 ……昇魔石、か。どんな石だろう?

 壊れていた人形は、これを守るように配置されていたはず。

 恐らくは重要なものだと思うが。

 

 助言者が昇魔石を解説する。


≪昇魔石……使用することで、魔物を進化させることができる≫


 進化? これまたよく分からない言葉が出てきたな……


≪魔物を、更なる別の種の魔物に進化させます。年齢と記憶は引き継がれますが、体は新たなものに取り換えられます≫


 ふーん。ということは、寿命とかも変わったり?


≪寿命も変更されます≫


 へえ……とすると、リエナが寿命で悩むこともなくなるか。

 とはいえ、体を変えるなんて得体の知れないことをやらせるのは気が引けるな……


 とりあえず、この部屋はそのままにして、一度入り口まで戻ろう。

 今日はもう遅いし、こんな収穫があったと皆に報告したい。


 俺は入り口に戻ると、バリス、エレヴァン、リエナと一緒に輝石を囲んだ。

 シエルは俺の膝に座り、マッパも呼んでもいないのに焼き魚片手にやってくる。


「ふむ、人形ドールですか……申し訳ないですが、ワシも初めて聞く言葉です」

「そっか、バリスも知らないか」


 エレヴァンもリエナももちろん知らない。

 マッパも、むしゃむしゃ焼き魚を食べているだけだ。


「まあ、これはちょっと自分で色々試してみるよ。それよりも……」


 俺は本命の金色の石、昇魔石を出す。

 そしてこれが魔物に進化をもたらす石だと説明した。


「とまあ、寿命は変えられるらしいんだが……進化なるものがよく分からなくてな」


 だが、バリスはこの進化という言葉を知っていたようだ。


「進化ですと?! これが、その進化をさせる石というのですか?!」

「うん? バリスはこれを知ってるのか?」

「ワシはもちろん、姫も将軍も知っておりましょう。何せ、我らゴブリンの神話にも出てきますから」


 その言葉にリエナは頷いたが、エレヴァンは「え?」と首を傾げる。


「将軍……わしが昔、あれほど語ってあげたではないですか……」

「わ、悪い……神話とか、全然覚えてない」

「はあ……まあよろしい」


 バリスはエレヴァンに呆れながらも、俺にこんな問いを投げ掛ける。


「ヒール殿は、我らゴブリンに似た種をご存知ではないですか?」

「……似た種族? ホブゴブリンや、リーフゴブリンとか?」

「はい、仰る通りです。例えば、体がオークに近いホブゴブリンは、元は我ら普通のゴブリンでした。ですがある時、人間との戦いで力不足を感じたゴブリンが、人間に勝る腕力を持つ体を欲したのです。そこで、この石を手にして……」

「体の大きなホブゴブリンに、進化したってことか。とすると、リーフゴブリンもそういう話で?」

「ええ。深い森で生きていくため、葉っぱのような体毛で覆われた体を求めましたのが、リーフゴブリンです」

「なるほどね、種族の起源に進化がでてくるのか」


 より強くなるため、厳しい環境に適応するためにということか。

 

「ただ、あくまでも神話の石と我らは思ってましたので……そんなものをこの目にする日が来るとは」


 バリスは感慨深そうに言った。


「誰か……使ってみるか?」


 俺は興味本位でそう訊ねてみる。


 だが、バリスは首を横に振った。


「興味はありますが、そのような貴重な物を使うのはなんとも畏れ多い。それにこの体にも愛着がありますのでな」


 エレヴァンも頷いて答える。


「俺も自分のこの体に文句なんてないですね。むしろ格好良すぎて、絶対に進化なんてしたくないですぜ」


 自分の体を誇るように、腕の筋肉を見せるエレヴァン。

 元々、ゴブリンにしては立派過ぎる体格を持つエレヴァンは、人間の俺から見ても漢らしさを感じる。


 だが、バリスもエレヴァンも、実際は全く興味が無いわけではないだろう。

 この二人は、リエナにこそ、この昇魔石を使ってほしいと思っているはずだ。

 何せ、寿命を変えることができるのだから。 


 そしてリエナ自身も、進化に興味があったようだ。


「わ、私は……できれば、もっとヒール様のお役に立ちたくて……その、魔法とか色々……」


 ゴブリンは魔法を使える種族ではない。

 体が、魔力を宿せるようにはできてないのだ。

 進化によって、魔力を宿せる体をと思ったのだろう。


「で、でも、そんな価値のあるものは使えません!」


 リエナはすぐに首を振って、遠慮した。


「うーん、リエナが魔法を使えるようになれば、できることも増える。価値はいくらでもあったことになるだろう。興味があるんなら、使っていいんじゃないか?」

「し、しかし……」

「寿命のこともある……俺は、リエナに長生きしてもらいたいな」


 俺の声に、バリスもエレヴァンも深く頷いた。


「ヒール様……それに二人とも……」


 リエナは深く考え込む。

 そして深呼吸すると、こう言った。


「私……進化したいです」

「そうか、じゃあ決まりだな……はい」


 俺はリエナに昇魔石を手渡した。


「ありがとうございます……私、もっとヒール様のお役に立てるようになりますから」


 リエナはそう決意を口にして、昇魔石を強く握った。


 すると、リエナの体は光に包まれる。

 そして光はゆっくりとある程度の大きさまで膨れ、そこで眩しいぐらいに弾けた。


 光が収まった時、そこにいたのは……


「に、人間?」


 エレヴァンが思わずそう声を上げた。


 そう言うのも無理はない。

 リエナのいた場所には、透き通るような白い肌を持ち、長く美しい黒髪を腰まで伸ばした美女がいた。

 すらりとした長い手足と、女性らしさを強調する胸や腰。


 今までのリエナとは思えない……というよりも、人間としか思えない女性がそこにいたのだ。


 これには俺も、バリスもエレヴァンも驚愕した。

 マッパに至っては、鼻血を垂れ流し、その場でぶっ倒れてしまうのであった。

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