百二十九話 観念しました!?
「兄上……」
「ちっ……そんな顔で見るな」
俺の前で両膝をつくバルパスは、舌打ちし目を逸らす。
拘束具を手に嵌められたバルパスは、ハイネスによって倉庫近くに連れてこられていた。
「兄上。やはり、俺に嘘を吐いていたのですね」
俺はそんな彼に問い詰めた。
バルパスはやはり俺たちを探ろうと動いていた。また、俺も知らない特別な力の持ち主だったらしい。姿を消したり、魔力の反応をなくせる……暗殺者や間者にもってこいの能力だ。
父が彼をここに送ったのは、島の情報を探るのに一番頼りになると考えたからだろう。
いち早く彼に気が付いたハイネスがいうには、港から洞窟までの入り口を見られたとのことだった。
大陸では珍しいキメラなどの魔物、エルトたちドラゴンを目にしたのは間違いない。
まあ、魔物も共存する国だと宣言した以上、別に見られたって構いはしない。むしろ、ドラゴンがいる島と大陸に知らされれば、抑止力にもなるだろう。
一番の問題は洞窟だが、これも入り口ぐらいなら見られても問題ない。金銀などが保管されている場所は地下にある。
だが、ハイネスがいう。
「こいつ、世界樹へ行こうとしたのに急に立ち止まって、しばらくして洞窟のほうに方向を変えやがったんです」
すると、バルパスが俺に顔を向けた。
「ヒール……お前の紋章は【洞窟王】だったな。この島の発展ぶり、そしてお前の魔法……それはお前の紋章の力に違いねえ。あの洞窟で、その力が目覚めたんだろ?」
俺はバルパスの言葉に、なにも答えない。
しかし、バルパスはにやりと笑う。
「ほんの数か月でこれだ。さぞかし、すげえ力なんだろうよ……なあヒール、俺と取引しねえか?」
「取引?」
「ああ。王国に帰してくれたら、俺は王国についてお前に情報を送る。宮廷の内情について、包み隠さず報せてやるよ。だから、俺の命と生活を保障してくれねえか? 王国侵攻の暁には、裏から暗殺でも破壊工作でもなんでもしてやる」
バルパスは島の状況を見て、とても王国では太刀打ちできないと考えたのだろう。ドラゴンやキメラを見れば、そう思うのも無理はない。
「兄上……俺は王国に侵攻するつもりなんてありません」
「嘘をつけ。あれだけ俺たちから蔑まれていたんだぞ? キメラにドラゴン……これだけの力を得たんだ。すぐにでも恨みを晴らせるじゃねえか」
「……自分を見捨てた皆に恨みがないわけじゃない。見返したいという気持ちもあります。でも、今の俺にとって、そんなことはもうどうでもいいんです。俺は島の皆を守れれば」
「ヒール……そうか。お前らしいといえば、お前らしい」
バルパスはふっと笑うと、観念した顔でいった。
「で、俺をどうする? 島の内側を目にした俺を」
「どうもしません。いや、しばらくは誰かを付かせてもらいますが」
俺の言葉に、バルパスは安堵するように息を吐く。
「そうか、悪いな。まあ、そこの鼻がいい奴の前じゃ、もう何もしないさ」
バルパスの声に、ハイネスは自慢げに胸を張った。
俺はそんなハイネスに声をかける。
「ハイネス、本当にでかしたぞ。バルパスの監視は任せてもいいか?」
「もちろん。こいつは油断ならねえやつでしょうから。俺と兄上にお任せ下さい」
ハイネスは嬉しそうに、どんと胸を叩いた。「久々に活躍したぜ」と、兄のアシュトンの前で小躍りしている
しかしその時、倉庫のほうから何かが割れる音が響くのだった。