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百二十二話 かつての王でした!

「ついに……ついに、出られたのじゃあ!」


 エルトはそういって喜んだ。


 近くで見て思ったことだが、ドラゴンとしてはちょっと小さい気がする。俺より、頭二個分背が高いぐらいだ。背丈だけなら、エレヴァンに近い。


 以前、ロイドンというアースドラゴンの商人がこの島を訪れたことがあった。

 彼はドラゴンというにふさわしい巨体だった。背は象よりも高く、体長はちょっとした帆船ぐらいもあった。


 しかし、エルトはなんだか少し可愛らしい見た目だ。


 だが、エルトか……どこかで聞いたような気がするが。


 そんなことを思っていると、エルトが口を開く。


「ふう……しかし、余をテイムするとは……さすが、【洞窟王】じゃな」

「その【洞窟王】だが、お前の知ってる【洞窟王】はどんなやつだったんだ?」

「余も他者から聞いただけで、詳しくはない。知っておるのは地底を統べる王ということ。それと、数多の魔王がその力を畏れ、決して争わぬよう地底を侵さなかったことじゃな」

「なるほど……それで、地底の王を名乗ったことが怖かったのか」

「わ、悪かったと思っている。じゃが、勇者に封印石を託した【洞窟王】への恨みもあったのじゃ! 代替わりしたお主にはもちろん、恨みはないぞ!」

「そ、そうか」


 詳細は分からないらしいが、ともかく【洞窟王】は非常に恐れられていた存在らしい。この封印石を勇者に与えたことからも、俺同様採掘に精通していた者だとうかがわせる。


「そういえばさっきから気になっていたんだが、その代替わりって言うのは?」

「その名の通りじゃよ。一部の紋章は保持者が死ぬと、新しく生まれる誰かにその紋が引き継がれるのじゃ」

「へえ、紋章ってそういうものなんだな……」


 そもそも紋章について人間が分かっていることは、あまり多くない。

 その紋章にどういう効果があるのか、持って生まれてくる紋章は血筋に大きく左右されるということぐらいしか、判明していないのだ。


 エルトは不安そうな顔で、俺に問う。


「それで……余をどうするつもりじゃ?」

「そうだな……というより、エルトはどうしたいんだ?」

「余か? 余は、できるなら今一度魔王として、故地に君臨したい」

「……それはちょっと許容できないかもな」

「そ、そうか」


 がくっと肩を落とすエルト。


 昔の決まりがどうだったかは分からないが、エルトの故地にも生物はいて、すでに統治者もいるはずだ。

 そこに君臨するとなれば、流血を伴うことは必至。


「悪いが、俺は戦が嫌いなんだ」

「余も戦は別に好きではない。じゃが、お主の言う通り、帰れば戦になるやもしれぬ」

「故郷は、人が住んでいる場所なのか?」

「いや、余と同じような見た目をした生き物、ドラゴンが住んでいる場所じゃ。余は、そこの王じゃった」

「ドラゴン……あっ」


 俺は、エルトという言葉に聞き覚えがあることを思い出した。


 この前、この島にやってきたロイドン。

 その故郷は、エルト大陸という名前だったのだ。


 はっとした俺に、エルトは首を傾げる。


「なんじゃ? 何かあったか?」

「エルト。お前の故郷の名前は?」

「それは余の土地なのじゃから、当然エルト大陸に決まっておろう」

「やっぱりか」

「む? お主、余の故郷を知っておるのか?」

「ああ。そこのアースドラゴンの商人がここにやってきたんだ。それで、エルト大陸の話を聞いてな」

「なんと。まだ、余の名を冠したままだったか!? それで、今はどんな感じなんじゃ?」


 エルトは目を輝かせて、訊ねてきた。


 どう答えていいか迷った。

 ロイドンによれば、今のエルト大陸はあらゆる竜が争う、植物が少ない光景が広がっているということだった。


 とはいえ、いずれロイドンもまたやってくるだろうし……黙っているのも悪いな。


「エルト大陸は……今、ドラゴン同士が戦争している状態で、草木がほとんど生えない場所になっているらしい」

「な、なんと!? 余の臣民……ドラゴン同士で争っていると?」

「ああ。種族同士で争っているようだな」


 俺が頷くと、エルトはへなへなと腰を落とす。


「余が勇者に負けたら、大陸を出るなと命じておったのじゃ。勇者との約束じゃったからな。もちろん不満を口にするドラゴンがいるとは思っておったが、まさか仲間同士で争いだすとは……」


 エルトはすぐに俺に頭を下げた。


「ヒールよ! この通りじゃ! 余を大陸に戻してくれ! 皆の争いを止めたい!」

「それはいいが……」

「無論、余はお主の家臣のままじゃ。無駄な争いもせぬと約束するし、統一の際は臣民共々、お主の傀儡となる! なんでもするぞ!」


 そういうと、エルトは姿を変えて、人間の女性のような姿となった。

 長い赤髪と褐色肌……露出の多い服装で、こちらに迫ってくる。大きい胸をやたら強調して。


「お、ね、が、い、じゃ! ぶべっ!」


 エルトは俺のシールドに弾かれる。もしものために、だいたいいつも展開してるのだ。


「え、エルト。俺も争いを止めるのは賛成だ。でも、いきなり乗り込んでも、どうなるか分からないだろう?」

「そ、それはそうじゃが……」

「さっきもいったアースドラゴンだが、またこの島に来るあてがある。そいつの話を聞いて計画を立ててからでもいいんじゃないか?」


 数千年も経っているのだ。行った場所で何をいってんだこいつと、争いになってもおかしくない。


「……もっともじゃな。逸ってしまったようじゃ……」

「気持ちはわかるさ。とりあえずは、しばらくこの島にいればいい」

「その言葉に甘えるとしよう。余もできることがあれば、やらせてもらう」

「そうか。なら、頼みがあるんだが」

「ふむ? なんじゃ?」

「魔法が使えるなら、俺たちに教えてくれないか?」


 ドラゴンともなれば、高位の魔法が使えると思った。

 実際、ロイドンは魔法で会話するという術を使えていたのだ。エルトも相当な魔法が使えるに違いない。持っている魔力も膨大だし。


 エルトはすぐに頷き、快諾してくれた。

 

「おお! もちろんじゃ! といっても、余の得意なのは火の魔法じゃが」

「構わない。実は、魔法の教え手が不足していてな」

「そういうことなら任せるのじゃ! なにせ、余のご主人様の頼みじゃからのう!」


 エルトは胸を張って答えた。

 なんだかテンションが高いな。久しぶりに会話するのが楽しいのかもしれない。


 こうして俺たちは、エルトから魔法を教わることになった。

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