百二十話 地底の王と会いました!
「……なぜ、ここに人がおるのじゃ?」
突然聞こえてきた低い声に、俺は周囲を見渡す。
しかし、発言したであろう者の姿は見えない。
俺は自分から名乗る。
「俺は、ヒール。地底の王に会いにきた! あなたが地底の王か?」
すると、また声が響いた。
「いかにも、余が地底の王である。余になんの用だ?」
「まずは、あなたに謝りたいことがある。どうしても必要で、あなたが取るなといっていた溶岩を取ってしまった」
「ああ、それか」
地底の王は淡々といった。
どうでもいいのか、興味のなさそうに。
「ところで、ヒールよ。お主は人間じゃな?」
「ああ、そうだ」
「余が人間を嫌っていると、その者に聞かなかったのか?」
「聞いた。だが、溶岩を取ったのは俺の責任。だから、俺がきた」
洞窟に限らず、この島で起きたことは、すべて俺に責任がある。
危険じゃない交渉なら誰かに任せればいい。
だが、こういった厄介ごとは自分がやらなければ。
少しの沈黙のあと、地底の王はさらに訊ねてきた。
「余がどんな者かは?」
「全てを焼き尽くすほどの力を持つ者だと」
「ふむ。それにもかからわずやってくるとは勇気がある……ふむ、狙い通りじゃ」
地底の王は愉快そうにいうと、こう続けた。
「して、お主は埋め合わせをしたいわけじゃな?」
「望むなら、最大限それに応えたいと思う」
「ほう。なら、最大限応えてもらおう。退屈じゃったからな」
「退屈?」
「うむ。なにせ、人など滅多にやってこないからのう。ほれ」
地底の王が喋り終わると、俺のまえに急に火の玉が現れた。
それは徐々に大きくなると、やがて竜のかたちをした炎となる。
竜は声を発した。地底の王の声で。
「余と戦うのじゃ、人間。帰りたくば、余を殺せ」
もともとそのつもりか……
この炎の竜は地底の王の分身なのだろう。結構な魔力を感じる。
「それは断る。戦って得られるものなんて、なにもないはずだ」
「いや、得られる! 余は退屈しておったのだ! ……この地底に封じ込められ、すでに数万年。そこにようやく、お主が現れたのじゃ!」
「他にやれることはいくらだってあるはずだ! それに、ここが嫌というなら俺たちが出してやれる。向こうの転移石を使えば……」
しかし、地底の王は首を横に振った。
「いいや、無理じゃ。余の本体はな、あの奥の岩壁に封印されておるのだ」
「封印? 破れないのか?」
「うむ。中からいくら、攻撃を加えようがのう。外に分身を送り壊そうとしたが、それも駄目じゃった。この分身も、あの地下都市へ送るのが精いっぱいじゃ」
「なるほど……あの壁か」
気が付けば、俺はそっちへ歩き出していた。
「お、おい! 余と戦え! どこへいくつもりじゃ?」
「あそこへ行って、本当に壊れないかやってみるんだよ」
「馬鹿を申せ! 余はな、かつて炎獄の魔王と呼ばれておったのじゃぞ!? その余の炎で破れないのだ! 無理に決まっておる!」
「そんなの、やってみなきゃわからないだろ? それにここは洞窟だ……」
俺はそういって、奥の壁へと向かった。
地底の王やボルシオンも俺についてくる。
ここか……ただの岩壁にしか見えないな。向こうからは魔力も感じられない。本当に、なにかがいるのだろうか。
だが、ひとつ確実なのはここは掘れる。【洞窟王】がそう囁いている。
地底の王は、ピッケルを振り上げる俺を笑った。
「ふん! そんな棒きれでなにができ……え?」
俺がピッケルで壁を粉砕すると、後ろと前から同じ声が聞こえてきた。
そして目の前には、口を唖然とさせる赤い竜がいるのだった。