表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/290

十二話 実はすごい人でした!!

「ふう、終わった、終わった」


 俺は洞窟の入り口に戻って、そこで腰を下ろした。


 今日の仕事は、まずゴブリンの部屋を用意したこと。

 

 昨日、俺たちは200名以上のゴブリンを救助した。 

 つまり、この島は一気に200名の領民を抱えたのだ。

 さすがに、洞窟の入り口では寝床が足りなくなったので、新たな住処を用意しなければならなかった。


 ピッケルで真四角の空間を掘り、作った石材で簡単な机やベッドを用意して……これが俺の役目だ。


 まあ、結局は採掘中心の仕事であったのはいつもと変わらない。 


 代わりにゴブリンたちは、主に布団や服、漁網、などをケイブスパイダーと一緒に作ってもらっている。 


 それと並行して、引き揚げた船の解体もしていた。

 船をもう一度作り直すつもりなのだが、バリスが言うには道具が少ないようで、思うように進んでいないらしい。

 

 そこで俺は、ゴブリンたちにまず道具を作らせることにした。

 斧やピッケルなどの工具を。


 皆、真面目に働いているようだ。

 俺も一休みしたら、魚を取って、採掘に戻るとしよう。


 そんなことを思いながら、俺が自分の肩をポンポンと叩いていると、


「お疲れ様でした。ヒール様!」


 リエナは木の盃を持って、小走りでやってきた。


「リエナもお疲れ様。農園の方は上手くいってるか?」

「はい! さっそくですが、こちらを味見していただきたくて」


 リエナは俺に木の盃を差し出す。

 中は紫色の液体で満ちており、甘い香りが漂っていた。


「これは……ぶどうか!」

「はい! 果物の木は来年もでてくるので、今ある種類を一通り埋めてみました」

「おう、そうか」


 来年も……か。

 ここで来年を迎えられるなんて、前までは思わなかった。

 でも、今は仲間も増えたし、余裕で年を越せそうだ。


 そしてリエナも、来年もここにいるつもりなのだろう。

 ならば、もっとこの島を暮らしやすくしないとな。


 そんなことを思いながら、ぶどうのジュースを飲んでみる。

 うん。こんな新鮮な果物のジュースを、この島で飲めるとは思わなかった。


「美味しい……リエナも皆も、それぞれ頑張っているな。うん?」


 俺はここで、あることを思い出す。

 ……そういえば、竜球石どこいった?


 この島に来てから、物に執着することがなくなっていたので、すっかり忘れてしまっていたようだ。


 俺はあたりを探すが見つからない。

 確か分かり易いように、人間にしては大きな頭蓋骨の隣に置いていたのだが……


 そもそも竜球石の前に、その頭蓋骨が見当たらないのだ。

 あったであろう場所は、綺麗に頭蓋骨と周囲の骨が無くなっていた。


 高そうな石だとゴブリンがくすねたとしたって、骨まで持ってくだろうか?

 あるいはケイブスパイダーやスライムが……


 そんな時、怒声が響いた。


「お前、さっきから何じろじろ見てやがる!! 文句があるのか?!」


 声を上げたのは新たに仲間になったゴブリンだ。

 バリスの作った鍛冶場でピッケルや斧を作っていたようだが…… 


 どうやら、急に現れた小さなおっさんに怒っているらしい。


 小さなおっさんは昨日現れてからというもの、一人魚を食ったり、勝手に洞窟をうろうろとしていた。

 俺が採掘をしてるのを見て、少し驚いているようでもあった。

 ……全て、真っ裸のままで。


「おい、裸のおっさん!! 偉そうにただ見るだけでお前、何様のつもりなんだ?!」


 ゴブリンが声を荒らげるのも無理はない。

 

 おっさんは腕を組んで、ただ見てるだけ。 

 汗水たらして働いている者からすれば、なんだという話になるだろう。


 ゴブリンはおっさんに詰め寄り、金槌かなづちを手渡した。

 

「暇だったら手伝えよ! 全然ピッケルも斧も足りないんだ」


 そう言って、ゴブリンはピッケルや斧を差し出す。

 すると、おっさんはふてぶてしく、炉の前に向かった。


 そして着くなり、おっさんは炉の石を勝手に動かす。


「お前!! 何やってんだ!」


 ゴブリンの制止も聞かず、おっさんは満足したような顔で炉に火をつけた。


 そして目にもとまらぬ速さで、横に置いてある鉄塊を打ち付けていく。

 その速度があまりにも速すぎたので、俺はもちろんゴブリンたちは口をぽかんとさせる。


 もっと驚いたのは、ほんの数十秒でピッケルの頭を完成させてしまったことだ。


 おっさんは更に、口角を上げながら作業を続ける。

 斧の頭も作ったりしているようだ。


 気付けば俺は、おっさんの近くまで足を進めてしまった。


「な、なんだよ、これ……」


 ゴブリンはそう言いながら、ピッケルの頭を拾う。

 おっさんが作ったピッケルの頭は、細く優美な曲線を描いており、芸術品のように美しかったのだ。


 だが、ゴブリンは首を横に振って、

 

「け、こんな細いので岩が掘れるわけないだろ! すぐ折れちまう! 今すぐ作りなおせ!」


 ゴブリンはおっさんを無理やり止めようとした。

 だが、俺はそれを止める。


「待て! 俺が試してみよう、あいつには続けさせるんだ」 

「へ? へい!」


 ゴブリンはすぐにピッケルの頭を棒に付けて、それを俺に手渡す。


 早速これを使ってみよう。

 ただ単に速いだけか、それとも……


 俺は洞窟に戻ってみる。

 先程の声を荒らげたゴブリンやバリス、エレヴァン、リエナも一緒だ。


 すると……


「な?!」


 俺は自分の目を疑った。

 今までのピッケルの倍以上の岩が、一度で崩れたのだ。

 念のため、今まで使っていた方も試してみる。

 しかし、やはりおっさんが作ったものの半分しか掘れなかった。


「同じ鉄のピッケルのはずだが……あのおっさん、何者なんだ……」


 俺は鍛冶場に戻る。

 すると、そこには大量のピッケルと斧がもう出来上がっていた。

 

 おっさんはどうだと言わんばかりに、真っ裸で俺にどや顔を向ける。


 いや、すごいよ? すごいけども……


 まあ、裸とはいえ、鍛冶に関しては凄腕なのは間違いないか。


 俺はおっさんの近くまで歩き、そこでインベントリから銅、鉄、銀、金、すず、石炭などの鉱石を中心に採掘物を取り出した。


「これを使って、他の物も作れるか?」


 俺の声に、おっさんは鉱石を凝視してにやにやと笑う。

 目がその……なんだか変質者みたいだ。真っ裸だし。


 まあ、危害を加えるような奴ではなさそうだ。

 というよりは、どこか俺と同じ匂いがする。

 裸のおっさんと同じ匂いなんて、いやだが。


 だが、おっさんは俺の期待に応え……というよりは遥かに上回る道具を作っていくのであった。


 たださすがに裸のままでいさせられない。

 後日、蜘蛛の糸で編んだ腰巻は身につけさせた。


 しかしもう、おっさんの呼び名はマッパに定着してしまっていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術大学をクビになった支援魔術師←こちらの作品もよろしくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ