百十七話 壊れてました!?
「これだけ魔導石があったら、また人間っぽい領民を増やせるね!」
フーレの言葉に俺は頷く。
「ああ。多ければ多い方が、王国人も驚くだろうからな。 ……ん?」
周囲の魔導石やミスリルを回収していると、後ろから迫ってくる魔力を感じた。
それから少し遅れて、足音が響く。
「足音!? 誰!?」
フーレも気付いたようで、とっさに両手を入り口へ向ける。
俺が振り返ると、そこに立っていたのは重厚な金の鎧を着た者だった。
だがぎこちない動きで分かる。彼は人ではない。おそらくゴーレムなのだろう。
「ここの警備のゴーレムの生き残りかな? なっ!?」
鎧をまとった者は、突如手をこちらに向け、火炎を放ってきた。
もちろん、ちゃんとシールドは張っている。火炎はこちらには届かない。
ぼうぼうと燃え盛る炎を前に、アリエスが声をあげる。
「攻撃してきた!?」
「ゴーレムたちは制御できてたんじゃ!?」
フーレの言う通り、シエルは地下のゴーレムの制御に成功したと述べていた。
シエルもどうしてといった様子だ。
だが、シエルも見たことがないやつなのかもしれない。
こいつは他のゴーレムと、明らかに様子が違う。
奴の魔力の反応がおかしいのだ。五か所にやたら魔力が濃い部分があり、それぞれ魔導石がはめ込まれているのをうかがわせる。
「奴の魔法は火炎だけじゃないはずだ……こっちからも仕掛ける、フーレ、シールドを頼む!」
「え、あ、うん!」
フーレは俺のシールドを補強するように、新たなシールドを展開した。
その隙に、俺は火炎魔法を放つ。ゴーレムの火炎と衝突し、周囲に火の粉と熱波を散らすが、俺の火が打ち勝った。
が、攻撃は防がれてしまう。
やつもシールド魔法を使うらしい。それは破れたが、どうも体のほうも魔法を防ぐ力を持っているようだ。
以前、浮遊するゴーレムと戦った時と同じだ。
彼らは、体に魔法への耐性がある魔防石や、魔法を吸収する魔吸晶を装備しているのだろう。
「となると、厄介だな……ピッケルでやるしかないか。うん?」
「おおおおおう!!」
コッパは大声で吠えると、ゴーレムのほうに飛び掛かる。
「コッパ、待て! 危険だ! っ!」
俺はすぐにコッパにシールドをかけてやる。
また、タランが援護するように、ゴーレムへ蜘蛛糸を放った。
金色の剣を抜き、蜘蛛糸を切り払うゴーレム。
そこに、コッパが目にもとまらぬ速さで、けむくじゃらの腕によるパンチをかました。
「よくやった、コッパ! 後は任せろ!」
壁に勢いよく打ち付けられるゴーレムに、俺はトドメと言わんばかりにピッケルを振り下ろす。
ゴーレムは透明となって消えていった。俺のインベントリへと。
「お、ナイス連携!」
フーレはそういって、コッパやタランの頭を撫でる。フーレもなんだかんだ、コッパの頭を撫でたかったのかな……
しかしコッパのやつ、俺たちのために身を挺してくれるとは。
ちょっと無謀な気もしたが、そこはマッパに教育してもらおう。
いや、そうしたらマッパみたいに、あちこちうろつくようになるか……
まあ、ともかくよしとしよう。
「フーレも腕を上げたな。シールド張ってくれてありがとう。それでこいつはいったい……」
同時に、俺のインベントリにはゴーレムの残骸が回収された。
魔導石、魔防石、魔吸晶、そしてオリハルコン。
どれも圧縮されているのか量は多いが、全部知っているものだ。
だが、ひとつおかしな点があった。
偽心石がないのだ。
代わりに、見慣れない石がある。
「心臓石……?」
心臓とは、王国の医者がいうには、胸で鼓動する血の袋らしい。
人間だけでなく、動物や魔物にも存在する。
あらゆる生物にとっての急所として知られ、生物の根源であると主張する者もいた。
その、石か……
図鑑が言うには、この心臓石は、偽心石が壊れたもの、と記載されていた。ゴーレム作成にも使用できるらしい。
「ふむ……シエル、心臓石に聞き覚えは?」
俺の声に、シエルは体を横に振る。
「そうか……このゴーレム、どうやら偽心石じゃなくて、どうもその心臓石で動いていたようだ」
シエルはますます分からないのか、体を傾げるような仕草を見せた。
「助言者がいうには偽心石が壊れたものらしい。それで制御が利かなかったのかもな」
一度、自分がドールをつくる際に、使ってみるか?
何故俺たちを襲ったのか、琉金でつくれば喋ってくれるかもしれない。
「うん、マッパ?」
いつの間にか、マッパがコッパの頭を撫でている。
見ると、奥の管は直っていた。
「もう直したのか!?」
マッパは頷き、得意気な顔で胸を張った。
フーレが感心したようにいう。
「ほんと、こういうのだけは頼りになるよね、マッパのおっさん」
「本当によくやってくれたぞ、マッパ。だが、ここをこのままにするのは危ないな」
また、同じようなゴーレムがやってくるかもしれない。
さっきの心臓石のゴーレムがきたのが、たまたまじゃない可能性もある。
しかし、マッパは安心しろと言わんばかりに、管をごんごんと叩いた。
「強度に自信があるんだな? そしたら、後は」
俺は魔導石を二つほどだし、それを管の前に置いた。
そして魔導石に、シールド魔法を刻む。
「とりあえずの措置として、ここの防衛はまた考えよう。よし、じゃあ」
俺がいうと、シエルは力強く体を縦に振った。
俺たちは制御装置を操作しに、もともとアリエスがいた場所へと向かうのであった。