百十五話 おっさんと戦いました!!
「まずい!」
俺はそういって、おっさんの顔が迫る前面に、強力なシールドを展開する。
するとそれに気が付いたのか、おっさんは急に方向を変えた。
塔の先っぽに着地するおっさんを見て、俺たちは声をあげた。
「あれ……キメラ?」
フーレのいうように、おっさんはキメラと同じ四本足であった。獅子に似た、たてがみも持っている。頭頂部はつるぴかだけど……
だが、蛇の頭がついた尾と、背中から生えた山羊の頭は見えない。
とげとげのしっぽ、それにまるで人間のおっさんのような顔、他のキメラとは明らかに異なる特徴を持っている。
「いや、あれはキメラじゃない……マンティコアだ!」
アリエスがそう呟くので、問い返す。
「マンティコア?」
「はい。といっても、僕もこの目で見るのは初めてですが。やつは尾の毒針と、鋭い爪と牙で攻撃するようで、キメラより何倍も凶暴です!」
アリエスの言葉を肯定するように、シエルは体を縦に振った。
「そうか。だから、キメラたちも怯えていたのか。しかし……」
マンティコアはなんだか、こちらをとても悲しそうな顔で見ている。
しかも、「うう……」とか「おぉう」とか切なそうな声を漏らして。
……そんな目でこっちを見ないでほしいんだがな。
しばらく様子を見ていると、マンティコアは突如「ああああ!!」と咆哮をあげた。
そしてしっぽをこちらに向け、棘を放ってきた。
「毒針か!?」
ただの毒針ではない。
槍のように長大な針も有れば、裁縫に使うような小さな針も見えた。
それは雨のようにこちらに降ってくる。
俺のシールドは、毒針を一本も通さず防ぐ。
跳ね返る針が光のように弾けるのを見るに、針自体は本当の針ではなく、魔法だったようだ。
しかし、なかなか攻撃は緩まない。
あのマンティコアの魔力は非常に膨大だ。この針の攻撃が魔法だとすれば、まだまだ撃ってくるだろう。
「しかたない……倒すか」
とはいえ、人間みたいな顔をしているので何とも気が重い。
しかもあの悲し気な顔……孤独を感じてそうな顔だ。
そんなことを思っている間に、マンティコアは塔の上から動いた。
シールドを破れないと思ったのか、針を撃ちながら、こちらへと飛び込んでくる。
「しまった!」
あまりの速さに、俺は判断を鈍った。
あるいはシールドを展開しているという安心感があったのだろう。
マンティコアはもうすぐそこまで来ていた。
突っ込んでくるマンティコアは、シールドへ……勢い良く頭をぶつける。
「おおぉう……」
悲痛な声をあげて、マンティコアはシールドの表面をなぞるようにずり落ちていく。
どすん、という音が地面を揺らした。
マンティコアはその場で仰向けとなり、痛そうに頭を抱える。
「自滅した……」
「あ、あまり賢い生物じゃないのは知ってたけど、ここまでとは……」
フーレもアリエスも唖然とした表情だ。
「ま、まあシールドは透明だし、よく見えなかったんだろ! 皆、そんなふうにいうなって!」
さすがになんか可哀そうに思い、俺はそんなことを呟く。
マンティコアはぴくぴくとしながらも、もう戦えるような様子じゃない。
「まだ、息はあるようだな。しかし……」
まだ戦意があるのか、なかなかテイムが可能にならない。
もう少し痛い思いをさせれば、テイムできるかもしれないが……この状況でいたぶるなんて、それこそできない。
「なるべく苦痛のないように倒すか……あるいは檻のようなものに閉じ込めるという手も……うん?」
マンティコアの前で、立ちはだかるように両手を広げる男がいた。
「マッパ……」
マッパはそのまま手を合わせ、懇願するように目をうるうるとさせる。
「ま、まさか……マッパのおっさん、そいつ飼いたいの?」
フーレの問いかけに、マッパはうんと首を縦に振る。
俺はそんなマッパにいう。
「おいおい、犬じゃないんだから……危険なやつなんだぞ。まあ俺たちも、殺したくはないが……」
このまま放置すればまた襲ってくるかもしれないし、テイムしてないのに地上に連れていくのも危険だ。
だが、どうしてもとマッパは膝を折る。
マッパがここまで俺たちに何かを頼むのは珍しい。見た目的に親近感がわいたのかな……
「そうはいっても……うん?」
後ろにいたマンティコアは、マッパを見てか、急に「うわあああ」と泣き始めた。
マッパはそんなマンティコアのもとにより、そのピカピカの頭を撫でてやる。
そしてどこにしまっていたのか、干した魚を食べさせた。
マンティコアは魚をもぐもぐ食べると、泣き止んだ。
その様子を見たマッパはえらいと言わんばかりに、頭を強く撫でてやる。
あのマンティコアも実は子供なのかな……うん?
≪テイムが可能な魔物がいます。テイムしますか?≫
どうやら、戦意を喪失したらしい。
「お手柄だぞ、マッパ。そいつの面倒を見れるか?」
うんうんとマッパは首を縦に振った。
「わかった、テイムするとしよう」
こうして、島に新たな仲間が増えた。
このマンティコアはコッパと名付けられ、マッパに面倒を見られるのであった。