百十四話 謎の声が響きました!?
「よく食べるな……」
魚をむしゃむしゃと食べるドラゴンたちを見て、俺はいった。
生まれてまだ半日経ってないのに、すでに魚を丸呑みしていく。
リエナが頷く。
「最初は泣いていたので、私たちと変わらない赤ん坊だと思いましたが……リルちゃんやメルちゃんよりも、成長が早いかもしれませんね。あっ」
魚を食べ終えたファイアードラゴンのファルは、突如翼をばたばたとさせた。
ファルはそのまま空へ上がると、すぐにリエナの胸元に飛びこんだ。
俺はそんなファルに声をかける。
「もう飛べるのか? えらいな」
「ふふ。体が大きくなるのも早かったりして。抱っこできるのも、今の内かもしれませんね」
リエナはファルをよしよしと撫でながらいった。
「そうだな。しかし、メルもそうだったが、まさか一日で飛べるようになるとは。おっ」
リルとメルも食事を終え、俺の胸元へやってくる。
「ふたりとも、さっきはよくやったぞ」
もとの子犬と小鳥のような姿になった二人を、俺も撫でた。
リエナもそんな二人を褒める。
「本当に助かりましたよ。だけど、知らない間に変身できるようになるなんて」
「俺も驚いた。ふたりとも、勉強熱心だな」
リルとメルは頭を掻いて、照れるような仕草をみせた。
そんな時、後ろからワイバーンたちが次々と飛び出した。
ワイバーンたちは親と認識したリエナや、他の魔物たちの周囲を飛んでいるようだ。
リエナはワイバーンの一体を抱きかかえると、こういった。
「この子たちまで。ふふっ。成長が楽しみですね」
「ああ、そうだな……リル、メル。しばらくファルたちの世話を頼めるか? 勝手に食べちゃダメなものとか、行っちゃいけない場所とか、教えてくれると助かる」
俺の言葉に、二人は任せとけと、手と翼で胸を叩いた。
こうして俺は再び地下都市へ向かった。
鉄道で最下層まで降りると、いつもの顔ぶれを見つける。
タラン、フーレ、アリエス、そしてマッパ。
シエルと十五号は俺と一緒にやってきた。
「それじゃあ、今日も頑張るか! ……って、皆なんか元気ない?」
一人声をあげた俺だが、皆が不安な顔をしていることに気が付く。
フーレは皆と顔を合わせ、口を開く。
「ご、ごめん、ヒール様。だけど、この声……聞こえる?」
「声? うーん」
俺は耳元に手を持ってきて、耳を澄ます。
すると、「おお……」だとか「うぅん……」という低い声が聞こえる。
泣いているような、どことなく寂し気な声だった。
「本当だ……まるでおっさんがひとり唸っているような……って、マッパだろ?」
俺はマッパに目を向けた。
しかし、マッパはとんでもないと両手を振って答える。
「本当か? まあ、たしかに地下都市全域に響いている感じだもんな」
心なしか、ケイブスパイダーたちも天井のほうで大人しくしている気がする。
「タラン。他の、ケイブスパイダーたちに、この声の正体とか聞いたか?」
タランは体を縦に振る。
そこにフーレが続けた。
「さっき聞いてきてもらったんだけど、何が鳴いているかは分からないみたい。たまに、こういう声が響くらしいけど」
「へえ……キメラの長か何かかな。とにかく、調べてみる必要がありそうだな」
シエルも頷くような仕草をみせた。
「シエルも分からないってことか。よし、慎重に進もう……」
俺たちは、制御装置の本体を修理しに、地下都市を進み始めた。
しかし、五分も歩いたところで、ある異常に気が付く。
「そういえば……今日はキメラの気配がないな」
「いつもは鳴き声とか聞こえるのにね。もしかしたら、このおっさんの声のせいなのかも?」
フーレの言う通り、得体のしれない声だ。
正体は分からなくても、皆、不気味に思うのは間違いない。
「ケイブスパイダーも怯えているみたいだしな……うん!?」
俺は真正面から、急速接近する魔力の反応に気が付く。
「なんだ、この速度!? キメラじゃない!?」
今までにない速さで接近してくる何かに、俺は恐怖した。
とっさにシールド魔法を展開していると、闇夜に突如、赤く巨大な何かが浮かび上がる。
それはとても悲しい顔をした……巨大なおっさんの顔だった。
つるぴかの頭に立派な髭を生やした、おっさんの顔。
飛び込んでくるそのおっさんに、俺たちは思わず悲鳴を上げるのだった。