百十一話 琉金で遊びました!!
「おお、これは……」
俺は琉金で改造を施した十五号をみて、思わず声を漏らした。
目の前には、少し色黒の、逞しい筋肉をもった男がいる。
端正な顔立ちに、整えられたあごひげが目立つ。
服装は貴族のもので、帝冠を被っているからか、なんだかどっかの王様みたいだ。
なるべく威厳のある、格好いい中年男性をイメージしてみたが……もう、十五号が王様でいいんじゃないかって見た目だな。
「ええ、何この格好いいおっさん!?」
フーレをはじめ、島の女子たちの評判も上々のようだ。
十五号は胸に手を当て、綺麗にお辞儀をした。
「皆様。お褒めいただき、たいへん光栄です」
顔もいいなら、声もいい。魔物の女子たちから、きゃあと声が上がる。
もともと執事っぽい仕事ばっかりやってたからか、とても礼儀正しいな。
なんなら、十五号には俺の代わりに、皇帝として玉座に座ってもらうのも手かもしれない。
ヒールというのは、名前が一致しただけだったとか……無理があるか。
ともかく、琉金でのゴーレム改造は上手くいった。
今彼らは人間のような姿をしているが、もとのゴーレム姿にも戻れるし、俺が指定した別の姿にもなれるようだ。
そしてもっと驚きなのは、この琉金は、量以上に大きなものには変形できないが、小さいほうにならある程度変形できるということ。
たとえば、この島の最初のゴーレム一号は、巨大な体をもっている。
だが、琉金を纏わせることで、彼もまた人間や別の魔物に変形できた。
これは非常に便利だ。
彼らは洞窟で行動するには、巨体過ぎた。
地下都市までは小さいまま移動し、下では巨大ゴーレムとして展開……洞窟でもスムーズに動けるようになる。
小さくなった分はどこにいったという感じだが……
もちろん、小さくなるといっても、ある程度の限界はあるようだ。巨大ゴーレムが、犬猫の大きさになるのは不可能だった。
一号を見てか、琉金を纏ったマッパも小さく変形する。
しかし、元に戻ることもできた。
そんなあり得ないような金属に、俺は思わず声を漏らす。
「体のどこかが消えているわけでもないと……どういう金属なんだ」
「何をいまさら! 寿命を延ばすとかいう石もあるのに」
フーレの言葉に、俺は「まあそうだけど」と納得した。
「で、ヒール様。余った分は使っていいんでしょ?」
「え? ああ、もちろんだ」
「それじゃあ……」
フーレは琉金を被ると、自分の姿を変形させた。
次第に浮かび上がってきたのは……
「おお、エレヴァンか」
「そう? どう?」
筋肉をこれでもかと自慢するフーレ。
親子だからか、所作がすごい似てるな……フーレも筋肉に憧れがあったのかもしれない。
「あ、フーレ! お前、俺の姿を真似して!! くそ、こうなったら……」
エレヴァンも樽から琉金を纏わせた。
その体はより筋肉がついた、ゴーレムのような巨躯になっていた。しかし、頭の大きさだけは変わらない。
エレヴァンはフーレに琉金でできた筋肉を自慢する。
「どうだ!」
「な、なんかきもい。顔小さいし」
と、余った琉金で皆それぞれ遊び始めた。
ハイネスもその一人で、アシュトンに琉金を触らせ、何かをさせようとしていた。
「し、しかし、ハイネスよ……俺にはそんなこと」
「なにごとも挑戦だって、兄貴。それに、若にもコボルト族の魅力というものを再発見してもらいたいだろ」
「自然に任せとけばいいと思うが……うむまあ試しだ……」
アシュトンはリルの前で、ハイネスの声に渋々頷く。
そして琉金を被り、姿を変えていく。
「あれは……」
いたのは、コボルトの女性だった。アシュトンをそのまま、女性にしたような。
アシュトンは恥じらいながら、リルにいった。
「り、リル。おいで?」
それを、微妙そうな顔で見るリル。
「くぅん……」
アシュトンは残念そうに肩を落とし、ハイネスはそれを見て馬鹿笑いした。
リルの反応もだいぶ正直になってきたな……お、リエナも興味があるのかな。
樽の前で琉金を眺めるリエナに、声をかけてみる。
「リエナも、なんか変身してみたいのか?」
「え? いえ、私はもう姿を変えてますから。ただ……ちょっと気になることが。使っても、よろしいですか?」
「うん? もちろんだ」
俺が頷くと、リエナは琉金で姿を変えていく。
どうやら今より、小さい姿に変わるようだ。
いたのは……
「リエナ」
進化する前の、リエナの姿だった。
ちょこんとした、ゴブリンのリエナだ。
リエナは俺を見上げて、何かに気が付いたような顔をする。
「やっぱり……ずいぶんと見方が違います! ヒール様が、とっても大きく感じます」
「え? そ、そうか?」
「はい。昔はヒール様が……格好よく見えてたものですから。あ、いや、今ももちろん格好いいですよ!」
言い直すリエナに、俺はははっと寂しく笑う。
まるで、昔は格好良かったみたいな……まあ、ポンコツなのがばれてきているのかも?
ただ、リエナの視点の高さは変わった。
俺と会った時と比べると、見え方が違うのはたしかだろうな。
リエナは俺と会った時、寿命を縮ませる呪いで苦しんでいたし、状況もだいぶ変わった。
島や俺自身にも、大きな変化があった。
「ヒール様は……進化前の私をどう思ってました?」
「え? そ、そうだな……」
とても惹かれていた。
どんな暗い状況でも明るく振る舞うリエナに。
今もそれは全く変わらない。
最初はリエナの姿が、俺と同じ人間のようになったことに、少し戸惑いも感じた。
生物としての性か、新たなリエナの姿に心が揺れ動いていたのだ。
だけど今、元の姿のリエナを見て思うのは、彼女の魅力は見た目じゃないと分かる。
言いよどむ俺に、リエナはふふっと笑い「正直にいって大丈夫ですよ」などという。
リエナは子供っぽいとか言われると思っているのかもしれない。
でも、やっぱりリエナの笑う顔は会った時から、ちっとも変わらないのだ。
俺がその笑顔を好きなのも。
俺は世界樹の粉で頭がおかしくなって、口走ったことを思いだす。
そして何度か、言いかけて言えなかったことを。
「……好きだ。今も昔も、会った時からずっと」
言ってしまった。
俺が恥ずかしさで頭が沸騰するのを感じる。
一方のリエナははっとした顔をすると、泣きそうになる。
だが、笑って「私もです」と答えてくれた。
その顔があまりにも明るくて、俺は心を打たれる。
結婚しよ……
必ずだ。いつになるか分からないけど、指輪を渡して、突然結婚式を開こう。
……もちろん、リエナが俺の言葉を受けてくれるかはわからないけど。
俺はそう心に決め、しばらく元の姿になったリエナと、琉金で遊ぶ者たちを眺めるのであった。