百十話 人間が生まれました!!
「うわああああぁあああ!!」
俺は金色の巨大ヘビ……琉金をまとったマッパの背中の上で叫ぶ。
「マッパ、すとっ……うぉぉう」
吐き気を抑える間にも、マッパを洞窟の狭い道を這いあがっていく。
鉄の馬車ではなく巨大なヘビが鉄道を進むのを見て、道を歩いていた魔物たちは驚愕していた。
マッパの姿は彼らに、以前俺たちが戦ったリヴァイアサンを思わせているのかもしれない。
まあ、ヘビの先頭部分にはマッパの頭だけがでているので、誰も逃げはしないが。
そのまますごい勢いで、マッパは外へと飛び出した。
俺たちの前に、建築の進むシェオールの光景が広がると、やがてマッパはとぐろを巻きながら着地する。
「はあ、着いた……」
俺が降りると、コボルトのハイネスが犬のように四足で駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫ですか? ヒールの旦那?」
ハイネスは俺の顔がひどくげっそりしているのを見てか、そう気遣ってくれた。
しかし、すぐにマッパを見て、額から汗を流す。
「あれは……なんていう魔物なんですかい?」
「名づけるならそうだな……マッパサンとでもしとこうか」
俺は息を整えながら、そう答えた。
見ると、マッパの後ろから続々と、地下都市のケイブスパイダーがやってくる。
「ありゃ? あんなに蜘蛛たちいましたっけ? しかも、皆大きいような。体も青い」
「あれは地下都市にいたケイブスパイダーたちだよ。地上を見たくて来てるんだ。自由にさせてやってくれ」
そう答え、俺はマッパのもとに向かった。
「マッパ、それじゃあ回収するぞ」
俺がいうと、マッパは若干残念そうな顔で、自分の巨大な体を見た。
「ある程度はマッパにも分けるから、大丈夫だ。鍛冶に役立ててくれるかもしれないからな」
琉金から顔だけを出したマッパは仕方ないなと、頷いた。
それを見て、俺は琉金の自動回収を命じる。
すると、琉金はみるみるうちに消えていった。
マッパには、掘立小屋ぐらいの大きさの琉金は残してあげた。
再び、マッパはその琉金を使って、自分をそのまま巨大化した姿になる。
そこに魔物の子供たちが寄っていった。
「相変わらず人気だな……よし、じゃあさっそくこの琉金をつかって、ゴーレムを作るか」
偽心石は五十個ある。魔導石も一応使ってみるか。
俺は人間の姿のゴーレムを想像し、作成に取り掛かろうとした。
しかし、
「おい、マッパ!! お前、またなにをやってやがる!?」
エレヴァンが大声で、巨大なマッパに寄った。
マッパは自身の体を自慢するように、今では自分より小さくなったエレヴァンに見せつける。
いつものだらしない体ではなく、偽りの筋肉で覆った体を。
まるで、筋肉自慢のエレヴァンに挑戦するかのようだ。
「おまえ! ケンカ売ってんのか!?」
またこの二人か。こんなときに。
マッパ二号……いや、三号ができたらどうするんだ。
俺はさっさと、自分を模したゴーレムをつくろうとした。
しかしその時だった。
マッパはエレヴァンのまえで、瞬時に姿を変えた。
「な!?」
それは、マッパをそのまま女性にしたような見た目の、グラマラスな誰かだった。
マッパはその姿で、エレヴァンにキスしようとする。
エレヴァンはそれを拒否しようとするが、マッパの伸ばした琉金の触手に体をくすぐられる。
「ひぃ! や、やめやがれ!! 気色わりい!」
「しまった!?」
気が付けば、俺の口からはそんな言葉が漏れていた。
目の前に、新たなゴーレムが誕生する。
「あっ……」
そこにいたのは、女性の姿をしたマッパだった。当然、真っ裸である。
それを見たマッパはすぐに琉金を剥がし、元の姿へと戻る。
そして新しいゴーレムに飛びついた。
またやってしまったようだ……
周囲が引いた顔で見守る中、マッパはゴーレムにキスをしようとする。
が、ゴーレムはそんなマッパの口を手で抑えた。
つれない反応に、マッパは残念そうな顔をする。
え? ゴーレムなのに、意思でも持っているのか? それか、マッパが相手だから?
俺はそれを確認するためにも、この後王国のどこかで見たような人間をイメージしながら、ゴーレムをつくっていった。
しかし、ちょっとした異変があった。
老若男女均等につくったのだが、俺はあることを忘れていた。
それは服を着るように命じてなかったのだ。
だからか、皆恥じらう姿を見せた。
「これは……恥ずかしいのか?」
俺の声に、皆声を揃えて「はい」という。
これにも驚いた。
声を発することができるとは。
マッパの声が拡大されたのを考えれば、まあそういうこともできたのだろう。
そもそもゴーレムは、俺の言葉を解し、指示通りに動けた。
「ご、ごめん! 皆、まわりのやつらの服を真似てくれ!」
俺がいうと、人間型のゴーレムは各自で、琉金を変化させ、簡素な服を身にまとっていった。
「これは驚いたな……偽心石には、心が宿っていたのか?」
それとも、そう見せているだけだろうか。
シエルは体を縦に曲げる。
「ということは、これは見せかけってだけか」
それにしても、驚いたが。
俺が思う人間は、裸であることを恥ずかしがる。
彼らはまるで人間のそのものの反応をみせた。
しかも、言葉を喋れるとは、より一層、ゴーレムたちとの連携が取りやすくなりそうだ。
この後、俺は既存のゴーレムたちも改造するのであった。