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百七話 蜘蛛が降ってきました!!

「おお……なんというか思ったより、綺麗だな」


 間近で見た市街地は、恐ろしいほどに綺麗だった。


 白い舗装道にはカビも埃も見えず、まるで誰かが掃き清めているような綺麗さだ。


 フーレも市街地を見上げて続ける。


つたとかも生えてないよね……まあ地下だからそりゃそうだろうけど。誰かが掃除しているのかな?」

「どうなんだろう? うん?」


 俺はシエルが体の面を空に向けていることに気が付く。


 見ているのは、建物の壁のようだ。


 壁には何やら粘液がひとりでに動いていた。

 よくみると、他の建物でも同じ光景が見られる。


「あれはスライムか? そうか、彼らが掃除していたんだな」


 シエルは少し自信のなさそうな様子で、体を縦に振った。


 もしかしたらシエル自身も、スライムたちが自主的に活動していることを意外に思ったのかもしれない。


「これなら歩くのに苦労しないな」

「ええ。ですが、陛下。キメラが暴れて陥没した場所もあるかもしれません。お気を付けください」


 アリエスは十五号の頭の上でそう呟いた。


「あの巨体だもんな。分かった、気を付けるよ」


 俺たちは、再び琉金の貯蔵庫を目指すことにした。


 先導するシエルの後を俺たちが続く。


 しかし、ぞっとするほど街は綺麗なまま。


 ここは、キメラたちが争う場所とは違うのだろうか。


 そんなことを考えながら進んでいると、俺は迫ってくる魔力の反応に気が付く。


「これは……キメラ?」


 巨大な魔力、形からしてキメラなのは間違いない。


 俺より少し遅れてだが、十五号とフーレも気が付いたようだ。


「本当だ。こっちに向かってきている?」

「キメラが? 一体だけ?」


 アリエスの問いかけにフーレは頷く。


「うん……今のところは」

「倒したとしても、その血が仲間や敵のキメラを呼ぶ可能性も高い。陛下。どうされますか?」


 俺はアリエスに答える。


「乱闘は避けたいな。アリエス、前の毒は出せるか?」

「はい。ただ、ちょっと量に限りがありまして……」

「そんなに何体も仲間にはできないってことか。ここはやり過ごすのも手だな……うん?」


 そんなことを言っていると、後方からも魔力の反応がやってきた。


「しまった……やつら、後ろからもくる」

「相当、鼻がいいみたいだね」


 フーレの言う通り、彼らは俺たちを匂いで捉えたのだろう。


「続々やってくるかもな……右からは来てないから迂回するか」


 シエルは体を縦に振る。


 そんな中、タランは何やら体を上に向けていた。


「タラン、どうしたんだ? うん?」


 突如、空を赤い光が覆った。


 その内のいくつかが、まっすぐとこちらに向かってくる。


「な、なにかが落ちてくる!?」


 アリエスが声をあげた。


「ちょ、ちょっと、声上げたらキメラが」

 

 フーレがいうと、アリエスはしまったという顔をする。


 しかし、キメラよりも赤い光のほうが接近の速度が早い。


 魔力の反応を見るに、どうやらこの赤い光の正体も生き物のようだが……


 しばらく様子を見ていると、それは次第に見慣れた生物であることに気が付く。


 一本の糸にぶら下がりながら、それは現れた。


「あれは……タラン?」


 フーレの言葉通り、赤い光の正体はタランに似た巨大な蜘蛛だった。


 いや、タランよりは一回り小さいし、体色も少し青い気がする。

 だけど、同じケイブスパイダーであることは間違いなさそうだ。


 その証拠に、その青い蜘蛛とタランはなんだか足や体を動かして、意思疎通をしている。


 それから少しして、青い蜘蛛は頷くような仕草をみせ、再び天上へと消えていった。


「タラン、仲間だったのか?」


 タランは俺の声に、うんうんと体を縦に振ると、見守るように体を天に向けた。


 それから間もなくのことだった、赤い光……ケイブスパイダーの大群が天井から糸を垂らして下りてくる。


「う、うわああぁぁあああ!」

「アリエス!! 私の言ってたこと、聞いてた!? キメラにばれるって」

「ご、ごめん、フーレ。でも、僕虫は苦手で」

「そ、そりゃ私もちょっと怖いけどさ」


 アリエスとフーレがそう思ったように、俺もちょっと怖い。

 蜘蛛には慣れたが、この数が一斉となると違った意味で威圧感があるのだ。


 ケイブスパイダーたちは、俺たちの頭上でぶらぶらと吊り下がる。


「た、タラン、大丈夫なの? 私たちを食べようとしてるわけじゃないよね?」


 身構えるフーレだが、タランはぽんとその肩を叩いて、まあ見てろというような態度を取った。


 その間にも、キメラたちはこちらへ接近してくる。


 俺はとりあえず、魔法壁を周囲に展開することにした。


 見つかりたくないのもそうだが、一度、間近で彼らの数や習性も把握しておきたい。

 最悪、俺が魔法で凍らせるなり、痺れさせるという手もあるだろう。


 キメラはついに、俺たちの視界に入る。


 前テイムしたキメラ同様、地上の個体よりも巨体なキメラが前後から現れた。

 それが五体もいるのだから、壮観だ。


「同時に出てきたな……こいつら、もしかして連携を取っている?」


 俺の言葉通り、キメラたちの動きは統制が取れていた。


 彼らは皆、息と歩調を合わせて、じりじりと距離を詰めようとする。

 

 だがその時、彼らの上から白い漁網のようなものが降ってくる。


 キメラはとっさに暴れてみるが、むしろどんどんと絡まっていった。


 切り裂こうにも上手くいっていない。


 これはケイブスパイダーの糸か……


 ケイブスパイダーは暴れるキメラを見ると、ゆうゆうと地上まで下りて、キメラの口をさらに蜘蛛糸で覆った。


「おお、さっすが蜘蛛!」


 フーレの言葉に、タランは少し得意気な態度をするのであった。

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