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百三話 外交官を決めました!

「な、なにもんだ、このおっさん!?」


 レイラと共にこの島にやってきた人間たちは、鍛冶場で金槌を振るうマッパを見て、口をぽかんとさせていた。


「これは驚いた……あの巨木と多様な魔物たちにも驚いたが……」

「ただ踊りが得意なだけの裸のおっさんじゃなかったんだな……」


 無理もない。


 マッパはドワーフだが、比較的人間に近い見た目をしている。

 だがそのマッパは、およそ生き物のものとは思えない速度と正確さで、金槌で金属を叩いているのだ。

 この様子を見れば、鍛冶をよく知らない者でも凄みを感じるだろう。


 しかし、できあがったのがマッパ自身を精巧に模した銅像だったのを見て、人間たちは少し困惑した様子をする。


 マッパは自慢げな顔で裸の像の隣に立ち、色々なポーズを取り始めた。


 これを見ていたレイラは、隣の俺にいつもと変わらない無表情な顔を向ける。


「食料や武器だけじゃなくて、働き手や職人もいる。いったいどうしたら、こうなるのかしら?」


 つっこむことも、笑うこともない。本当に冷静な子だな……


「そうだな……俺の紋章【洞窟王】と、この島の相性がよかったからかな……」


 【洞窟王】とシェオール、どちらかが欠けていても、今のこの島の状況はなかったはずだ。

 というか、俺はもう生きていないだろう。


 まあ、【洞窟王】という紋章がなければこの島に飛ばされることはなかったし、ある意味運命だったのかもしれないが。


 レイラは俺の手の甲の紋章を見て、呟いた。


「さんざん、馬鹿にされていたあなたの紋章がね……シェオールも取るに足らない島だと思われていたのに」

「ああ。どうなるかわからないものだ……」

「今、王国で幽閉されている父が知ったら、きっと後悔するでしょうね。あなたと私の婚約を解消したことを」


 そう呟くレイラからは、少しいらだちのようなものを感じた。

 彼女の話を先程から聞いていると、父であるバーレオン公を救う気はさらさらないように思える。


「そう悪く言うな……君の父上でなくても、娘をかつての俺と婚約させるなんて嫌がっただろう」

「何を言っても、見る目がなかったの一言につきるわ。でも、私は間違っていなかった。私の目はね」


 レイラは単に強がりたいとか、父を馬鹿にしたいというわけではない。


 彼女の紋章は【預言者】。

 未来を予知できる……とされる紋章だ。実際は何かが詳しく分かるのではなく、占いのようにざっくりとしたことしかわからないようだ。


 だが、レイラは俺が将来、王になるだろうと予言していた。


 それはつまり他の兄弟を差し置いて、父の跡を継ぐこと……

 そんなことは不可能だと思っていたし、そうはならなかった。

 でも、まさか違う形で一国の長になるとは……



「まあ、たしかにある意味でレイラの預言は当たっていたことになるな……」

「そうでしょ? ま、私の予言は外れることのほうが多いけど」


 レイラ自身は、自身の紋章を単なる占いぐらいにしか思ってないのかもしれない。


「預言は預言だもんな。それで、この島の地下なんだが……」

「すごいものが埋まっているんでしょう。さっき、バリスという老人からざっと洞窟のことは聞いたわ」

「もうそんなことまで聞いたのか?」

「ええ。あなたと島民たちとの出会いや、状況もね」


 レイラは信頼のおける人物。

 だから、バリスやリエナには、彼女に色々と教えてやってほしいと伝えておいた。


「さっきの会議で決まったことを抜きにしても、あなたはこれからも洞窟を掘り続けるべきよ」

「言われなくてもそうするつもりだよ。それが島の発展になるからな」

「そうね。私も、ぜひ協力させて」

「ああ、こっちとしても助かるよ。だけど、島の仕事にお前がやれるような……」

「失礼ね。農作業でも採掘でも、なんでもやるわよ。だけどひとつ仕事の希望があるとしたら……私から提案があるわ」

「提案?」

「私を島の外交官にしてくれないかしら? サンファレス王国と敵対する国も多い。その中で、シェオールの同盟国になってくれる国もあるかもしれない……」

「なるほど……外交か……」


 海に浮かぶ島なので、国境を接する国は存在しない。

 しかし、海を介して、シェオールは多数の国と交易ができる。


 また、王国がシェオールを攻撃しようとした場合、俺たちに同盟国がいれば思いとどまるかもしれない。

 あるいは、王国と和平や協定を結ぶ際、仲介役になってくれるかもしれない。 


「たしかに外交官が必要になるかもしれないな……ただ、誰と付き合っていくかは、島の皆で決めることだ。皆と相談して決めてくれるなら、俺もレイラに任せたい」


 レイラは公女ということもあって、大陸の社交界でも顔が利く。

 元は帝国の皇族という、ある程度の知名度や権威もあるのだ。


 なにより、レイラはいつも冷静で感情を表に出さない。

 外交官としてはうってつけとも言える。


 俺の言葉に、レイラはうんと頷く。


「任せて。交渉の前には必ず皆の許可を取るし、交渉の内容と結果も記録に残す……ちゃんとした外交部門をつくるわ」

「そうか。それなら、何も心配ない。レイラに任せるよ」

「ありがとう。きっと、島の利益になるような外交関係を構築してみるわ」

「ああ、頼んだよ……そうだ。この際だから、正式に大臣でも決めてみるかな」


 一応、バリスが宰相、カミュが海軍大臣だとかざっくりと役割は振っている。

 しかし、国を名乗る以上、役職として外部に名乗れるようにしておくといいかもしれない。


 レイラは島を見渡し、口を開く。


「それなら、各担当ごとに専門の建物があったほうがいいかもしれないわね」

「それは……今、バリスが建築を進めてくれている。宮殿もつくるって話だけど、レイラもなにか必要な施設があったら、バリスやリエナと相談してくれ」

「分かったわ。ちょうど、リエナとは話し合わないといけないことがあったし、さっそく行ってくるわね」

「あ、ああ。そういえばレイラ、婚約のことだけどさ……」


 はっきりと言ったほうがいいだろう。


 俺はレイラを尊敬しているし、好意も抱いている。

 だけど、あの婚約は親同士が決めたもの。

 もっと、色々と見てからでも……


 しかし、レイラはすでにさっさとバリスやリエナのいるほうへ歩き出していた。


「……まあ、しばらく俺と一緒にいれば、考え直すだろう」


 俺は何しろ優柔不断な男だからな。しかも、情に流されやすい。

 逆にレイラは冷静に状況を判断して即断即決ができる、聡明な子だ。


 ……俺とレイラは対極の人間といっていい。似ても似つかない。


 そんなことを思いながら、俺は琉金貯蔵庫へ行くための準備に取り掛かる。


 この日から、島の皆は各々”人間”を増やすため動き出した。


 まず、カミュはアモリス共和国まで船を出し、移民を募る準備を。

 また、リルやメルたちは人に化けるため、変身の魔法を覚えようと。


 一方で、王都の港からシェオールに向け、一隻の船が出航するのであった。

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