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百二話 仲間を増やすことにしました!!

「陸地の守りについては十分すぎるほどです。我らだけでも、十分敵を追い返せるでしょう」


 アシュトンは自信に満ちた顔で、円卓の俺たちにいった。


「船もそろってきているし、海軍も見てくれだけなら一流に見せれるわ」


 カミュもはっきりとした口調で答える。


「大将! ふたりの言う通り、戦については任せてくだせえ! そもそも戦おうとする前に、あいつら逃げ出すんじゃねえかなあ」


 エレヴァンはそう胸を張る。


 すると、バリスが俺に訊ねた。


「たしかに、かつての我らからすれば相当な戦力になりましたな……しかし、いまいち王国海軍の実力が分かりませぬ。されど陛下は彼らをよく知っておられる。彼我ひがの差はどう思われますかな?」

「十分……いや、俺たちが圧倒できるだろう」


 皆の言う通り、この島はすでに強力な防備がある。

 規律のある守備隊、小規模だが水中型ゴーレムを有す海軍。

 それにマッパゴーレム、石造りの塔や防壁などは、見た目にもこの島の防備が厚いことを感じさせるだろう。


 さすがの王国海軍といえど、攻撃を思いとどまるはずだ。


 俺の言葉に皆がおおと声をあげる中、円卓に乗ったタコのアリエスがいった。


「なるほど……戦力的には我らが優勢と。寡勢かぜいで大軍を制してご覧にいれようと思ったが……」

「おいおい、さっきからこのタコなんなんだ……自分を大軍師だの名乗っているが……名前は、アリ……あほんだらだっけか」


 エレヴァンがいうと、アリエスは声を荒げる。


「大軍師アリエス! それに僕はタコじゃないと何度言ったらわかるんだ!」

「へいへい……しかし、軍師ねえ。軍師ならなんかいい案はねえのか? さっきから黙って聞いてるだけじゃねえか」

「ほう、新参の僕に意見を求めるか。もっと荒々しい男かと思ったが、賢いな。なかなか見る目があるようだ」

「そ、そりゃ、まあな」


 エレヴァンはちょっと嬉しそうに腕を組んだ。


 フーレはそんなエレヴァンに呆れるような顔をした。


「お父さん、ちょろすぎない……まあいいや。で、アリエスは聞いててなんかないの?」

「そうだな……軍事力で優位が取れたとなれば、交渉においても有利な立場に立てるようにしたいね」

「交渉で? 具体的には?」

「そ、そうだな……ええっと」


 アリエスは言葉に詰まる。


 アリエスが言いたいのは、交渉でも王国人を驚かせるような何かがほしいということだろう。


「交渉で、ってことですか……金でもみせびらかしやすか?」


 ハイネスがそんなことを呟いた。


 自治を要請する見返りに王へ金を出す、あるいは監察官や徴税官に賄賂でも送って……ひとつの手ではあるかな。


 しかし、これにはちょっと問題がある。


 俺と同じことを思ったのか、リエナがいう。


「金銀宝石と交換にってことですか……かえって彼らの欲をかきたてるようなことに、なるかもしれませんが」

「そうだな……金を渡すにしても、少量にすべきだ。前もいったが、この島にある金は大陸の経済を大きく変えてしまうことになる」


 それに、この島に大量の金があると分かれば、王国以外の者たちもこの島に領土的野心を持つかもしれない。

 洞窟や金のことは、やはり秘匿ひとくすべきだな。


 フーレがいう。


「まあ、こっちは何も悪いことしてないのに、何かを渡すのもなんか癪だしね。というかさ……アリエスの毒使って、無理やりいうことを聞かせるのもありなんじゃない?」

「……はっ! そうか!」


 アリエスは、それには気が付かなかったという顔をした。


 しかし、リエナが異を唱える。


「それはちょっと……」


 バリスもリエナに続き、こう語った。


「交渉役というのは、あくまでもある立場の代表。彼らを支配下に置いたところで、立場の利益を守れないのなら、別の交渉役が送られるだけです。もっとも、ヒール殿が王国を攻め滅ぼしたいとお考えなら、こちらの息のかかった者を忍ばせるのもありかとは存じますが……」

「さすがにそれはな……」


 とはいえ、最悪の手段としてなら考えられる。

 死者が出ないようにするために、選択を強いられるかもしれない。


 エレヴァンは他者を操る毒のことをアリエスから聞くと、フーレにいう。


「フーレ……お前、結構えぐいこと言うな……」

「父さんに言われたくないんだけど。殺し合いを避けられるなら、そのほうがいいでしょ? そんなにいうなら、他になんかある?」

「い、いや……浮かばねえ……」


 エレヴァン同様、俺たちは皆、再び頭を悩ませた。


 そんな時、俺の隣でレイラが口を開く。


「金や毒で買収……正直、あの王国の者たちがそれでなびいたり、妥協するとは思えないわね」

「ああ? そこまでいうなら、なんかあるのか?」


 エレヴァンに問われると、レイラは皆に訴えるようにいう。


「彼らが魔物を奴隷にもしようとしないほど忌み嫌っているのに、金なんかで納得すると思う? この島の者たちを見つけたら、まず剣を振り上げたいと思うのが、彼らよ」

「んなことは、戦ってきた俺たちが一番知ってる。だから、どうするんだって言ってるんだ」

「そう焦らなくてもいいじゃない。彼らは皆、人間は全員魔物が嫌いと考えていると思っている」

「そう……だな?」

「だから、その前提を崩すの。彼らの地盤を揺さぶるのよ」

「えっと、つまり……どういうことだ?」


 レイラは、首を傾げるエレヴァンに続ける。


「この島にもっと人間がいたら? ヒールを慕う人間がこの島にやってきて、魔物と一緒に暮らしていたら……彼らはまずいと思うんじゃないかしら?」


 同じ種族の者たちが、俺のもとで魔物たちと共存している……彼らはたしかに焦るだろう。


 しかし……


 俺はレイラにいった。


「俺を慕う人間なんて、王国じゃまずいないだろう。他の国から移住者を募るにしても、時間がかかるし……」

「ええ。だから、人間を本当に連れてくる必要なんてないわ」

「……見かけだけ、人を増やすってことか」

「そうよ。立ち入ってはいけないような場所に、王国様式の、人間の住むような家を建てればいい。この島の建造物を見れば、それぐらい簡単にできるはず」


 レイラは島を見渡して続けた。


「そこで、あなたの島で人間に近い者や、私の船の人間をまばらに配置させれば、人間が少なからずいると思わせることができる。まあ……裸なのはちょっとまずいかもしれないけど」


 レイラは公国船に乗っていた人間の前でダンスするマッパを見ながら、そんなことを呟いた。


 あいつ……歓迎のつもりか。


 レイラに着き従う者たちだから、レイラの思想に賛同しているのだろうが、さすがにマッパのダンスには困惑気味だ。


「……ひとつの策としては十分ありだな。王国海軍はもっと警備を厳しくするだろうが、本当に王国人が来てるわけじゃないから誰も困らない。それに……」


 俺は金色の液体のはいった瓶を出す。

 これは、シエルからもらった琉金だ。


「琉金……この形状を変えられるという金属でゴーレムを作成すれば、人間に近い見た目のゴーレムもつくれる。外見が人間のやつをつくれるぞ」

「へえ。すごい金属ね」


 レイラは意外にも、冷静な顔で答えた。


 随分とあっさり受け入れたな……

 まあ、世界樹なりを見れば、そこまで驚くことでもないのだろう。


「ああ……地下にある貯蔵庫に、まだまだたくさんあるらしい。ちょうど、制御装置の修理にいくところだったし……」


 そもそも制御装置を直せば、シエルたち人間も起こすことができる。


「よし……シエル、使っても大丈夫かな?」


 シエルはもちろんと体を縦に振った。


「ありがとう。やっぱり、俺は地下だな……」


 こうして俺たちはレイラの案に沿って、仲間の”人間”を増やすことにするのであった。

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