表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/290

百一話 皇帝になりました!!



「なるほど……すると、王国人はまず確実にこの島にやってくるということですね」


 アシュトンは、ふむと腕を組んだ。


 俺は世界樹の下にある円卓に皆を呼んで、今後について協議していた。


 エレヴァンが立ち上がり、円卓を叩いた。


「何がやってきたって、構いやしねえ! もしどうしても大将のいうことが聞けねえっていうなら……いうなら、皆で追い払うだけだ! 何人でもかかってくりゃあいい!」


 エレヴァンの声に、武闘派のアシュトンとハイネスは同調するように頷いた。


 戦う、とは言わないことにエレヴァンの俺に対する気遣いが感じられた。


 しかし、カミュがいう。


「そう、血気けっきはやりなさんな。たしかに丸腰で来るとは思えないけど、まず事情を聴きに来るのが普通だと思うわ」


 カミュの言葉に、俺はうんと頷く。


「ああ。俺をまだ一応領主として扱うなら、徴税官なり監察官を送ってくるはずだ……」

「徴税……官はなんとなく分かるけど。 監察官って?」


 フーレは首を傾げ、訊ねてきた。

 他の者たちも、いまいちぴんとこない顔をしている。


「監察官は、その地でちゃんとした統治が行われているかを確認する仕事だよ。領主が反乱を企ててないかとか、民に圧政……無茶苦茶なことをやってないかを調べたりね」


 この監察官は、王国では王族か貴族の者を選んで派遣されることとなっていた。

 つまり、俺の兄弟の何者かがやってくる可能性もある、ということだ。


 リエナが不安そうな顔でいった。


「帝国云々はもちろん、この島に私たち魔物がいることは、まず間違いなく咎められるでしょうね」

「ああ……」


 その場では何もしなくても、王国に帰って、軍の派遣を要請してくるはずだ。


 すると、フーレがこんなことを提案してきた。


「じゃあさ。そのレイラさんとか人間もやってきたわけだし、私たちみたいな人間っぽい見た目の魔物だけ地上にいれば……お父さんたちには、洞窟で隠れてもらっていて」


 しかし、隣のエレヴァンがすぐに不満そうな顔をする。


「おいおい。なんで、俺たちがこそこそ隠れなきゃいけないんだよ?」

「ちょ、ちょっとだけならいいでしょ? それで戦わなくてもよくなるなら……それに、人間はヒール様の同族なんだよ?」

「そ、それは……」


 フーレの言葉に、エレヴァンは何も言い返せなかった。 


 二人とも、俺を思ってくれているのが伝わってくる。

 俺に悲しい思いはさせたくないという思いがだ…… 


 バリスが頷く。


「ワシも一つの手だと思いますのう。洞窟の入り口を一時的に塞ぐ手もありましょう。まあ、世界樹については隠しようもありませんが……」


 すると、ここまで沈黙を貫いていたレイラが口を開いた。


「気を悪くしないでほしいのだけど、ずいぶんと消極的なのね。もっと、威勢のいい者たちだと思っていたわ」

「ああ? お前、急にやってきていったい何様だ?」


 エレヴァンはすかさず、レイラを睨んだ。


「私? 私はヒールの婚約者よ」


 この言葉に、エレヴァンはもちろん他の魔物たちも驚いたような顔をした。


 俺はすぐにレイラにいう。


「れ、レイラ! それは君の父上がとっくに解消されただろう? 俺の紋章があまりにも劣っているって」

「そんなの知らないわ。私はまだ解消するとも言ってないし、あなたからも何も聞いてない。婚約は、結婚する二人が決めることよ」


 レイラの言っていることは、大陸の貴族ではありえないことだ。婚約は、結ばれる家の当主たちが決めることで、子供に決定権などあるはずもない。

 しかし、レイラの考え……古い帝国では、そうあるべきと考えているのだろう。


 俺たちの会話に、エレヴァンが声をあげる。


「……婚約者だと!? 馬鹿をいうな! うちの大将と結婚するのは、姫しかいねえ! 次点で、うちの娘だ! 認めねえ! 俺は絶対認めんぞ!!」

「しょ、将軍!!」「お父さん!!」


 リエナとフーレは魔法で、エレヴァンの口に水を放った。


「む、むぐぅ……フーレは分かるけど、ひ、姫?」

「将軍……あまりしゃべりすぎると、喉が渇きますよ? それに今はそんなこと、全っ然、関係ないですよね?」


 そう訊ねるリエナの笑顔は、どこか怖かった。


 エレヴァンは無言でこくりと頷く。


 それを見たリエナは、すぐにレイラに頭を下げた。


「レイラ様、お言葉を遮って申し訳ありません」

「気にしないで。それにレイラでいいわ。ヒールについては、あとで相談しましょう」

「え、あ、はい!」


 レイラは皆に向けていう。


「消極的といったのを取り消すつもりはないわ。何故、自分たちがどうしたいかを捨て置いて、相手のペースに任せようとするのかしら? こういうのを、弱腰というのよ」


 その言葉は、皆に投げかけられていたが、詰まるところ俺ひとりが受け入れなければいけない言葉であった。


 皆は、ただ俺の今までのやり方に合わせようしてくれているだけなのだ。なるべく平和的に、争いを避けるように……

 全ては、俺を悲しませないために……


 レイラは強い調子で続けた。


「パッと見ただけだけど、この島は相当な戦力を有している。何を恐れる必要があるの?」


 エレヴァンやアシュトン、ハイネスたちは、そんなことは分かっているという顔だ。

 むしろ、そうだと同調したい気持ちでもあるだろう。


「魔物がいる島ということを隠す必要なんてない。この島は堂々とこういう島だって主張すればいい。気に入らないなんて言われたら、くそ野郎って返せばいいのよ」


 多種族との共存は、レイラの野望でもある。

 だから、そういう島になってほしいという彼女の強い要望でもあるだろう。


 それに、レイラは間違ったことは言っていない。


「……レイラ。皆はただ、俺を思ってくれて案を出してくれただけだ。皆も、お前の意見と同じだよ」


 俺はレイラにそういうと、皆にこう続けた。


「……皆、俺は何者が来ようと、皆を守るつもりだ。何と言われようが、この島は皆のもの。それを脅かすというなら、最悪戦いになっても構わない」


 俺は円卓に置かれた二つの帝冠を見て、続けた。


「彼らが俺たちを否定するなら……この国は王国じゃない、俺たちの国だって、いってやる」


 父がどう判断するかは分からないが、実質的な独立宣言といっていいだろう。


 ならば、俺も覚悟を決めなければならない。


 皆で話し合い、やっていこうというのは俺の理想でもあるし、そうしようと考えている。

 だけど、それを理由に自分の責任から逃げちゃだめだ。

 皆は俺を慕って、この島で暮らしている。そんな皆を俺は守るんだ。王国人の憎しみがこの島に向かうとしたら、それは俺が受け止める。


「俺は……皇帝を名乗るよ」


 シェオールは帝国となった。

 人間の俺を元首とする、どんな種族も自由で平等な国に。

 この日、この世界では異端な国家が誕生するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術大学をクビになった支援魔術師←こちらの作品もよろしくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ