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百話 腹をくくりました!!

「……大丈夫ですか……大丈夫ですか、ヒール様」

「うう……ん」


 俺が目を覚ますと、そこにはリエナの顔があった。


 どうやら一瞬気を失っていたらしい。


 リエナが膝を枕に、俺の頭を乗せてくれていたようだ。


「あ、ああ……ごめん、リエナ」


 俺はすぐに上半身を起こした。


 すると、リエナは申し訳なさそうにいった。


「ヒール様……ごめんなさい。私たち、ヒール様のお考えを理解できず」

「いや、俺がはっきり言わなかったのが悪いんだ……しかし、どうするか」


 もう、ここが帝国であると宣言してしまった。

 その皇帝が俺であるのも。


「弱った……な」


 そこに、婚約者であるレイラがいう。


「別にいいじゃない。皇帝がいたって、共和制のままでいられるわよ。そもそもバーレオン帝国だって、最盛期までは共和制だったのだし、独裁である必要は」

「そもそも、何がどう転んだって、俺は独裁するつもりなんてないよ……俺が心配してるのは、実体がどうじゃない。父がどう思うか……」

「それはまあ、反逆したって思うでしょうね」

「……だろうな」


 ……どうしようか。


 今更ベルファルトを追ってももう遅いだろう。


 アモリス共和国は商業国家。


 この島のことは国内の商人の間ですぐに共有され、やがて商売に向かう場所にも……


 それにアモリスには王国の商人や外交官だっている。


 しかも、そもそも海上で他の船と接触することもあり得る。

 王国の船とばったり会ってしまっていても、何もおかしくない。


 もはや、王の耳に届くのは時間の問題だ。


 すると、リエナがいう。


「今からでも間違いだと、父君に言われてはいかがでしょうか?」

「一度名乗っているからな……しかも、他国には帝国として書状を出しておいて、王にはそうじゃないと主張するのはちょっと厳しい」


 外向きには皇帝と名乗っているのに、内向きには違うと名乗る……

 王国の誰も納得しないだろう。


「……なんにしたって、もうこの島の存在が明るみになるのは避けられないんだ」


 王国はそう遠くない内に、この島の調査にやってくるだろう。

 それを沈めたところで、また調査の船は派遣される。それで駄目なら海軍が押しかけてくるはずだ。


 ……最悪、俺が父のもとに直接交渉に向かうか。


 いや、魔物の島なんて誰もが認めたくないはず。


 俺が命を差し出したり頭を下げたところで、何も変わらないのなら……


「……戦うしかない」


 俺は二つの帝冠を見て、決断した。



~~~~



 ちょうどその頃、サンファレス王国の首都である王都の港に、一隻の快速船が到着した。


 その船は、アモリス共和国のある商船を臨検した海軍からの情報を携えていた。


 快速船から出てきた男は、すぐに馬を王宮へ走らせると、まっさきに侍従に書状を差し出す。


 侍従はすぐにそれを、玉座のある間へと持ち込んだ。


「報告いたします! 東洋を哨戒するロベルト海軍大佐から書状が!」

「読み上げよ」


 王が一言そう呟くと、侍従は書状を読み上げる。


「はっ! 臨検したアモリス船から伝え聞くところによると、シェオール岩礁のヒール王子はご健在であらせられるとのこと!」


 その言葉に、玉座の王子や貴族たちはざわつき始める。


 皆、ヒールがまだ生きていることに驚いていたようだ。


 しかし、王は侍従が書状を持つ手を震わせていることに気が付く。


「どうした? そのような些事さじを我が耳に入れるため、ロベルトなる者は、に早船を送ったのか?」

「い、いえ……続きが……しかし、これは……」

「申せ」


 王は抑揚のない声でそう続けた。


 侍従はそれに深く頭を下げると、続きを読み上げた。


「ヒール王子は……シェオールにて、皇帝を僭称せんしょうした、とのことです……」


 侍従はその後も、ベルファルトからまわりまわって伝わった、シェオールの情報を口にした。


 大いに発展し、魔物が共に暮らしていることもだ。


 周囲の者たちは、一瞬何を聞いているか分からなかった。


 だが、少しの沈黙の後に、すぐに顔を真っ赤にする者たちが現れた。


「こ……皇帝? しかも、魔物と暮らしているだと!? ……これは反乱だ!!」

「あの男! 魔物を率いて、俺たちに復讐するつもりか!?」


 わあわあと怒りの声をあげる者たち。


 中には、ヒールがあの岩礁で生き延びていること自体有り得ないと、冷静になるよう訴える者たちもいた。

 彼らは魔物や世界樹の存在についても否定した。


 だが、海軍大臣はそれに対し、ロベルトは信頼のおける男で、たしかな情報以外は送らないと主張。


 すると、そもそも皇帝を僭称したところで、なんの脅威でもないという者も。


 こうして玉座の間では、激論が交わされることになった。


 しかし、そんな中、国王だけは愉快そうに口角を上げるのであった。

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