ライバル
「さすが! 佐伯君!!」
私は心底から感嘆の声をあげている。
ボーリングのスコアの付け方もよくわからない私でも、目の前で次から次へと繰り出される「ストライク」の連続を目の当たりにすれば、「すごい!」としか言いようがない。
「蒼井もやらない?」
「え、私はとても……」
「そんなに尻込みするなよ。簡単なコツ、教えてやるから」
佐伯君は調子がいいせいか、すこぶる上機嫌。
しかし、その時だったのだ。
「なんだ、佐伯じゃねえの」
その声に振り返ると、佐伯君と同じくらい長身で、大学生くらいの男の人がそこに立っていた。
季節感とトレンドを押さえたスタイリッシュな服装、佐伯君に負けるとも劣らないモデル風のフェイス。
もしかして、佐伯君のバイト先のモデル仲間?
「そんな可愛い娘、もてあそんでんじゃねえよ、佐伯」
その人は皮肉な笑みを浮かべ、今度は私の顔を見ながら言った。
「あんたさあ。この前もそいつにフラレタばかりの娘がいるってこと知ってるの? 俺のバイト先でさあ。そいつに告った娘がそいつにこっぴどく泣かされて……」
「こいつに余計なこと言うな」
佐伯君は初めてその男に向き直って言った。
「話があるなら俺に言えよ」
低い凄みのある声だ。
「やめて! 佐伯君!!」
私は半ば泣きながら、必死で佐伯君の片腕を掴んで離さなかった。
「蒼井……」
佐伯君は私を胸に抱き寄せた。
佐伯君の胸の鼓動が、薄いシャツを隔てて聞こえてくる。
私はどくんどくんと鳴る自分の胸を意識しながら、成り行きをただ見守っている。
「絵璃は俺の女だからな。覚えとけよ」
そう言い捨てて、その男は姿を消した。
「蒼井、そんな顔するな」
私は涙が流れそうなのを必死で堪えていた。
「出るか」
「うん……」
そうして佐伯君と私は、ゲーム半ばで遊技場を後にした。