お迎え隊
「ミッツ様」
「お?ガレッタさん、悪いねぇ寄り道ばかりで。」
「いえ、しかし、コボルト…族…ですか。色々な種族がいるのですね。」
ぐるりと見まわし、ぼそりと。彼等にとっては、敵性種族のコボルトと同じに見えるのだろうね。
「そうだよねぇ。まだまだ知らない種族、”人”もいるんだろうねぇ。」
「おっと、そもそもミッツ様は他の世界のお方…この世界の我々が知らない方がおかしいですね。」
「ははははは。確かに。で、子供達の様子はどうです?」
「おかげさまで。もう、引きつけや痙攣なども無く…夜起こされることもありません。このまま死ぬのではないか…そう、毎夜、神に祈ったものです。今は、”森の部族”の子達と走り回っていますよ。」
よし!虫取りでも教えるか!…うん?夜のおかずが増えるって?
「それは良かった。子供の代で少しでも繋がりが出来ればいいね。」
「子供達は大丈夫でしょう…」
「ふふふ。頑張ってみてよ。同じ”人”同士なんだから。」
そうだよねぇ。コホーネ村も獣人率低いからなぁ。漁業より細工がメインだからかなぁ。魚村は結構いたけどね。獣王国も近いし。そこに、コボルト族。より獣に近く、人語を操る謎種族だ。混乱も心配もしよう。
「はい。」
この場にテントを張り、お迎え隊を待つこと3日目。
その間、森の部族の方々の手でトルティーヤ?トウモロコシの粉を練って焼いたものが大量に焼かれた。その半数が天日で干され、ずらりと並ぶ。馬車の屋根の上もトルティーヤで一杯だ。部族の備え、いざという時の保存食らしい。乾パンみたいなものだな。これのおかげで、あの、賊に占拠された洞窟内でも食いつなぐことが出来たのだろう。
一つ頂いてみた…硬い…。獣人族の顎を以ての保存食なのだろうね。遊んでる部族の子供達も大人の目を盗んでは摘まんでいるもの。バリバリと。
でも、スープに割り入れてふやかせば結構いけると思う。素朴なコーンの風味がなんとも良い。
ドンと、出してある小麦や、小麦粉。奥様連中の興味が高まったようで、それらを取り入れた新たなメニューもできてるとか。麦の干し飯版?茹でた麦を干しただけの物も作られだしたという。本来ならお湯で戻すのだろうが、ポリポリと煎餅感覚で食べている。子供達のオヤツ…って、主食じゃん。
そして、周辺から、有用植物などが採取されていく。見たことも無い植物も多く含まれてる。丁寧に土ごと掘り出され、乾かないように布が巻かれている。うちの畑に持ち込むのだろう。また賑やかになるなぁ。
「お待たせしましたな!ミッツ様!」
「…また出てきたのかい?村長さん…」
そう、凶面のムキムキ村長さんのアルスどんだ。斥候隊も多数。多くの馬を率いてやって来た。
「まったく。村長がホイホイ出て来ていいのかい?」
「ご心配ご無用!私がいない方が、万事、程よく進みます故、おお!まこと!言い伝えの通り!”森の部族”の方々!歓迎いたしますぞ!」
ダメだろ…それじゃ…。大いに心配するわ!
”森の部族”の支族の長たちにアルスどんを紹介。粛々と移動の準備を行う。
いよいよ、民族大移動だわなぁ。これだけの獣人族の戦士も来たんだ。問題なかろう。
・魔術師たちから見た風景 (レイストリン)
「おお?本当だ。生きていたんだなぁ。」
ディフェンヴァキュアの北部の農村が”魔物”に襲撃され、防衛に当たっていた多くの獣人、住人が死んだこととなっていたが…。その中心人物の一人である、”獣王”アルス…
「だから言ったであろう。彼の目撃例は結構ある。ああして、孤児やらを迎えに来ていたからな。レイストリン卿、情報は大事ぞ。」
「そうだねぇ。知らないで突っかかったら真っ二つだわ。他にも雰囲気が違うものも…アルテサ卿、わかる?」
「うむ。有名どころが揃っておるな…ここまでとは。」
なるほど…例の死んだことになってる者達…か。あの国の事、降伏した彼らを殺さずに、鉱山要員か何かにしたのだろうなぁ。ケチだし。…生贄…か。
「で、例の…”獣王”らでも敵わなかったとされる、”魔物の農村襲撃事件”とやらの真実って?アルテサ卿の見解をご教授願えません?」
「…まぁ良かろう。アルス殿、リオン殿を嵌め、除く口実…であるな。他にも彼等に従う多くの獣人族の戦士。森に潜まれれば手が出せなくなる。で、平地でという訳だ。魔獣ではなく、”軍”が相手だったであろう。もちろん村人全員を肉壁、人質としてな。おそらく、事実を知る住民も一人残らず殺されているだろう。そう考えれば、畜生の所業…あながち”魔獣”というのも間違いではない…な。」
「なんでそんな…ああ…”勇者召喚”か…。」
「恐らくはな。”生贄”を集めるのにも形振り構わぬ状態だったと伝わる。その最大の障害が獣人族の守護者たる”獣王”という訳だ。”勇者召喚”は時間をかけ、粛々と準備がなされていたからな。その後の”悪魔召喚”もな。”勇者”様にでも狩らせるつもりだったのかもしれぬな。隣国などに放って。さしずめ、反教会のトラヴィスか、動きのあるノリナ辺りに。」
「なるほど。それでルカ様と、詐欺師のオウンなんたらの死。いや、死んでいるのか?あれって?」
そう。ぼろきれのような人形…そんな人形を愛おしく抱くルカ様の姿に背徳を禁じ得ないが…。首、捥いだっけ…。
「うむ。死んでいよう。肉体的、世間的にはな。まさかあのような姿で再会できようとは…な。」
ふむふむ。オウン何某自身から聞いた話とつながるね。しかし…
「そこまでやっちゃうと国としての体面も無いねぇ。」
「…であるから、混乱しておるのだろうが。愚王は全責任を放棄。全ての言に耳を塞ぎ床に潜り、更に愚かな代王が好き勝手しておる。最近は、領主のすげ替えをも勝手しているとか。対南領を見てであろう。なにせ、王都周辺の財を喰い尽くし、南領領都に”遷都”などと抜かしているようだしな。直、一戦あろう。」
…愚かさも此処に極まれり…ってやつだな。
「…そこまで馬鹿なの?今のって?勝てっこないじゃん。」
「なにやら『獣王国』に派兵”命令”をして、挟撃…などと謳ってるようだが…本当に目出度い頭だ。」
散々敵視し、蔑んでいたのに?しかもこの期に及んで命令?本当に目出度い脳みそだ。
「敵の敵は味方…というけど、そんな屑じゃ、この法則も当てはまらないなぁ。」
「うむ。戦で討ち死にでもしてくれればいいが…。またぞろ、亡命やらでひと騒ぎあるだろうさ。」
「はぁ。腐れ外道ここに極まれりだわ。それこそ、ルカ様がちょんちょんって、摘んでくれれば世のためになるんだけど。」
「レイストリン卿…貴卿は忘れておる。ルカ様は思慮深き”大悪魔”なるぞ。愚王が生きていることがその証…そして本質は…」
「そう…”魂”の回収。あの国と、聖王国、シペラに関してはおじ様も何も言わないわ…だってこの私をこの世界に招待してくれた国なのだから。」
いつの間に…そこには、眼をルビーのように紅に染めたルカ様が。
「…ルカ様…無礼致した。」
「いえいえ。アルテサ卿。その通りよ。あの愚物らが生きている方が”穢れ”が広がる。伝染する!ふふふははははは」…。
笑い声の余韻を残し…消えた…
「…行かれた…か。」
「ふぅ。なるほどねぇ。”本質”だねぇ。」
愚かな馬鹿が玉座に座り、馬鹿をする。忠臣を除いたり、贅の為に税を上げたり、戦だって。生きている限り。多くの血が流れ、多くの命が消える…。それに従う連中もいずれは穢れ、ルカ様が言う”熟す”のであろう…そして…”無”。
「…うむ。そして全ては繋がっている…」
…だろう…ね。