召喚陣破壊計画始動!
いらっしゃいませー
段落調整済
【トンズラ作戦】決行当日。
そう、とうとうこの日が来た。作戦自体は穴だらけ…仕方ない、未知の部分が多すぎる。そこは、トワ君の勇者パワーで何とかしていただこう!
夕食後、仮眠を取り、深夜…。
早速、偵察、偵察。部屋を抜け出し、しん、と静まり返った城内を物音を立てないよう、慎重深く進む。特に使用人の居住区の為か、警備も居ないようだ。
複雑に交差する通路、階段…城というものは正に最後の砦。中の通路は複雑。真っすぐ上がってこれないようになっている。それも時間をかけて調べたおかげでスムーズに進む。
そのまま、目的地の召喚の間を目指すのだが、この辺りから先は未知の領域だ。この城の中心と言っても良い重要拠点だ。おいそれと近づくことはできなかった。
さすがに警備の小部屋があり、明かりが煌々と灯っている。交代で警備が巡回しているようだ。その光が届かない暗がりを伝って、階段を下る…確かこの下がおいら達が目を覚ましたダミー?の召喚部屋だ。
ビンゴ! 懐かしの? 石テーブルが、入り口わきには警備の兵が一人確認できる。
この部屋を見渡せるのは、降りてきた階段の踊り場のみ。そこで防音、気配消しの結界をまとって観察中。他の警備や、隠されている下への階段の調査だ。
どうやら人員は入り口の警備一人だけのようだ。思ったより少ない? この部屋自体がダミーだからか?
暫く観察していると休憩か? こちらにやってくる…見つかったか? 階上に避難、避難と。
行っちまった…
「たるんでるのぉ~。」
「よっぽどダミーに自信があるのか? 本物にたどり着けないのか…」
お! 衛士が戻ってきた。トイレか?
「でトワ君、通路やら隠し階段やらわかる? 空間感知覚醒!! とか。」
「おっさん…勇者、そんなに都合よく…お!きた”来たぁ!skill!」
ぴこん!と頭の上に電球が光ったかのように顔を上げるトワ君! 都合いいじゃん…このぉ!
「なんだよ…このチート野郎め!」
「勇者最強だなぁ。で、後ろの壁…」
「へ?」
「おっさんが寄りかかってる壁、それがダミーだわ。」
「おぅ…ある意味、盲点だわ。」
ダミー部屋ではなく、踊り場そのままって。まぁ、階段続いてたんだな。で、壁でふさいで隠蔽と。
「動かせそう? たぶん儀式とかは下でやってると思うから入り口固定されてないと思うけど…」
「すべての真実が明かされる! ”鑑定!”」
「おっさん…どうした…また中二?」
「いやぁ~ちょっとカッコつけようかなぁって。トワ君かっこいいし…嫉妬?」
「…」
「…なんか言ってよ。突っ込んで。」
「…で、どうだった?」
「スルーかい!」
「で?」…。
「…そこんところになんかハメる構造になってるような?」
床と壁の境に指が入るくらいの隙間が。砂?みたいな隠蔽物質で埋めて、溝の有無を見事に隠してある…
「鍵…かぁ。魔力残渣…おっさん、そこに指つっこんで魔力込めてみ」
「…指、潰されたり、取れたりしないかなぁ…」
「ふっ、勇者パワーで治せるさぁ。おっさんの魔力で魔法使い放題だし?」
「マジで?」
「…」
そっと目を逸らす勇者殿…確信ないんか~~~い!
「おい! …じゃ、いくか…仕方ない…」
「ちょ、衛兵がいなくなってからだよ!」
…ナウ・ローディング…ぷぷぷ。なんてね。
一時間後、衛兵が移動。トイレか、飯か、仮眠か…交代要員が来ていないから、トイレか?
「トワ君、起きて。トラップとか無いかみてよ。」
「おはよ~。勇者アイ~ズ! 透視!」
「おお!マジか!」
新スキルか!
「いやぁ~、おっさんに対抗してみただけ。うん、ないみたいよ。」
「…んじゃやってみっか。」
隠蔽物質をよけた溝に指先をいれる。
「っつ!」
「どうした!!ミツルさん!」
「指がぁ~指がぁ~」
指先をまげた手の甲をトワ君に見せる…
「どうよ?」
「…余裕だな。おっさん…。ほんとに斬り飛ばしてみるか? 魔法でくっつくか試しに?」
「スミマセンでした!」
うぉ。反射で土下座がでてしまった。さすがEX!.
「衛兵がもどってきちゃったら~”執行”ですぅ~」
うぇ!
「早急にチャレンジさせていただきますです。はい!」
で真面目に隙間に指先を入れる。
…いと怖し。
「ふんぬ!」
魔力チャージ! お?スルスルとレンガの壁が上がっていく。ファンタジーィ。
「階段発見したであります! ('◇')>」
「…先に進もうか。ライト!」
「…その沈黙何よ…」
で、召喚陣の部屋に到ちゃぁ~…ん!まてよ!この臭い。腐臭?
「ストップ! トワ君、タイム! ステイ!」
あ、渋い表情、トワ君も感じ取ってるねこりゃ。
「この先はおいらが見てくるよ。トワ君はステイ!」
「ミツルおっさん、気、きかせてくれるのはうれしいけど、覚悟してるし。心配無用」
「そっか…」
クソ爺ぃどもめ!
「それに、なんかいたらおっさん死ねるよ?…感じるんだよねぇ~チリチリっと」
「そっか…」
おいら…へたれ。
「気を引き締めていきますか。」
…そして、おいら達は召喚の間の扉を開き、押し入った…。
…その部屋中央には”審査の水晶”によく似た巨大クリスタル。壁に食い込んではなく、六角柱の見事な姿を見せつける。一辺の長さは2mはあろうか…。
そのクリスタルを中心に床に大きな魔法陣。さらにクリスタルを囲むように空中に幾重にも…上下左右に重なる魔法陣。積層型ってやつか?まるで、万華鏡のようだ。
その魔法陣群をぐるりと空っぽ?な大きな魔石?が囲む。その外側、壁際には、骨、骨、骨。
そして、床に描かれた魔法陣の四方の”東西南北”の要に鎖で椅子に括られた”遺体”が四体。いずれの遺体の胸には禍々しい短剣・ナイフが刺さる…。
どの遺体も人ではないな…あるものは羽があるし、耳がとんがってる…魔族やエルフって種族か?魔力の多い種族が利用…生贄にされたのであろう…
「かわいそうに…この子まだ、幼い…くそ! あの醜い豚のエゴのために…」
おいら達を召喚するために使われたのだろう…可愛そうに…
…《憎い、痛い、悔しい、恨む、報復、痛い、憎い、家族は…、悔しい、なんで…お母さま…》
なにか聞こえる?…ささやくような、ちいさな声が。複数…重なるように…気のせい?じゃない…な。
「召喚の犠牲か、マジで生贄とか…っておっさん! 離れろ!!」
…《憎い、痛い、悔しい、恨む、報復、痛い、憎い、家族は…、悔しい、なんで…たすけてぇーーー! ママー!》
その声が徐々に、そう、段々!大きくなる!
《憎いいぃぃぃいい!!!》
はっきり聞こえる! 怨嗟の声が! 此処にいるいる遺体の主、いや、いままでこの国の歴史の中で、エゴのために無下に殺された人々! わかる! ただ、電池のように魔力を抜き出すために殺された多くの声が!! 今でははっきりと聞こえる! ただ、異世界から拉致するためだけに! 暴力のためだけに!
その声が、生者に対する恨みが! 魔法陣中央に渦巻く! 怨嗟の奔流! それが容をとっていく…そこに顕現し漆黒の衣をまとった怨嗟の王…
…鑑定
・リッチ(特殊個体)…通常のリッチは高位魔導士、聖職者が自ら反魂術をもちいてアンデットとなるが、この個体の場合幾千の魂が、魔法陣に縛られ、”一体”の姿になった物。
個は全、全は個。すさまじい破壊をもたらすもの”怨嗟の王””嘆きの王”
…さあ!戦うのだ!勇者達よ!その力を俺に示せ!ナムナム。
危険度--------天災級以上
「リ、リッチ…か…」
死者の中に魔力保持量も多い高位聖職者でもいたのだろうか。すさまじい極寒の威圧、温もりあるモノに対する怒り! 怨嗟がこの部屋を支配する。恐ろしい勢いで温もり…生気が吸われる…
くっ! 幸いな事に、神様コメントで少し、極少し持ち直す。さもないと尿道開放、…後ろさえも…。そして己の全てを贄に捧げただろう。…神様! 見てるよね! ねぇ! ねぇ! 助けてよぉ! ヘルプ!
「…結界! おっさん早くこっちに!」
はぁ?何言ってんだ? この小僧は…アホぬかせ!
「行け! 全力で! トワ! 逃げろ! 逃げろ! 早く!」
ここに殺された原因である”召喚者”が、のこのこ来たのだ。復讐しない手はない。まぁこっちも被害者なんだけどねぇ。そんなことより、少なくともトワ君は逃がさないとね。
さぁ、最後の一仕事といこうか。すぅっと気持ちに整理がついた。恐ろしいくらいの平常心。震えさえ止まった。短い間だったけど父性ってもんかな? 少しでも時間を稼ぐ!
そしておいらは…
びしっ!! リッチの目前にジャンプ!膝の皿よ砕けよと言わんばかりに着地! この身体、全てをリッチの前に投げ出す。
背筋を伸ばし正座! …一瞬の迷いもなく手のひらを地面につけ、停滞することなく額を地につくまで伏せる。
完璧な土下座。後光のような光がさす! さすが土下座EX! スキルのおかげか! 絶対強者の圧倒的な威圧のなか完璧な土下座を見事にトレースしてる。
一説には邪馬台国から続くといわれる礼。ここに完成!!
<ジャンピング土下座EXを習得しました。くすくす。>
…うっさいわ! 見てるなら助けてよ! マイ・ゴッドォー!。
「リッチ…リッチさん? おいらはどうなっても、いえ、魔力だけなら、たんとあるので、お好きにしてください!その代わり、その子は…まだ若い。逃がしてください! お目こぼしを…何卒ー何卒ーぉ!」
怖くない、怖くない…誠意! 誠意ぃ!!
《…》
「皆様のお怒りは百も承知! ただ、おいらたちも強引に拉致された者。そのあたりも是非に、是非に考慮ぉ~お願いします~」
《…》怖い…
「その子は返してやってください!」
《…》怖い……
「私たちならすぐにこの国から出ていきます~」
《…》でも!
「本当に、あなた方のような犠牲を出さないためにここを破壊しに来ました~是非に評価を~」
ふっ。伊達に営業で揉まれてないぜ。良く回る。脳も舌も。言い訳? へりくつ? うっさいわ。どんなに情けなくとも…何が何でも生き延びるんだ!
リッチからの背筋も凍る圧倒的威圧が下がる…許され…たのか?
その時、すぅっとリッチの指がおいらの額に触れる…ひぃ! つ、冷たい! ツララを額にぶっ刺された気分だ!…ん?
”ぎゅぎゅぎゅーーーー”
うぉおおぉぉーー
「うぎょぉおおおぉ~~~」
”ーぎゅうぎゅぎゅぎゅうぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー”
ん~!!! あ!あかん!これ、あかんやつや!す、吸われる~ぅん♡ 吸われる~ん♡♡ エナジードレインってヤツかぁ!
”~ぎゅぎゅぎゅぎゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー”
「うきゃぁぁあああ~~~~ぁおおぉぉぉ~」
「おっさーん!」
はぁ!何やってんのよぉ!
「は…は…よぉーーーぉーーーー! おぅおおお!に、にげぇーーーーーおぉおおお!」
はよー逃げろって、アホーーーーーーーーーーーーん!
ほぁあ~~~~…ああ…刻がみえる…。さらば…。
もう限界!諦めかけた時、強烈に吸われていた感覚が一気に消える?
…って。え。終わったのか。お! 自家発電開始!ぐんぐん魔力が湧き、体に温度と共に巡る。はふぅう。魔力については十分チートやなぁ。おいらって。
そして、顔を上げ、リッチさんと正対する。
《異界…の勇者よ…謝罪を…受け入れよう…》
「…って沢山吸ったよね?普通なら★だよね?」
やべ、思わず突っ込んじゃった。でも危なかったぞ。自家発電サイコー
《…ちょっと…多めに…魔力を頂いたが、貴…殿なら…問題な…かろう…》
おふう。心読まれてるのね。
《顔に…でてる…》
さいですか!
《質の…良い…魔力、確かに頂いた…この場所に繋が…れた楔を断つのに…私達が…この者共が昇天できるよう…に…利用させてもらう…》
「本当に悪いことした…いや、してないんだけど…でも、召喚で助かったのも事実…同罪か?…なんかいたたまれない、整理がつかない。なんか、ごめんな。」
《謝罪、気持ちは伝わる…受けた…貴殿らに含むところは…もはや…ない…。そちらの勇者…殿…は聖祝辞を唱えられそうだな…是非に送って…ほしい…》
ローブのフードに隠れた髑髏が、表情筋(もちろん肉も目もないけどね)がないのに、にっこりと笑ったようにみえた。沸々と湧いてくるクソ爺ぃどもへの怒り。まじ滅ぼしたろか!
「もちろん、俺にできることなら…聖魔法を乗せて祈ってみればいいのか?」
《…!…うん?…待て…そうい…えば、貴殿ら…はここを…無に…破壊しにといった…な…》
「ああ、そのためにきた。今後、異世界人が理不尽に呼ばれないようにって。」
「おいらたちみたいな目に遭うのは最後にしたいし。それにここが唯一の場所だっていうしね。破壊すればあなた達のような犠牲も無くなるだろう。」
リッチさんの目が赤く…爛々と輝いている。怖えぇ…
《……で…どのよ…うにして?…クリ…スタルは硬い…ゾ。魔法も…効かぬ。》
「この剣の魔石部分に、魔力を暴発寸前まで込めて結界で覆ってクリスタルにぶっ刺す!で結界解除でドン!って計画」
《…ふむ…それでは確認やら…できな…いな…よ…し…我が楔と…なろう。…クリス…タルの最後を…忌まわしき…召喚…陣の最期…をこの目…で…見届…けてや…ろう》
「ほんとか! 助かる。俺たちも安全…てか、貴方は大丈夫?」
《我…は不…死の王ぞ。…意識の集…合体でも…ある。な…んと…でもな…る。魔力も頂…いたか…らな…》
「わかった。では、聖祝辞は?」
《事の終わり…次第、こちら…から…合流するだ…ろう。最…後に今代の…王…の顔で…も拝んでくる…か。》
「屠殺するのか?」豚だし。
《い…や、生…きてるこ…とで…苦しむ…こと…もあろ…う。貴…殿らの謝罪・想い…でだいぶ…心も晴…れた。な…るべく…人を殺…めずに逝…きた…いも…よ》
「だったら、無理にトリガーに 《フ…フ…フ…それ…くらいは…良か…ろう。一矢。い…やこの…くだ…らない歴…史に…終止…符を…打てる…のだ…冥土への土産に…丁度…よかろ…うが?》 そうか…」
「お願いします。」
《ウム…》
「じゃ、さっそく仕込みますか!」
「おう! 《ウム!》 」
ここに被害者同盟が結ばれ、クソ国に一矢報いることになった。やるぞぉ!
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




