『狩人』~お家の事情
一方そのころ。ライオット君。
噂の巨大鹿を追って、目撃例のある森に。
『ふ~ん。まだ魔物への階位は上がっていないが…十分危険ではあるね。』
木のてっぺん。ぽつんと座る青年。彼の視線の先には”人”の亡骸を食む巨大な鹿が。それも二頭。ミツル氏が見たら奈良の鹿のデカいのか?というだろう。所謂、二ホンシカの姿をした化物だ。
『うん?…あんな装備で?お手並み拝見と行こうか…』
反対側の茂みから、全身に枝葉を付けた人族の狩人と思しき塊が3つ。
『…バレてんなぁ。風下からセオリー通りだけど…音消してるつもり?俺の耳にも十分聞こえるぞ。てか、二頭だぞ?一頭仕留めたとしてその後どうする気だ?普通の鹿なら逃げもするが…上手く行っても報復されるぞ。』
狩人の一人が背にしょっていた大弓を取り出す。ジャベリンを射出できるような強弓だ。一人が支え、一人がこれまた槍のような矢をだし番え、滑車のような器具で引く。もう一人は測量手だろうか。
”きりきりきりきりきり”余程重いのか、狩人の腕の筋肉の隆起、血管が浮き出るのでわかる。
”どひゅ!”ものすごい勢いで放たれた矢!あと少し!あとコンマ数秒!ジッといていれば…
”どどぉ”矢は鹿のわきをすり抜け、地面をえぐる。外したのではない…直前で躱したのだ。
「ちっ!避けやがったぁ!」
「この距離で…あ、ああ…」
「しっかりしろい!来るぞ!」
慌てる狩人たち。
『そりゃ…避けるって…バレてたし…人族は矢の音聞こえねぇのか?あんなデカいの飛ばせば…あ~あ。』
前足を踏み、地面を掻く。赤く光る鹿の目は今や、哀れな犠牲者と化した狩人たちを睨め付ける。が、襲い掛かろうとはしない。遠巻きに…追い込むように…じわりじわりと嬲るように。
「な、なんだ?こ、こいつ!嬲ってるつもりかぁ!」
「ち、畜生めぇ!」
「ひ、ひいいぃ…た、助て…助けてぇ」
逃げようとすれば回り込み、そしてまた距離をとる。たまにおおきな声で鳴き威嚇する。
『仕方ないか…』
鹿…普段愛嬌のある。黒い大きな瞳の優しい顔が歪む…真っ赤に光らせた目は哀れな獲物を追い込んだ喜びに輝き、その半開きのよだれを垂らす口は、この後の饗宴を期待してか…
一頭が背の低い男に狙いを付け、一気に加速。その丸太のような角で弾き飛ばし、串刺しに…誰もが覚悟を決めた時、
”ど!どどどどっ!”
鹿の面前に5本の矢が刺さる。寸でのところで首をねじっての急な方向転換。筋を痛めようと敢行された。野生の勘が彼を救ったようだ。
忌々し気に辺りを見回す鹿。その瞳は真紅。真っ赤に燃えている。が、その瞳では狙撃者を映すことは叶わなかった。
二頭は何やら鳴きあい踵を返し、森の中へと消えて行った…
「た、助かった…のか…」
「だ、誰の矢?だ…こ、こりゃ…」
「ひぃはははひゃひゃ…」
魔物一歩手前の化物鹿でも見つけられぬのだ。人族の狩人ではなおの事、見つけることはできないだろう。
「お、思ったよかやべぇぞ…ありゃ。また大きく、しかも賢くなってやがる。見たか…俺達を追い込んだ時のあの目…」
「ああ…笑っていやがった!こいつは軍の案件だなぁ。ほ、報告に行くぞ!しっかりしろ!」
”ばしん!”
「へひぃ!…は!し、鹿は!」…。
一息ついたのであろう、恐怖に囚われた仲間の頬を張って喝を入れる。
そう。彼らは助かったのだ。この後仲間でこの話を肴に酒が飲める。勝利の美酒とはならなかったが…。
『ほう。アレを躱すかぁ。そして、引くか。やるな!警戒心も半端ないな。お師の教えにある、余程、弱い個体が生きてここまで階位を上げたんだろう。しかし…どうすっかなぁ。狩れないことは無いけど…う~ん。カミュのおみやげ…結構買ったし…ま、今回は放置でいいか!』
呑気に木のてっぺんに胡坐をかき思案する青年。そう。この青年が、一度に5本の矢を鹿たちの警戒外の距離から放ち、人族の狩人を救った。勇者の町の一番の狩人、ライオットである。 <おわり>
途中、商会に寄り、紙と鉛筆。なんと水性の絵具もあったので一式購入。
あ…そういやマリウスのとこにあったな…まぁ、良いか。
ハルがお絵かきしたいというので寄ったわけだ。そうだ…孤児院にも支給しよう。お絵描きはお子ちゃまの遊びの鉄板だったわな。すっかり忘れてたよ。だってぇ40年以上前だしぃ。なんてね。
お昼は今日も屋台飯で済ます。何か今日はちょこちょこ食ってばっかりだな…おいらはさっぱり腹が減らんが…育ち盛りという奴だろうか…ん?
ラグを基準にして…雪は同じかこれ以上食うだろう?ライなんかも倍?ハセルは論外。他の子達はどうだ?…待てよ…よく考えたらミミルに負担極めて大だな。
…普通の食堂くらい作らんといかんぞ、こりゃ…。おいらもノリで作ってるが…”収納”も使ってだし?早速改善せねば!
「…どうしたのお父ちゃん」「お父ちゃん?」
「いつもご飯の準備はどうしてるんだ?と、ふと思った。凄い量だろ?」
「…ミミルが総指揮。家妖精さんと雪。時々ラグ。パンは私たちの実習で作る。」「…偶にハル。家妖精さんもたくさん来てるよ。」
…時々、偶にね…ぷぷぷ。雪がねぇ。
「’ちょこ’達が力を貸してくれているなら良いか…」
「…ハセ兄は外で半分食べてくるよ?」
半分?
「ハルちゃん、半分て?」
「わかんない!」ぉう。
「…ハセ兄は足りないから屋台で食って帰ってくる。で、家でも食う。」
「おふぅ…家にもコックさんに来てもらうか…」
「…知らない人くるのは嫌。それにハセ兄は放置でいい。あれは食い過ぎ」「…うん」
…そうね…確かに食い過ぎだわね。
「…それと私たちも外食したい。」「…ハルお家でいいよ?」
「…そうだね…町の食堂なんかは出ても良いと思うよ?あとは、レストラン街が出来たら…かな?」
「…!皆で順番に行く!【鳥政】!」「ハルはお姉と!」
「こら。飲み屋さんだろう。それにザルバック村だし…【鳥政】はセツナ姉とな。」
「…わかった」「?」
お宿に到着。ハルちゃんはすぐに寝るかと思ったら道具広げてお絵描きに夢中だ。
ラグは瞑想?寝てんのか?
そうっと目を覗き込む…すると、すぅと薄目を開け、
「…寝てない…。お父ちゃん。失礼…」
あそ…
「ふ~ん。ハルちゃんは何描いてんのかなぁ?」
そっと紙を覗く…
うん?枝豆…?美味しいものなぁ。が、手足あるぞ…小さい頃の擬人化ってやつか?花にも顔描いたもんだ。
「しゃち!お父ちゃん!しゃち!」
…。
…ぅうん!うん?枝豆のサヤ…いや!段々シャチに見えてきたぞ。うん!う…ん?う~ん???。
…天才かもわからん!…後でマリウスに額装させよう!
「ただいま。」
すぅっと、ライオットが帰って来た…本当に気配無いなぁ。声掛けられるまで判らんかったわ…。
「お?お帰り。どうだった?噂の鹿は?」
「うん。居たよ。魔物一歩手前のオスの鹿二頭…。しかもかなり経験積んでるね。人族の狩人…彼らじゃ絶対狩れないね。あれは。」
「うん?その口ぶりから言って放置…かい?」
「うん。人族の狩人さんが挑戦してたし。お師の言ってた最弱の鹿の階位が上がった奴だから…なんとなく?他所の国だし。」
「ふ~ん。お前がそう判断したらそれでいいよ。ヤバかったら国で対処するだろう。」
「うん。俺の前に立ちふさがれば狩るけど?」
「…うん。それでいいよ…。」
狩れるんだね…。
「あら、みんな帰って来たのね。」
「お?セツナっち。そっちはどう?」
「うん。サロンでチェス大会ね。ほら、他にもお貴族さんいたでしょう?はぁ、チェスやりすぎて頭痛くなったわ…」
こめかみをグリグリ中の勇者様。
「御苦労様。うん?ルー殿は?」
「ルー?ええ、対戦中。いっぺんに4人と。反則ねあの生物は。絶対勝てないわ…」
「…おおぅ。さすが竜様。お玉さんとやらせたら勝負つくのかな」
「おもしろそうねぇ」
…いや、変に人間臭いお玉さんだ。ちゃぶ台返しを発動しそうではある。それはそれで面白そうだが。
「じゃ、風呂入ってご飯だね。」
「そうねぇ。明日出発だし。うん?ハルちゃん、それシャチ?上手ねぇ。」
「うん!しゃち!」
…!…おおう?見る人が見ればわかる…のか?




