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聖杯技?

 「いやぁ~昨日は面目ない!ミッツ殿ぉ!久々に美味いワインを頂いて。ちと飲み過ぎたようですわい。」

 翌朝、朝食の折にライル殿が詫びて来た。昨日はかなり飲まれたのだろう。

 おいらは毎度の事、子供達と共にさっさと撤収しちゃうからね。ですぐ寝ちゃう。

 腹膨れると睡魔が…年齢と共に抗う術がね…ははは。

 というわけで昨晩はビルックと会ってもいない…

 

 「二日酔いは大丈夫ですか?」

 顔色は良いようだけど。

  「無論。アレだけ上物のワイン、二日酔いなどないでしょう。いやぁ~楽しめましたぞ!」

 …そういう問題じゃないのだが…ま、名物公爵殿だ。これくらいは平気なのだろう。

  「それにルージュ名誉顧問もこちらにワインを回してくれるとおっしゃいますしな。”美食倶楽部”もますます充実する事でしょう。」

 「そうなんですか…ははは…良かったですね…」

 ルー殿…しっかり名誉顧問に収まったか…

 「それで、ライル様はここに?」

  「うむ。国境からセツナ様来訪の報があってな。彼女一人であったら…と思うてな。案内もせねばなるまい?ミッツ殿の同行の報は無かったでの。大方、警備の者も慌ててたのだろう」

 …ええ。大混乱でした。

 「それはお手数おかけしましたね。」

  「いや、なに。国としてもの。是非とも楽しんでいってもらわぬとな。で、今後の予定は?」

 「はい。明日、”魚村”に向けここを発つ予定です。往路か復路に王都による予定にしています。大体ひと月位でしょうか。」

  「ふむ。ついていきたい所じゃが…足手まといだの。ここで待たせてもらうか。帰りも寄るのだろう?」

 「ええ。ここは外せませんので」

  「うむうむ。本当に今まで知らなことが悔やまれる宿だ。わしの人生もっと華のあるものになったであろうにの。」

 「そう言っていただけるだけでコックたちの励みにもなりましょう。おいらも紹介した甲斐があるってものです。」

  「うむ。…ところで、ミッツ殿ぉ…チェスの…こう、必勝の陣やら策というのは無いのかの?」

 「は?チェス?いかがされました?」

  「…あ奴…アヴァロンめに良いようにやられての…」

 …ははは…なるほど…

 「…おいら、チェス得意じゃないんですよ…すいません、ライル様。」

 「じゃ、私が鍛えてあげるわよ。ライルさん。」

  「は!せ、セツナ様が直々に?こ、これは恐れ多く…」

 「もう。普通にしてくださいな。こんな小娘にぺこぺこして…お付きの方も驚いてますよ?」

  「いや、ははは。」

 「…すべての元凶はおじさまね。一体、何吹き込んだのよ!」

  「べ、別に…」

  <どれ、我も参加しよう。ライル殿、楽にすると良い>

  「は、はい。ルージュ様」

 「あんた、チェスなんかできるの?」

  <ふん!ルールさえわかればどうということはない。我は高次元の存在ぞ。>

 「へぇ。」

  <ふむ。信じておらぬな?先ずは駒の動き方からだな…>

 「面白そうですねぇ。私も混ぜてください。」

 レスト殿も参加するようだ。

 

 後で聞いたところ、言うだけの事…それ以上だ…さすがルージュ殿。

 ルールと駒の動きを覚えたら、セツナっちが作戦変えても全くぶれることなく”勝利”を収める。もちろん誰一人勝てることなく。そう、生体コンピュータのごとし。

 彼の頭の中では数十手先…いや、投了まで見えてるのだろう。我らと脳みその作りがまるっきり違うのであろうな…リバーシなら盤面真っ黒にされてしまうだろう。

 結局は反則レベルだと。

 勝負にならないとルー殿は外れたらしい。カラカラ笑っていたっけ。

 

 おいらは子供達と一緒に街に繰り出す。

 ライオットはこの町近郊に出没すると噂の鹿を追いに行っちゃったけどね。

 

 う~ん。うちの町も充実してきたからこれと言って必要とするものはない…なぁ。自動的に農産物やらを見に市に来てしまう。

 「ラグ。ハル、つまらないかい?どこか行きたいところはある?」

  「…大丈夫。何処でもお金につながるものはある。」「…ご飯!」

 …ラグよ。…ハルちゃんはまだ良くわかっていないようで一安心だ。が、もう腹ペコかい?ハルちゃん…

 

 屋台飯を摂りつつ市を覗く。新顔もちらほら。種、苗もあれば併せて購入。

 ラグの今の関心は果実のようだな。ジャムにでもするのだろう。

 っと、ぶつかって来た男をスルりとかわす。おかしな気配はない…ユスリタカリか掏摸スリの類だろう。おいらの懐には金なんかないよ。

 目があった途端に踵を返し…って、背後に控える鬼神殿とだな…おいらの頭の方見てたもの。が、遅い。カイエンどんに確保されてしまう。逃亡先にも斥候隊がいたけどね。

  

 「て、てめぇ!あにしやがるぅ!」

 あに?何だろうが…じゃなかったわ。

 「掏摸?タカリ?どのみちこのまま衛兵に突き出す。そこで言い逃れるんだな」

  「は!証拠あるのかい!みんなぁ!聞いてくれぇ!こいつ、俺をんぐへぇ」

 拘束する力を強めたのかな?

  「静かにせよ。門で”鑑定”を受ければすべてが知れよう。これ以上騒げばこの場で死んでもらうが?スリ程度であれば何も死ぬことはあるまい。」

  「けほ、げほ、はぁ!そんな…」

  

 「お、おい。アイツもとうとう…か。」

  「ありゃ逃げられねぇな。」

 ここらじゃ知れた奴ってことか? 

 

 「だ、旦那ぁ…か、勘弁してくれ…」

 「は?さっきの威勢はどうしたんだよ…とっとと引き渡しに行こう。」

  「まってくれ!子、子がぁ!飢えてんだよぉ!」

 「”鑑定”…何だ嘘か…さっさと行こう。大丈夫。スリと強盗の称号が生えてる。ここらの治安も良くなるだろうさ。」

  「はっ。では参りましょうか。」

  「ちっ!”鑑定”持ちかぁ!クソォ!は、はなせぇ!放しやがれ!このぉおお!」

 じたばた暴れるカス…面倒だが拘束するか。うん?ラグ?

 

 とことことカイエンどんにぶら下げられてる屑の下に。危ないぞ!引き戻そうと前に出るも

  「…ふむ…ごにょごにょ。…えい!麻痺れ!」

 ”ごっ!”え?

 ラグが杖でスリの頭を小突く。というより骸骨ヘッドの頭突き…だわな。

  「ひっく!…」

 手足をぴーーーんと伸ばし、硬直。微動だにしないスリ。すげぇな…魔法か?

 「ラグそれって魔法かい?」

  「…うむ!杖の特殊技。”身体封じ”。やっと実験できた。」「…おお!お姉!ハルもやる!」

 こらこらハルちゃん!杖出さんでいいって…しかし”魔封じ”と”身体封じ”か?やるな骸骨!

  「すごいですな。筋肉が収縮してカチコチに…かなりの硬度がありますな。岩位砕けそうだ」

 そういって棒切れでも振るようにブンブンとスリの身体を振り回すカイエンどん…おいおい。

 「おいおい。カイエンどん…途中で折れたら嫌だぞ…割れたり…」

 そんな見開いた目をしなさんな。安心しろ。そこまではさせないよ…。


 門の近くにある衛士の事務所に行き、スリを引き渡す。

 その場で鑑定石での罪状確認が行われ、裁判も無く、明日には斬首だろうと。早!賞金首のリストにも載っていたわ…押し込み強盗の訴えが多いとのこと。

  「ミッツ殿…この状態。暴れないで楽なのだが…いつ解けるので?」

 椅子に座らせることもできずに壁に立てかけられている罪人…

 「…そういえば…ラグ?その辺りは?」

  「…知らぬ。」「…知らない?」…。

 「…だそうです…スイマセン。」

  「い、いえ、構わぬが…」

  「隊長ぉ…これ、刃物通しますかね…石のように硬いですよ…」

  「うむぅ…。」

  「…隊長殿。解けるまで何日かかったか教えてほしい。…賄賂。」

 ちょこんと小樽のワインが置かれる。もちろんヴァートリーの特級ワインだ…。こら!

  「だ、旦那?」

 困り顔の隊長さん。その視線はおいらとラグの顔を往ったり来たり。

 カイエンどんは笑いをこらえるのに必死だ。おいらはさぞ間抜けな顔をしてるだろう…な。

 

 「は、ははは…ま、収めてください…報酬として。今後があるので教えて頂ければ幸いです。明日の朝…それ以降でしたら一月後にここに寄ります。あ、ヴァートリー商会に事付けでも構いませんので」

  「…うむ。これからも生け捕りにできて便利」「…うむ」

  「りょ、了解したよ。お嬢ちゃん。ワインご馳走さま…は、ははは。」

  「ははは…。」


 無事に?スリの引き渡しを終え、再び市場に…。

 おいら的には言いたいことは沢山ある…。が、この世界の常識に鑑みれば…ちょっとおませちゃんね!ってなレベルだろう。なにも間違っちゃいないわな…。むしろ良いことをしたんだ。お父ちゃん…複雑…

 そんなおいらの顔色を見てだろう、

  「…お父ちゃん…やり過ぎた?」「…お姉…」

 しょんぼり猫娘達。頭撫でちゃるよ!父ちゃんは!

 「う~ん。お父ちゃんは”正解”だと思うよ。犯罪者も捕まえたし。今後の事を思うと性能は把握しておいた方が絶対良いし。こんな機会でもないと試せないしね。…こんなところだけどどう?カイエンどん。」

  「ラグ様なら大丈夫でしょう。法に照らしても何ら問題はないかと。ふふふ。」

 「だってさ。ラグ。カイエンおじさんもオッケーだって。良くやったね」

  「…うん!」「…良かった!」

 …ははは…。

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