砂漠はしんどい
「うぉぉ…寒いな!おっさんの言う通り…砂漠舐めてたわ…死んじまう処だったわ…しかし、俺達は”収納で運び放題だけど他の連中はどうしてるんだ?着るものだって昼用、夜用だろ?テント水…」
「わかればよろしい。おいら達が出る前に駱駝のキャラバンが出ただろう。あれだろうなぁ。まぁ、魔法の国。マジックバッグや、魔道具もある。何とかなるんだろうさ」
「しかし…ミッツの旦那は寒さ熱さにお強いですね…ううぅ寒!」
「ふふふ!おいらにゃ、スラミちゃんが居るからな!」
”びゅるん”袖口からご挨拶。愛い奴じゃ!
「…喰われても知りませんぜ…」
「食べちゃダメだよ。スラミ。」
喰われんわ!きっと…たぶん…御願い!スラミちゃん!
轟轟と寒風が吹き荒れる…気温差の為せる現象か?
「ここまでだな…休もうか。日の出から昼前の間に動く。”整地!”」
「ふぅ~。ここまで厳しいとは。」
「私たちが行き来してるときはここまで厳しくなかったのですが…すいません使徒様。」
「何も謝る事はないって。ポリゴナ君。自然だ、自然。これこそ人知の及ばぬところだろうさ。さて、飯食って寝るべ。少しでも体力を回復させねば。」
簡易だが、夕食の支度。沢山作り置きしてるスープと、途中で狩った鹿を焼いたもの、後はパンだ。
「くぅ~うめぇ…温まる…」
「うん。生き返るね…」
「水も飲んでおけよ。」
「ほんと、便利だよなぁ。旦那は。」
「おい!これ以上の無礼は許さんぞ!」
「へいへい。」
ドネリーどんが先に怒るから、うちの鬼神が降臨する機会はない…。平和で何よりだ。
「ほれほれ!皆起きろぉ!」
”がんがんがん!”
古風に、フライパンを叩いてみた。効果抜群だ!
「ふぁああ…おっさん…まだ日の出前だぞ…」
「同時に動く。さ、飯食って休んでおくぞ。」
「…」
「引き返すか?」
「行く!」
結構頑固なのよねぇ。うちの勇者様は…
周囲が明るくなってきたので出発。勿論”魔纏”は必須。少しでも体力の消耗の助けにはなろう。
「前方に大きな蛇!」
「サイドワインダー?でか!5mはあるぞ!毒持ちだ!注意!」
「ふん!唐揚げにしちゃる!覚悟!っと!踏ん張りが利かねぇ!くそ!」
かろうじてかわしたようだが…危ないな。
「くっ!つぅ!」
「トワ様!手伝いましょうか!」
「いらん!とぅ!」
噛みつき攻撃をかわしつつ何とか倒したようだ。蛇も身体能力を生かし何度も跳ねて攻撃していたな。砂漠にすみ、特化した戦法だ。流石は砂漠の住人。
「ふぅ。ダンジョンの砂漠は足場がしっかりしていたが…」
「ふ~ん…ふむ。確かに歩きやすさが違うな…」
ダンジョンには床、底があるからか?それとも雰囲気を似せているだけか…どのみちこっちは本物だ。
蛇を”収納”に入れ、再び歩き始める。陽が登るにつれてだんだんと気温が上がって来る。
「少し休むか」
タープを広げ、簡易の日蔭を造る。砂糖と塩の塊。そして水分補給だ。スイカを出したいが…飛んでくる砂粒でジャリジャリなるだろう…復路用にダンジョンで塩濃い目の”塩飴”でも作るか…
「一気に飲むなよ。ゆっくりだ。」
「この水の魔道具良いですねぇ」
「ん?エレンに預けてあるバッグにも入れておいたぞ。ダンジョンで使え。」
「ありがたい!」
「ふ~。水が美味しい…ミッツ様、もう少し行ったら休憩でしょうか。」
「ああ。鐘一つ分も歩けば動けなくなるだろうなぁ。思った以上にしっかりした砂漠だわ。方向は大丈夫?」
「はい。大丈夫…だと思います。今のところコンパスも正常。夜確認しますね。」
「ああ。頼むね。それじゃ、出発すっか!」
{応!}
小さな岩塩を口に放り出発!しょっぺぇ~
「この辺りは礫砂漠か…気温もそろそろ限界だろう。此処で夕方まで休もう」
”砂屋敷”と勝手に命名。例の建物をだし、食事をとり、寝ることに。
少々熱すぎるので久々の氷魔法で氷柱を造る。熱中症になっては元も子もないからな。ふぅ…大変だ。
「しかし…普通の奴は行かれないな…どうしてんだ?」
「いえ。本来でしたら、オアシスの村々を順に巡りながら行きます。”勇者”様の力とお知恵で出来る、強行軍ですよ。」
「うん。お師様は様子見と情勢調査を兼ねてそっちのルートで向かってますよ。」
…”収穫”は情報だけにしてくださいね…お師さん…
「流石使徒様…」
「ドネリーはミッツの旦那に陶酔してるのなぁ。くく。」
「陶酔ではない。信仰だ。馬鹿め。」
「うぐ!」
「おいおい。拝んだってなにも出んぞ。しかしオアシスか…」
「個人で利用するには…ここも独占状態ですね。息のかかった案内人を雇わないと。」
「ふ~ん。困った連中だな…魔物より”人”に注意だな…ここは…さぁ、少しは寝ておこうか。」
夕方、再び砂漠を歩き始める。温度差100℃とは言うが…老体にはきつい…でもない。スラミのおかげだわな。感謝!そう言えば、スラミも乾燥するのであろうか…寝る前に水を上げよう…
「暗く、寒くなって来たな…良し、今日はここまでだな。」
再び”砂屋敷”をだし、室内に避難。
「ふぅう。さみいぃ、寒い。」
「一日の行程はこんな感じだ。頭領。勿論砂嵐などや、魔物との遭遇もあるだろう。後は、みんなの調子を見て、行軍なしの休暇日を作る必要もあるな。」
「そうですな。普通なら休暇など取れないもの。この出鱈目な”収納”のおかげですな。」
「そうだね。乗り物の魔道具が欲しいな…砂漠用の船…ホバークラフトみたいな?いいな!なぁ!おっさん!」
「今後の課題だな。まぁ、おいらはもう来ないけどぉ~」
「だよなぁ~おっさんだもの!次、連れ出すの苦労するなぁ。」
二度と来るか!この屁理屈大魔王を見事説き伏せてみせよぉ!
おまけ 砂漠の休日
「ふわぁ!すげぇなぁ!一面の砂!…カイエンどん、無理に付き合わずに。寝ていていいぞ。」
「なぁに、そんなに軟ではありませんぞ。」
「軟とかそういう問題じゃなかろうが。休めるときに休め。」
「私も砂漠というのは初めてでしてな。楽しもうと思います。」
「…解ったよ。ありがとう。茶でも飲むか。」
今日は珍しく風が無い…何で休日に限って…という思いはあるが…こればかりは仕方がない。自然様のご都合だ。
本当に何もないなぁ。砂・砂・砂。そして抜けるような青空。気持ちが良い。
「ミッツ様。あれを!」
「ん?おおぉ!動物もいるんだなぁ。」
耳の小さい、砂漠狐?マングース?中型犬くらいの大きさの動物が30頭くらいか。よく見ると。ところどころ砂漠の中に”緑”も見える。
近くに行って槍で突いてみても無反応…少し掘ってみたら…
「ハオルチア…かぁ。こうやって生えてんだなぁ…」
こいつは前の世界でもあった植物だ。砂に埋まって生育する。パイプ状の葉っぱの先が集光レンズみたいになっており、筒状の葉の中にある葉緑素で光合成をする変わった多肉植物だ。もちろん育てていたさ!採取していこう!砂も大量に持って行こう。帰ったら素焼きの鉢を焼こうか!
砂をほじくり返していると、小さい甲虫やら蜘蛛、蜥蜴など思った以上に生物がいる。魔物?魔魚か?魚がいた…ホウボウに似た姿でプレコみたいにカチカチの体表…すげぇなぁ!砂の中を”泳いで”いる。
「おお!亀もいるぞ!」
スッポンに似た亀が砂中から顔をもたげる。そういや、マル達は元気かなぁ。
「よく見ると様々な生物がいるものですな。」
「ああ。素晴らしいね。まだまだ知らない生き物も居るのだろうなぁ。」
生物だけではなく名産?の本物の”隕石”も落ちている。最近落ちて来た物か。砂の中に眠っていた物か…これぞ浪漫だなぁ!鑑定しながら拾う。50個くらい拾えたな。一番大きいのは拳大だ。
隕鉄どれくらいとれるんだろうなぁ。柳葉包丁にしてもらうか!
タープを設置し日蔭を造り、その下に椅子を置き砂漠を眺める。こういった時間も良いものだ。いや、本当の贅沢っていうモノだろうなぁ。何処までも広がる砂の山。雲一つない空。そして霞む地平線…。う~ん、茶が美味い!
「ミッツの旦那ぁ。優雅ですねぇ。」
「お!パテンス。茶飲むか?茶。」
「ええ。頂きます。ん?その石は?」
奇麗な結晶のある物、奇麗な色の物、金属塊みたいな鈍い光沢の物などを並べて鑑賞していたところだ。
「ん?ああ、これな。これが本物の”隕石”…”星の石”だな。」
「え?ええ!こいつがぁ?」
「何なら証明書も付けようか?ふふふ。」
「こいつが…ぅん?なら俺の買った物は…」
「あんな露店で売ってるモノに本物なぞあるわけなかろうが。」
「ええ、まったく。結構高いんですよぉ。本物は。おお!スタージュエル!これはこれは!」
「お!ドネリーどん、スタックも茶飲むか。」
「ええ。頂きましょう」
「ゴチです。使徒様。」
「なんてこった…」
「スタージュエル?響きが良いな!」
「へぇ。たまに”星の石”にこのように宝石が生えてるものが有るんでさぁ。星ダイヤとも言われていますよ。こいつは結構デカいからいくらつくやら…」
ほぅ!浪漫だな!
「いいなぁ~旦那ぁ~」
「ふん。これ以上借金重ねたら…そうだな…肉壁だな。」
「おいおい…まぁ、注意して見てみろ。結構落ちてるぞ。」
「まじ!探してこよう!」
「ストップ!一人で行くなよ!」
「おう!ドネリー付き合え!」
「ひとりで行け!」
「だから一人はダメだって。」
「むぅ…”使徒”様の命ならば…仕方あるまい。日当払えよ!」
「お…おう!」
…まったく。
「…旦那…無いんだけど…」
「そりゃ、この周辺はおいらが拾ったさぁ。」
「ふん。お前は集中力が足りんのだ。使徒様、観ていただけますか?」
「あっしのもぉ!」
ドネリーどんが8個。スタックが5個。
「い、何時の間に…どうせただの石だろ?」
…こら!
「うん。間違いない様だな。皆、”星の石”だな。」
「んなぁ!」
「ふん。欲に眩んだ眼には見えんのだ。」
「うむ。それを物欲センサーという」
「ああ…」
がっくりパテンス君。君は物欲センサーに愛されているらしいな。ふふふ。
「ん?賑やかだな。隕石自慢?俺も昨日拾ったんだ。ほら。」
トワ君が出したものは、ソフトボール大の隕石に青い大きな結晶がパイプウニのように生えている…
「…」「すごい…流石トワさまだ…」
「なんてこった…」
驚愕に目を見開くパテンス君。うん。欲に眩んだ目も吹き飛んだだろう。次から見つけられるさ!
「な!奇麗だろう!いいだろう~”ウニ石”だ!」
「うん。さすが勇者様だわ。」
ネーミングは微妙だが、さすがの勇者補正!




