家畜を観に
今日も何となしに牧場区へ。ロマーノさん達と話したい。特に要望は無いが、本当に何となくだ。おいらが来ると先方から見れば面倒この上ないだろうけど。あの区画は良い。のんびりするのに。只々ぼぅっとするのに最適だ。ここと、水田な。
「ロマーノさん、悪いねぇ。今日もお邪魔するよ~。」
「いえいえ、ミッツ様、良くいらっしゃいました。」
「いやぁ、なに。ここは本当に気持ちが良いからね。」
「ふふふ。そうですね。牛たちも大変リラックスしていますよ。草も直ぐに生えますので、牛追いも楽です。それと、小川の水…魔力が高いのでしょうか。喜んで飲みますねぇ」
「”魔の森”中層部以上の魔力に満たされていますから。魔物にならないよな…」
「大丈夫でしょう。…たぶん。」
ロマーノさんに許しを得て放牧地をブラつく。前みたいにフタコブ連れて来れば良かったかな。
おふぅ。此処にも丸虫(巨大ダンゴムシ)が居るのね…所々にある木の根元に固まっている。丸まったまんま…こいつら夜行性か?
ゲートを抜けると、また違う群が。
「お!旦那!いらっしゃい!」
彼は確か…
「ゴーダさんども。調子はどう?」
「前の牧場より広くて草の生える早さも早い。それに何と言っても”水”が良いねぇ!牛乳だって元をただせば”血”だ。魔力の多い水は増血の助けにもなる…と思う。実際、搾る量が増えたからなぁ。」
「何か足りないものはあるかい?」
「そうだなぁ。これだけの放牧地。まだ余裕もある。ここは頭数増やしたいところだが…まぁ、こればかりはなぁ。」
「前はどうやってたの?」
「隣の領から買い付けたり、たまにキャラバン、仲間内でやりくりなどなぁ。まぁ、ここは皆足りないし、当面は自分家の家で増やすしかあるまいなぁ。」
「う~ん。まだまだ高級品だもんなぁ。おいらだってあちこち探したもんなぁ」
「違いない。おかげで私らもこちらに来られたんですから。」
「おいらも運が良かったんだなぁ。生産者ごと連れてこれたしぃ。まだまだほしいが、当初予定(数頭の買い付け)より多いし。これからも頼んますよ~!」
「ええ!お任せください!」
その後もブラブラ。魔牛と違って追いかけてくることはない。各階に川と小山。ところどころに木がある。本当に似た景色だなぁ。よくも執行部の連中、調べたもんだわ。
所々で遭遇した他の牛主とも会話を楽しみ、折角なので昼を呼ばれる。
御馳走になったのはパンにこってり炙ったチーズをのせたもの。そう!アルプスの少女ハ〇ジ仕様だ!それと牛乳スープだな。日本のシチューのシャバシャバな奴だ。肉は入っていない。葉物野菜だ。これはこれですっきりと美味い。
前の世界じゃ胸やけコースだが…。是非ともバターや、チーズの製造、量産まで行きたいものだなぁ。
彼らの家の周りで放し飼いにされている庭鶏もうちにいない品種?っぽいので番で数羽分けてもらうことになった。七面鳥に近いのかな…原種?目つきが悪くて禿げてらっしゃる…ちょっと凶悪な鶏だ。
彼らも増やしている最中だと。養鶏の管理人も出してもらうか?追々だな。うちの子供達も熱心にやってるしな。
草原に腰掛け、ゆっくりと食休みを取らせてもらう。草原を吹き抜ける風。草のかほりを運ぶ。…時々牛のかほり…も…。
「良いものですなぁ。喧騒から離れるというのも」
「そうだねぇ。やっとこさ余裕が出てきたのかなぁ。…なんてな!バンバン稼がんと。異世界生活がエンジョイできん!」
「ふふふ。それで次はどちらへ?」
「本当なら帝国やら森林国のある北に行きたいところだが…トワ君が『砂漠のダンジョン』に行くぞ!!って騒ぎだすだろう…。たぶん、あっち方面だろうなぁ。」
「それはそれで楽しみですな。ダンジョンですか。」
「カイエンどんはそうだろうよぉ!おいらはちっとも…ん?」
袖口から、”びゅろん”とスラミちゃんが…いたのね…
「スラミちゃんも楽しみなのね…」
”ぷるぷる!”
うちは戦闘民族しかいないのかい!
続いてエメさんとこの豚さんを見に行く。ここは種類別に囲ってあるのだが…
おうおう。いるわ、いるわ!って…ありゃ、豚じゃねぇぞ。猪率が高いな…この柵の中、全部猪だろう…
「やぁ!ミッツ様!良くおいでに!」
「エメさん。お疲れさまです。しかし…猪でしょう?あれ。」
「ええ。狩りの時、子猪連れてると生け捕りにして連れてきてくれるのですよ。肥育して肉にします。あとは掛け合わせの種に。白毛豚との掛け戻しの第一号も生まれています。普通の豚との試験も徐々に。」
「なるほど…こっちの方が増えるのは速いよね。豚さんだもの。」
「はい。ドングリや、クリの木も一年中実るようですし…本当に不思議な場所ですね。トウモロコシの芯やら、トウモロコシ、豆、小麦なんかの穀物も回してもらっていますよ。それに牧草も良く食べますね。前の場所じゃ掘り返すだけであまり食べなかったんですが。余程美味しいのでしょう。」
「豚肉…かぁ。楽しみだねえ。」
「ええ、ええ。今の豚でも良いのですが…やはり、猪の血が入ると脂身が素晴らしいものになります。良い品種が固定できると良いのですが。これからに期待してください。」
その後もいろいろと圃場を観せてもらった。数種類の豚が確認できる。中でもモヒカンの黒豚…何気に格好良かったな。
そんな豚さんもあれこれ掛け合わされていくのだろう。今後に期待だな。
猪も豚も本当に泥あびが好きなのな…皆、泥まみれでガビガビだ。ケットシー族の長が小山と間違えるのもうなずける。寄生虫はそうそういないとは思うが…おいらも風呂好きだし。気持ちが良いのだろう。
家畜と野生の違いといいますか…のんびり昼寝してる豚さんに対して、あちこち駆けまわる猪。こちらが音を立てようものなら、耳を立て警戒態勢に。ふんす!ふんす!と鼻息も荒い。こう見てると可愛いものだが…いっつも追い掛け回されるからなぁ。おいら。
そうそう、ハム村(仮)や、【土竜亭】の豚も仕入れたいところだなぁ。またひと悶着あるかも?
お次は牛鹿。そういや、羊いねぇなぁ…ここら辺、温かいからなぁ…寒けりゃ、毛織も作るのだが…北の山間部かなぁ。会頭に聞いてみるか…
牛鹿の管理は主に子供達、学校で管理してる風でもある。
もちろん、畜産経験者の大人も付いている。”間引き”やら、”去勢”とかもあるしなぁ…。おいら的にもだいぶ慣れてきたけど…仕方ない。
ふぅ、白いポリのトレーに載った切り身のお肉が懐かしいよ。
それにしても大分増えたなぁ…ん?山羊もいるのか?あの目は慣れないな…キモい。丸焼きにして食うと言っていたが…
しばらく牛鹿を観察していると子供達が木のコップを持ってゲートをくぐって来た。
孤児院の子達かな。小さい子も混ざる。お姉ちゃんやお兄ちゃんに手を引かれながら。ふふふ。
「あ!使徒様!」「カイエン様!」「使徒様だぁ!」
「ん?今からお世話?頑張ってね。」
「うん!」
「赤ちゃんのミルクもらいに来たの!」
「温めてあげるんだよ!」
ふ~ん、殺菌かな?子育て未経験の独身のおっさんはどうしてもその辺りは疎い。
大きなトウモロコシや、小麦の袋から穀物を出し、餌箱を満たしていく。水場は、どうやらほかの所のように小川になったらしい。
「ほーーーーい!」「ほーーーーい!」「ほーーーい!」
子供達が呼ぶと牛鹿が集まって来る。よくもまぁ、慣れたものだなぁ。乳しぼりもお手の物だ。ちゃんとタオルで拭いてから器用に搾っている。
流石にダイレクトに吸い付く猛者はいないか。
お?ボスかな?のそり、のそりと一回り大きな、立派なお乳の牛鹿がやって来た。
「使徒様あ!巨乳!巨乳!」
「使徒様ぁ!みて!」
「きょにゅぅ!きょにゅう!」「おっぱい!」
「…誰だ…吹き込んだのは…」
「お労しや…くくく。ミッツ様…ぷぷく…」
…カイエンどん…。




