出立!
食後も本屋を物色。かなりの量の絵本を入手できた。こちらの絵本は、お貴族様や、商家のお子ちゃま向けに作られているために、装丁が豪華。その分、制作コストを落して市井に…とも思うが、民に余計な知恵をつけさせたくないのだろうね。内容も結構重いものがある。
まぁ、その点、現代日本にあふれる昔話をパクった、おいらの作ったなんちゃって絵本も好評だ。教訓めいたものもあるが…ま、概ね、ハッピーエンドだしな。また題材を考えねば。
『桃太郎』、『かぐや姫」系?物体から人が生まれるのは理解出来なくてブーイングの嵐だったがなぁ。それに何で真っ二つにならないのかと…。
『力太郎』については正体が意志の持ったスライム説が主流だ…。
『猿蟹合戦』みたいのはすんなり受け入れられた。”多神教”故にいろんなものに神が宿る…流石に牛の糞はスライムにしたがな。今の猿蟹合戦には出ないと聞いたが…牛の糞…寂しいなぁ。ウンコがしゃべって動いても良い…やだな。やっぱ。
『龍の子太郎』に関してはなぜか蜥蜴族の聖典になりつつある…
「お!ここの食器いいな!」
「またかよ~。」
ふふふ。今日はおいらに付き合ってもらおう。明日は出発だ。
「門番さん。迎えに来たんだが?」
ここは王のおわす王城。子供達をお迎えにやってきた。
「はっ!承っております!こちらです!」
キラキラな目でおいら達を見てる若い門衛さん。そりゃ、勇者様だもんな。おいらには眩しいわ。門衛さんに、控室に案内される。
そこに公爵のお使いとリスト殿が迎えに。彼らの案内で伯爵の元へ。
「どうよ?オッサン。体の調子は?」
「これはトワ様!ほれ!このとおり! ”ぐぎゅむぅ!” 肌や筋肉の張りも前以上ですぞ!」
「…元気そうで何より…今日、出立する予定だが…良いか?もちろん万全は尽くすが、何があるかわからんからなぁ。」
「ふふふ。トワ様の指揮する以上の隊はありますまい。我が家も武の家。覚悟もできていよう。」
「はい。父上。無様に人質になるくらいなら自ら命を絶ちましょう。」
「父上!心配無用です!」
…ったく。物騒な…
「おっさん。顔に出てるぞ…まぁ、そうならないようにしっかり護衛させてもらうよ。マール無理すんなよ。あれ?モフは?」
「ヨシュア様が散歩に連れて行きましたわ。」
「…本当に狼かあいつ…まんま、犬じゃん…」
”こんこん!”
『失礼します!』
「トワ様!よろしくお願いします!」
「ブラッシュだったな。こちらこそ。ん?」
「この度は世話をかける。愚息だがよろしく頼む。」
愚息…この国の王…か。なかなか誠実そうな人物だな。殿下といい、好感が持てる。
「ああ。任された。で、ブラッシュ、期間は半年か?」
「はい。今の所、高等部の入試までと考えています。今のところですが。それとこの者はミフィ。専属のメイドです」
「よろしくお願いしまぁす。トワ様。」
「わかった。後はヨシュアとモフか。荷物は我々が預かろう。」
「はい!よろしくお願いします!」
…。
「す、すげぇ!我が国にも3頭いるけど…こんなデカいバトルホース…ってか、これバトルホースですか、トワ様?」
「よくわからん。魔馬なのか?うちで馬から進化した連中だ。」
「…じゃ!うちの馬連れて行ったら…」
「付いてこれんぞ?普通の馬じゃ。馬車牽いてても。その気になれば夜でも走るからなぁ。こいつら」
”ぶるるるるるぅう”
「すげぇ…。」
「おいヨシュア。蹴られるなよ。出発前に死んじゃうぞ。くくく」「ふふふ」
「でも、ブラッシュ様!ヨシュア様!かっこいいですね!」
「ああ!特にこの馬具の出来といったら…トワ様!この装飾の角かっこいいですね!」
興味津々のヨシュア君。その角…本物なんだけど。
「ん?お、ヨシュア、触るなよ?知らん奴に触られると怒るぞ?」
「へ?」
”ぶるるるるるぅうううん…”
「うぉ!ごめんなさい!…す、すげぇ!」
「生えてる…のでしょうか?…すごい…」「かっこいい!」
「ほれ。乗った乗った。国を出るまでは…伯爵旗で良いな。殿下は一応お忍びだろう?」
「そうなのか?まぁ、いいや。ほんじゃ帰るか!”蒼”隊、出るぞ!」
{応!!!}
「かっけぇーーー!」
ヨシュア君…気が抜けるのだが…
衛兵の先導で城門、街中を通り、外郭の城門へ。伯爵家、国家の旗がはためいているので下馬しなくともよい。
「トワ様…トワ様が歩きなのに我々が…マールディアはともかく…」
「気にするな。俺たちは”商隊”。それに、このまま走る。まぁ。秘術だな。」
城門を抜け、いつもの通り人通りがない場所までは普通に進める。
「よし!もういいだろう!おっさん頼む!」
「あいよぉ~そんじゃ、安全に注意な!目的地はプロス!ご安全に”充填”!」
ぐん!この加速!驚きと興奮のヨシュア君と殿下の顔。ふふふ。結構癖になるな。
野営や休憩の時には進んで馬の世話を手伝ってくれるヨシュア君。余程魔馬が気に入ったようだ。
川で馬達をこすってる様など、新車をワックス掛けしてるようだ。
マール嬢はモフと歩行訓練。普通の生活には支障がないだろう。
リーラ君は木剣での素振り。あの親父だ。なかなかのものだ。殿下は何やら丸めた紙を広げて…予習か?真面目君だな!
うちの頭領は…ミフィちゃんにせがまれてお茶のレッスン。マメな男だ。
おいら?おいらは晩飯の支度だ。ついでに明日の昼食にうどんでも食わそうと思っている。只今こねこね中だ。道中は順調。このまま行けるといいねぇ。
…。
「ありがとうございます。トワ様。父上の事。妹たちの事…我が伯爵家大変お世話になりました。」
プロスに到着。ここで長兄、ヴォレット殿と別れる。代官としてオヤジの代行をするという。
「ああ。もういいって。感謝の気持ちは受け取った。マールとリーラは預かる。二人とも準備があるだろう?明日迎えにくるか?」
「いえ!大丈夫です!時間が惜しいです!すぐに出ましょう!準備はできております。プラナ!プラナぁ!出立します!荷物を!」
おっと。準備万端…まぁ、伯爵のケガはイレギュラーだものな。お供はプラナさんか。
「は~~~~い!お嬢様ぁ!」
「姉上!私は何を持って行けば…?」
おっと。リーラ坊ちゃんもイレギュラーだわなぁ。
「着替えを。下着類と、正装を一式。歯ブラシもね。」
「はい!」
”ばたばたばた…”
「兄上、リーラの…停…いえ、退学の手続きお願いします。」
「な!停学で良いのではないか?」
「どうせ戻りませんよ。2~3年、しっかり学ぶつもりです。」
「…分かった。手配しておこう。」
「マール。そんなに急がなくとも、町も、学校も逃げないぞ?ゆっくり準備すればいいだろう?」
「え、ええ。トワ様、そうですね。自由に動けると気ばかり焦ってしまって…4年の時間を少しでも取り戻そうと…あせってるのでしょうか?」
「ふふふ。希望というものだろうさ。良い傾向だと思うよ。それじゃ準備ができ次第出ることにしよう。」
「はい!”使徒”様!ありがとうございます!」
「…おっさんは米が気になってるだけだろう…」
「…なんちゅうことを…お主は…」
…図星だけどな!
…。
国境も問題なく通過。殿下たちもヴァートリーの丁稚という身分に満足してるらしい。アホな貴族ならば”無礼者!”と騒ぐだろうが、楽しむ余裕すらある。
「このまま何処にも寄らずにアヌヴィアトに向かうことになるが。」
「はい。お任せします。ですが、グロスティグマという大きな町がありますよね。」
「ああ。あの辺りは難民が溢れていてなぁ。ごたごたしてるんだ。しばらく続くだろうなぁ。」
「そんなことが…」
「ディフェンからでしょうか?」
「そのようだね。政治が全く動いていないようだ。なにやらとんでもないアホが玉座に座ってるとか?そろそろ逃げ出すんじゃないかな?いい加減、刺されるだろう。」
「聖王国あたり…でしょうか?」
「いや、王は繋がりもあろうが、今の公爵だったか?奴にはないだろうさ。周辺国は属国のような物とでも思ってるだろうから適当に行くんじゃないかな?獣王国以外で。」
「亡命…許されるのでしょうか?」
「はぁ、そんな奴送り返せばいいだろう?ブラン。」
「あれだけの”罪人”だから送り返しても大丈夫だろうけど、本来ならば受け入れざるを得ないね。度量のない国と思われちゃうからね。」
「「めんどくせぇなぁ」」
トワ君…ヨシュア君と一緒かい。
「まぁ、俺は気に入った奴しか入れねぇけどな!」
「ああ。うちは特殊だ。それでいいよ。特にトワ君は…」
「なんか引っかかるな。まぁ、いいや。じゃ、急ごうか!斥候、悪いが散ってくれ。保護対象の確認頼む!」
「はっ!」
「保護の対象でしょうか?」
「ん?ああ。獣人族を盾にするような屑もいる。それと”盗賊”に落ちた農民もな。同じ農民を襲ってる。ったく…」
「!…多くの人命が奪われるのでしょうか。」
「ディフェンの愚かな政策、この辺りの領主の愚策…ある意味、愚かな指導者による人災。殿下もこの事案。良く考察されたらいかがかな。」
「…はい。」




